桐野夏生著『路上のX』(2018年2月28日朝日新聞出版発行)を読んだ。
宣伝文句は以下。
幸せな日常を断ち切られ、親に棄てられた女子高生たち。ネグレクト、虐待、DV、レイプ、JKビジネス。かけがえのない魂を傷めながらも、三人の少女は酷薄な大人たちの世界をしなやかに踏み越えていく。最悪な現実と格闘する女子高生たちの肉声を物語に結実させた著者の新たな代表作。
飲食店を営む両親にごく普通に育てられ伊藤真由(まゆ)は高校1年。父・伊藤伸一は飲食店経営に失敗し、弟・亮介は名古屋の母・英子の姉の家に、真由は埼玉の父の弟・叔父の靖に預けられ、伸一と英子は夜逃げしたらしく、4人家族はバラバラになった。
古く狭い公団に住む叔父は非正規雇用で酒ばかり飲んでいる。妻の幸恵もパート勤めで、小学生の絵莉と瑠那がいて、生活はギリギリ。幸恵は真由に辛く当たり、叔父は何も言わない。生活が激変した真由は惨めな境遇に荒れて幸恵とのケンカが絶えない。
真由が通う公立高校も荒れていて、叔父の家にも居場所がなく、渋谷に出た。スカウトの米田の勧誘に対して、高校4年だというミックが注意するように言ってくれる。ミックの毒牙からも危うく逃れた。やがて、学校を抜け出し、叔父の家から万札を盗んで、渋谷へ行き、店主の木村に頼んでラーメン屋「ゲン兵衛」でバイトをし、休憩室に泊まる許可を得た。ある夜、チーフが襲ってきて、……。
カラオケの個室で知り合ったリオナこと涙華(るいか)は17歳。母親の何番目かの継父に中学の時に性的虐待を受け、母・睦美は見て見ぬふりで、家出し、女子高生を装ってJKビジネスで暮らしている。一時、実父・隆治の母のキミエに出会い、営んでいる小さなバー「プーちゃん」で一緒に暮らしていたが、火事で店は焼け、祖母も死んで、リオナはまた渋谷へ戻ったのだった。リオナと真由の二人は、リオナが泊まっている駒場東大前駅そばの秀斗のマンションへ行く。秀斗はゲーム三昧のMケのある東大生だ。
2年ぶりにミトこと聡美からリオナに電話があり、3人一緒になり、秀斗を監禁してマンションで暮らし始める。………
初出:「週刊朝日」2016年1月22日~2017年2月3日
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
なにしろ女子高生の視点で語られるので、たとえ平凡であっても5倍もの人生を生きてきた爺さんは、幼すぎて、じれったい。
家出少女が渋谷でどんな危険な目にあうのかはよくわかる。言葉巧みなスカウトや、10歳もさばを読み女子高生の恰好で味方づらしてJKビジネスに誘い込む女、あわよくばと狙うロリコンの店主など、毒牙から逃れるのは大変だ。
ごく普通の家庭で育った真由が極貧の生活を受け入れられず、父母がいずれ迎えに来るかもと思い込もうとして現実逃避したり、崩壊家庭で育ったリオナ達とは違うと生きるための悪事にためらったりする。しかし、やがて二人は助け合って生きていこうと決心する。
ただし、ラストシーンは明るくもなく、とりたてて暗くもなく、どんやりと終わる。
桐野夏生(きりの・なつお)
1951年金沢市生れ。成蹊大学卒。
1993年『顔に降りかかる雨』で江戸川乱歩賞
1998年『OUT』で日本推理作家協会賞
1999年『柔らかな頬』で直木賞
2003年『グロテスク』で泉鏡花文学賞
2004年『残虐記』で柴田錬三郎賞
2005年『魂萌え!』で婦人公論文芸賞
2008年『東京島』で谷崎潤一郎賞
2009年『女神記』で紫式部文学賞
2010年『ナニカアル』で島清恋愛文学賞、2011年同作で読売文学賞 を受賞。
その他、『ハピネス』、『夜また夜の深い夜』、『奴隷小説』、『だから荒野』、『抱く女』。
野原野枝実(のばら のえみ)の名で少女小説、レディースコミック原作を手がけていた。
村野ミロシリーズは、第1作の『顔に降りかかる雨』、『天使に見捨てられた夜』、『水の眠り灰の夢』、『ローズガーデン』、『ダーク』