羽田圭介著『スクラップ・アンド・ビルド』(文春文庫は48-2、2018年5月10日文藝春秋発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
「じいちゃんなんて早う死んだらよか」。ぼやく祖父の願いをかなえようと、孫の健斗はある計画を思いつく。自らの肉体を筋トレで鍛え上げ、転職のため面接に臨む日々。人生を再構築中の青年は、祖父との共生を通して次第に変化してゆく――。瑞々しさと可笑しみ漂う筆致で、老人の狡猾さも描き切った、第153回芥川賞受賞作。
健斗は28歳で、資格試験の勉強を自宅でしながら転職活動中。入居後40年経つニュータウン内の多摩グラントハイツに母と87歳の祖父と3人暮らし。モールのDCブランドショップ店員で4歳下の亜美と交際している。企業の中途採用には何度も落ちるが、あまり気にしていない。
ほとんど健康体といってもいい祖父だが、口癖は「もう死んだほうがよか」。
3年間面倒を見てきた母は、できることは自分でさせようと、実の父親である祖父に容赦なく厳しくあたる。健斗も数時間おきに用を足す祖父がアルミ製杖をつく音のせいで眠りが浅くなるなど、祖父に嫌気がさしていた。
健斗はふと、祖父に何もさせないような介護をして、弱らせて、祖父の願いを自然にかなえるようと考えて、実行し始める。
祖父の体が弱っていくのを見た健斗は、使わない能力は衰えると実感する。健斗は必死に厳しい筋トレやジョギングを続ける。
祖父をおぼれるはずのない水位の風呂に入れ、トイレに行くため出てきた健斗が戻ると……。
初出:「文學界」2015年3月号、単行本:2015年8月文藝春秋刊
羽田圭介(はだ・けいすけ)
1985年東京都生まれ。明治大学商学部卒。一般企業に就職するが1年半で退職し専業作家に。
高校3年の時、「黒冷水」で文藝賞受賞
2008年「ミート・ザ・ビート」で芥川賞候補
2014年「メタモルフォシス」で芥川賞候補、野間文芸新人賞候補
2015年本作品「スクラップ・アンド・ビルド」で第153回芥川賞受賞
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
87歳の祖父が衰えていく一方で、並行して28歳の健斗は必死で体を鍛える様子は良くかけている。裏にある祖父の狡さも、母の厳しさも巧みに表現されているが、スケールが小さいし、深くもない。
昔、「黒冷水」を読んで、高3でこんなひねた小説書く羽田圭介はどう伸びるのか心配したのを覚えている。細かな心理を描く手法はあまり変わっていない。長編は書けるのだろうか? 綿矢りさと同じく、若くしてデビューしても、このままでは大物にはなれないと思う。