hiyamizu's blog

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柚月裕子『あしたの君へ』を読む

2018年07月31日 | 読書2

 

柚月裕子著『あしたの君へ』(2016年7月30日文藝春秋発行)を読んだ。

 

表紙裏にはこうある。

家庭裁判所調査官の仕事は、

少年事件や離婚問題の背景を調査し、解決に導くこと。

見習いの家裁調査官補は、先輩から、親しみを込めて

「カンポちゃん」と呼ばれる。

「カンポちゃん」の望月大地は、少年少女との面接、事件の調査、

離婚調停の立ち会いと、実際に案件を担当するが、

思い通りにいかずに自信を失うことばかり。

それでも日々、葛藤を繰り返しながら、一人前の家裁調査官を目指す―

 

第一話「背負う者」(17歳 友里) 窃盗犯の少女は、なぜ偽りの動機を語るのか
福森家庭裁判所調査官室には、42歳の真鍋恭子の下に、離婚や相続を扱う家事事件担当6名と、少年事件担当6名がいる。少年事件担当に代わって5年になる溝内圭祐は大地の上司。

末席の望月大地は22歳、180cm近くで、愛想のない顔なのに、家裁調査官補なので“カンポちゃん”と呼ばれる。

 

鈴川友里は17歳でコンビニのアルバイト。3週間前に小林正春28歳をラブホテルに誘って10万円近く入れた財布を盗んだ。友里の件は大地が担当とされた。ほとんど話をしない彼女の稼いだ金の使い道に、大地は疑問を持ち、自宅を訪ねる。友里の母・直子はビルの清掃員だが、ほとんど働いていなかったし、妹杏奈は中学を卒業したが、引きこもっていた。

 

第二話「抱かれる者」(16歳 潤)  ストーカー犯の少年は優等生に見えたが……
大地と同期の藤代美由紀は小柄だが沈着冷静でロジカル。同じ同期の志水貴志は付き合いが悪い。

 

星野潤は進学校に通う高2。別の高校の高1の相沢真奈へのストーカーで家裁送りになった。潤はすらすらと反省の弁を述べるのだが、……。自宅はすべてが整い過ぎていて、母親の良子はでき過ぎで、単身赴任中とはいえ父親・譲の気配はなかった。美由紀は「完璧主義の裏にあるものは、自己批判と劣等感」とつぶやく。

 

第三話「縋る者」(23歳 理沙)  幸せそうな同級生の、意外な告白
大地は駿河湾に面した折笠市の実家に正月に帰省した。結婚して二歳半の子供がいる理沙が言った。「望月君は、未熟な自分が他人の人生を左右するような仕事をしてもいいのか悩む、って言ったよね。でも、自分では問題を解決できずに、調停委員や家裁調査官という他人に、縋るしかない人間もいるの。」


第四話「責める者」(35歳 可南子)  理想的な夫と、離婚を望む妻。その真相は
大地の仕事は家事事件対応に変わり、上司は32歳の露木千賀子になった。案件は朝井可南子35歳からの、精神的虐待を理由とする夫・駿一との離婚調停だった。駿一の評判は申し分なかった。医師は言う。「モラハラの加害者は、外ではいい人を演じるんです。」「モラハラの被害者は、お前が悪い、と加害者に思い込まされるんです。」


第五話「迷う者」(10歳 悠真)  息子の親権を主張する母親の秘密とは

離婚申立人は片岡朋美35歳、夫は伸夫46歳。小5の悠馬の親権を争っている。

別居している朋美の部屋を訪ねた大地は、そこに……。

 

 初出誌:「オール読物」2014年8月号、11月号、2015年2月号、5月号、2015年11月号(迷う者「旅立つ者」から改題)

  

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

望月大地が、少年犯罪や離婚の問題の表面だけでなく、自宅を訪ねるなど実情を調べることで裏に隠れた本当の問題の根っこを探し出す。経験不足で、気が回らず、不器用な困っている者の何とか役に立ちたいという想いだけで彼が真相、そして妥当な解決策に迫っていく過程が良くかけている。

 

ダイナミックさや、ミステリー性はないし、どちらかというと暗い話は著者には適していないと思うが、でもいろいろな試みにチャレンジする態度は良しとしよう。(上から目線)

 

 

柚月裕子 経歴&既読本リスト

 

 

 

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