小川糸著「食堂かたつむり」2008年1月、ポプラ社発行を読んだ。
25歳の倫子(りんこ)は、突然、恋人に家財道具一式を持ち逃げされ、失語症となる。失意のまま大嫌いな母の住む実家に戻る。祖母に習った料理しかできることがない倫子は、実家の離れで食堂「食堂かたつむり」を開業する。客は一日一組で、面接した客に合わせたメニューを提供する。やがて訪れた客は願いが叶うと噂になり、・・・。失意の倫子がお客を元気にし、倫子も楽しく過ごすようになるが、最後の方で母・・・。
二つだけ引用する。
私は思うのだけど、女系家族の気質というのは、必ず隔世遺伝するのではないだろうか? つまり、おかんは貞淑すぎる実の母親に反発してそれとは正反対な波乱万丈な生き方を選択し、その母に育てられた私は、そうはなるまいと反発し、また、それとは正反対の地道な生き方を選択する。永遠のオセロゲームをしているようなもので、母親が白に塗り替えたところを、娘は必死に黒に塗り替え、それをまた、孫は白に塗り替えようと努力する。
題名、食堂名、「食堂かたつむり」の由来は、
あの、小さな空間をランドセルみたいに背中にせおって、私はこれからゆっくりと前に進んでいくのだ。
私と食堂は一心同体。
私と食堂は一心同体。
小川糸は、1973年生れ。山形市出身。
2007年、絵本『ちょうちょう』
2008年、本書小説『食堂かたつむり』はベストセラーとなり映画化。
2009年『喋々喃々(ちょうちょうなんなん)』
2009年『ファミリーツリー』。
fairlifeという音楽集団で、作詞を担当。編曲はご主人のミュージシャン水谷公生。
ホームページは「糸通信」。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)
夢見る乙女か、のんびり・温かに憧れる女性、あるいは自分だけの特別料理を作りたい人にはお勧め。情景が眼に浮かぶので、映画化したくなる小説だと思う。
吉祥寺の仲道、昭和、大正通りには女性が自分な好きなものだけを並べた、何屋さんだかわからない小さな店がいくつも並んでいる。おなじように、料理好きな女性は、自分だけの小さな食堂を開く夢を持つ人が多いのだろう。失意の中で本当にやりたいことを、自分の手元だけで実現するという物語は多くの女性の理想であり、共感を呼ぶのだろう。
最後の方の劇的な展開は、それまでの静かな流れを乱し、付いて行きにくくする。
また、食事のメニュー、料理法がよくでてくるのも、食べたり作ったりに興味ない私には乗れない。