伊藤比呂美著「女の絶望」2008年9月、光文社発行を読んだ。
伊藤しろみ(比呂美)が新聞連載の身の上相談をもとに書いた本。相談者は10代から60代まで主に女性。悩みは、夫婦のセックス、恋愛、不倫や離婚、さらに更年期、介護の問題などなど。
両親はもちろん、自分も、夫も老いてきたしろみさんが、「更年期の女」の絶望を、あからさまに、しかし気品を保ちながらユーモラスに江戸訛りで語る。泥沼の離婚を繰り返し、両親介護のため在住のカリフォルニアと熊本を行き来し、詩や小説を書き、様々な経験をしたしろみさんが語る。
しろみさんの答えがまた、具体的で実践的でありながら、深い諦観と親身な愛に基づいている。なかでもお得意分野は、セックスだ。あからさまに詳細に答える。こんなこと本当に新聞に書いたのだろうか。
タイトルは「女の絶望」で、たしかに絶望しているのだが、あきらめ、諦観、開き直りから、明るく、女としての共感に満ちみちている。中年女性はもちろん、男性にもお勧めだ。
「休日など二人でどこかへ出かけて、疲れて帰ってきたときに、自分が立ち上がってお茶をいれる奴隷根性に絶望しています。それをごくあたりまえの事のようにのほほんとしている夫のことも憎たらしくてたまりません」(投書)
ね、ここですよ。絶望、と。(しろみ)
夫のことですが、いまだに、あたしから見りゃ、ふるいつきたくなるようないい男なんですけども、ええ、他人からみれば、ふるい落としたいような爺さんとしか見えませんな。そのくらいのことはわかるだけの、客観的な目が養われてきたってえことです。
女は男からのメールを待つことがたやすく人生の中心になっちゃうし、どうも、男はならないようなんです。・・・会える喜びよりも、会えない時間ののたうちまわらるような苦しみ。・・・
うちの亭主が、ソバカスはかわいいといってんだから、ああ、ソバカスがあってもよかったなあと思えば、いいんですよ。・・・ところが、どうゆうわけか、そうは思えない。・・・
キレイになりたいというその欲望は、まさにわが内にあり。
キレイとは、つれあいである夫の目ではなくて、男の目ですらなくて、よその女の目を基準につくられているのだという真理を、発見しました。
ね、ここですよ。絶望、と。(しろみ)
夫のことですが、いまだに、あたしから見りゃ、ふるいつきたくなるようないい男なんですけども、ええ、他人からみれば、ふるい落としたいような爺さんとしか見えませんな。そのくらいのことはわかるだけの、客観的な目が養われてきたってえことです。
女は男からのメールを待つことがたやすく人生の中心になっちゃうし、どうも、男はならないようなんです。・・・会える喜びよりも、会えない時間ののたうちまわらるような苦しみ。・・・
うちの亭主が、ソバカスはかわいいといってんだから、ああ、ソバカスがあってもよかったなあと思えば、いいんですよ。・・・ところが、どうゆうわけか、そうは思えない。・・・
キレイになりたいというその欲望は、まさにわが内にあり。
キレイとは、つれあいである夫の目ではなくて、男の目ですらなくて、よその女の目を基準につくられているのだという真理を、発見しました。
初出:「小説宝石」2007年5月号―2008年4月号
伊藤 比呂美(いとうひろみ)は、1955年東京生まれ。詩人、小説家、エッセイスト。カリフォルニア在住。青山学院大学文学部卒業。
1978年『草木の空』で現代詩手帖賞受賞。
1993年『家族アート』で三島由紀夫賞候補、
1998年「ハウス・プラント」で芥川龍之介賞候補、
1999年「ラニーニャ」で芥川龍之介賞候補、野間文芸新人賞受賞。
2006年『河原荒草』で高見順賞受賞。
2007年『とげ抜き新巣鴨地蔵縁起』で萩原朔太郎賞受賞。2008年、紫式部文学賞受賞。
西日本新聞で人生相談「万事OK」を連載中。
主な著者、『おなかほっぺおしり』『伊藤ふきげん製作所』『人生相談万事OK』『日本ノ霊異(ふしぎ)ナ話』『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)
女性はもちろん、男性にも読んでもらいたいが、セックスの話があからさまなので、毛嫌いする人はいると思う。更年期なんてまだまだ遠い話で、「そんな年になったら男なんて関係ないじゃない」と思っている若い女性も読んでみるとよい。人生そして人というものは思ったよりも深いものだということがわかると思う。
これだけドロドロした世界を女性たちは泳いでいるのか。私は、この本を読んで、女性に生まれなくて良かったとあらためて思った。
目次
出囃子 カルメン前奏曲
卯月―ふうふのせつくす
皐月―おんなのぜつぼう 五月晴れ
水無月―子ゆえのやみ 長雨梅雨時
文月―みをこがす 梅雨明け前
葉月―へいけいのこころえ 暑い
長月―ちうねんきき
神無月―みんなのしつと 夏が過ぎた
霜月―りこんのくるしみ
師走―これから 冬
睦月―おおきくなつたら
如月―えろきもの 春めいて
弥生―さいごはかいご 梅か桜か