小川糸著『ツバキ文具店』(2016年4月20日幻冬舎発行)を読んだ。
鎌倉の鎌倉宮の脇を山へ向かう道の途中にある小さな一軒家に住む雨宮鳩子、通称ポッポちゃんは、先代のあとを継いで、ツバキ文具店と代書屋をを営んでいる。お悔み、離婚の報告、絶縁状、天国から妻への手紙など様々な代書の依頼が舞い込む。鳩子は、依頼人の話を聞いて、本人の奥の気持ちもくみ取って、文章を練り、紙に書きつける。依頼に最も適した筆記用具、紙、インクを選び、封筒や切手にもこだわる。
例えば透き通るような優しい心を伝えるためにガラスペン、セピア色のインクとベルギー製クリームレイドペーパーを選び、男文字に適したモンブランの「マイスターシュテュック149」と「満寿屋」の原稿用紙を選んだ。
最初の依頼は、全身カルピス模様のマダムカルピスからで、砂田さんのところの権之助のお悔やみ状だった。飼っていた〇だった。白い巻紙に薄墨で書いた手紙の実物写真がp27,28に掲載されている。
夏秋冬春と4章に分かれ、季節に合わせ、口絵にある鎌倉の地図にある実在の店で食べ、歩き、買い物し、ひと休みする。
鳩子は代書屋になるべく厳しく育てられた先代である祖母に反抗し、ヤンキーになったり、家を飛び出し外国を放浪し、祖母の最後にも間に合わなかった。しかし、周囲の人々とのふれあいを通して、次第に祖母への感謝の気持ちや後悔の念が、心の奥の方から表に出てきた。
鳩子は、いつも身ぎれいで明るい隣に住むバーバラ婦人や、店先のポストに投函してしまった手紙を回収したいと頼んできたスタイル抜群の小学校教師楠帆子(通称パンティー)、友人への謝絶状を依頼したダンディな着物姿の男爵や、幼い友人QPちゃんなどに助け、助けられ、次第に感情がほどけてきたのだ。
初出:GINGER L.18~21
2017年4月NHKで多部未華子主演でドラマ化された。
本文中にある数点の実物手紙(写真)は、菅谷恵子氏の作品。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
いつもの小川作品の心折れた女性の復活物語であるが、他の小川作品よりいっそう、ほんわか、のんびり、心温まる話になっている。
NHKドラマを思い出してしまい、バーバラ婦人はあの強烈な江波杏子の姿にとらわれてしまった。ドラマ、映画は印象が強烈なので、本を読んだ後で見る方がよいと思う。
何回も折に触れて行った鎌倉の光景、場所、店、寺などが登場して懐かしかった。例えば、私のこのブログ「鎌倉を江ノ電で」で、「ちょっと変わったスタバがあった。」と写真を載せているが、この本でこれが、漫画家の横山隆一さんの邸宅がそのまま使われているスターバックス御成町店だと知った。
小川糸(おがわ・いと)
1973年生れ。山形市出身。
2008年、『 食堂かたつむり』イタリアのバンカレッラ賞、フランスのウジェニー・ブラジエ小説賞受賞
2009年『喋々喃々(ちょうちょうなんなん)』
2009年『ファミリーツリー』
2010年『つるかめ助産院』
その他、『あつあるを召し上がれ』『さよなら、私』、『にじいろガーデン』『サーカスの夜に』
エッセイ『ペンギンと暮らす』『こんな夜は』『たそがれビール』『今日の空の色』『これだけで、幸せ 小川糸の少なく暮らす29か条』
絵本『ちょうちょう』
fairlifeという音楽集団で、作詞を担当。編曲はご主人のミュージシャン水谷公生。
ホームページは「糸通信」。
代書屋は偽物だという鳩子に先代は言う。
「自分でお菓子を作って持って行かなくても、きちんと、お菓子屋さんで一生懸命選んで買ったお菓子にだって、気持ちは込められるんだ。」