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「黒谷青龍寺」は慈恵大師・良源を開基とし、若き頃の法然上人が遁世して仏道修行に励んだ寺院とされていて、比叡山の中でも辺境になる寂しい場所にあります。
比叡山には東塔・西塔・横川の3つのエリアがあり、その中には16の谷が存在して「三塔十六谷」と呼ばれるといいますが、「黒谷青龍寺」はそれとは別に「別所」と呼ばれる谷になるという。
黒谷は古くより俗世と関わりを断ち切る隠遁の地となっていたということもあり、鬱蒼とした山中の谷に青龍寺はありました。
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千日回峰道の分岐の辺りでこの日唯一見た人は、若そうな女性がアウトドア系の服装に行者が使うような長い杖を持ちチンチンと鳴る錫杖か鈴のような音が聞こえて気が付いた。
横川方面への峰道を歩いていかれるようでしたが、どこまで歩いていかれるのだろうと思いつつ、当方は熊鈴をカランカランと鳴らしながら黒谷への道を下ります。
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「黒谷青龍寺」は寺院の方は車の通行が可能なようでしたが、道は未舗装の林道が続きます。
しかし“谷”と名が付く場所ですので、途中からただひたすら下るのみの道に変わります。
30分くらい谷を下ることになりましたが、下りた分だけ登り返さないといけないのが辛そうです。
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墓石が並ぶ参道まで来ると青龍寺の山門が見えてきて、正面には石仏が祀られている。
本堂の横にも大量の石仏や石塔が祀られており、これは比叡山全体に言えることですが石仏が各所に見られます。
信長の比叡山焼き討ちで亡くなられた方の菩提と弔われてきた歴史があるとされており、この石仏の多さは山麓の仰木の辺りまで見られます。
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山に連なる斜面には石垣が積まれていて、寺院は誰も来ないような山の中にひっそりと、厳粛に祀られている。
山門前に車が1台留まっていたが、おそらく青龍寺の方が来られているようでした。
後述しますが、寺院の手前の長い石段は車も通れるようになっているようであるが、慣れた人でないとかなり危険な道に見えます。
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山門から境内に入ると、まず目に飛び込んでくるのが4本の巨樹杉と真ん中にある天満宮の祠です。
比叡山の修行自体が俗世との関わりを断つことことから始まっている側面がありますが、「別所」としての青龍寺は比叡山中の辺境の寺院と呼べると思います。
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境内の山側には城郭を思わせるような石垣が積まれ、苔に覆われた場所もあります。
本堂の前の椅子に座って境内を眺めていると、寂寥感が心を覆うが、逆に気持ちが落ち着いて行くような感覚にも陥ります。
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建築は本堂・小堂・鐘楼などがあり、鐘楼は撞いても良いようなので撞かせて頂きましたが、寺院に詰めておられる方をのぞいて、撞いた鐘の音が聞こえる範囲に人はいないように思えてしまいます。
青龍寺は天台宗の寺院ですが、法然上人の特別霊場ということがあって、管理は浄土宗総本山の知恩院が行っているといいます。
正式名称は「比叡山黒谷青龍寺」ですが、浄土宗では「元黒谷」というといい、比叡山の信仰の多様性を感じることが出来ます。
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本堂は予約拝観かと思っていましたが、実際に行ってみると拝観可能となっていて、内陣での参拝が可能です。
堂内には御朱印の必要な方は版木を叩いて下さいとあり、障子を開けた廊下に確かに版木が吊るしてあり、御朱印をもらいに来られる方が多いのかもしれません。
予約拝観の寺院だと思っていたので、黒谷青龍寺の境内や建物などの雰囲気を感じて戻ろうと思っていたにも関わらず、内部拝観させて頂けたのは嬉しい出来事でした。
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参拝を済ませて本堂から出ると、屋根の下に木のベンチがあり、そこに座ってしばらく境内を眺めてみます。
境内の石碑にある法然上人の『月影のいたらぬ里はなけれどもながむる人のこころにぞすむ』という言葉を噛みしめてみる。
右側には青龍寺で修行を開始した頃の「法然像」、隣には天台宗真正派(本山・西教寺)の開祖・真盛像が並び、法然像の右側にはたくさんの石塔が祀られていました。
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山門の外には先ほど降りてきた石段の急勾配が待っている。
歩く場合は真ん中を歩き、寺院の方が車を使用する際は両端の滑り止めのある部分にタイヤを載せて移動されるようです。
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石段の端には無数の石塔が並びます。
名も知れぬ、名も残さず、生きてその生涯を終えた人々の菩提が祀られているのでしょう。
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これより谷からの登り返しを進み、もう一つの目的であった西塔の「椿堂」特別公開を拝観したいと思います。
西塔エリアでは「にない堂」「釈迦堂」に参拝して、最後に横川の「元三大師堂」や「横川中堂」にも参拝したいと思います。
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