桜庭一樹著「私の男」2007年10月文藝春秋発行、を読んだ。
25歳の独身男性「淳悟」に引き取られた両親を亡くした9歳の娘「花」。家族を持てなかった二人だけの壊れた家族、禁断の愛。ロリコンとファザコンの共存関係、近親相姦。
ひょろと背が高く姿勢が良いが、退廃的でどうしようもない無職の「淳悟」が興味をひく。一方、子供のときからどうしようもなく女である部分を持つ暗い「花」。彼女のおとうさんへの愛、そして上手い文章がドロドロした話を幾分和らげる。
始まりはこうだ。
私の男は、ぬすんだ傘をゆっくりと広げながら、こちらに歩いてきた。日暮れよりすこしはやく夜が降りてきた、午後六時過ぎの銀座、並木通り。・・・雨宿りしていたわたくしに、ぬすんだ傘を差しだした。その流れるような動きは、傘盗人なのに、落ちぶれ貴族のようにどこか優雅だった。これは、いっそううつくしい、と言い切ってもよい姿のようにわたしは思った。
初出は、別冊文藝春秋2006年9月号―2007年7月号
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)
「お好みで」としたが、こんなどろどろした小説を好む人は少ないだろう。ただ、頼り合った二人の独特の世界を描き切っているのは間違いない。
16歳上の男で、しかもお父さんに対し、「私の男」という言葉が女のすごさを際立たせる。作家の山田詠美が、黒人のパートナーが婦女暴行容疑で逮捕されたとき集まった記者に、「私の男が刑務所に入るくらいで騒がないでよ」といった趣旨の話をしたのを思い出した。
桜庭一樹(さくらばかずき)は、1971年島根県生れ。
女性である。コンピュータゲームシナリオ、ライトノベル、SF、ミステリー、一般小説など活動の場を広げてきた。午前中に執筆し、午後から1冊以上の本を毎日読むという。負けた。私のブログで数えてみたら、10ヶ月で133冊、ひと月13.3冊。約2日に1冊のペースだ。
1999年「夜空に、満天の星」でファミ通エンタテインメント大賞受賞
2007年『赤朽葉家の伝説』で吉川英治文学新人賞候補、日本推理作家協会賞受賞、直木賞候補。
2008年『私の男』で直木賞受賞。
2009年お笑い芸人の友野英俊と結婚。