道尾秀介著『風神の手』(2018年1月30日朝日新聞出版発行)を読んだ。
"火振り漁"が行われる西取川がある田舎町の遺影専門の写真館「鏡影館」を舞台とする3代にわたる物語。些細な嘘が繋ぐ4編の連作中短編
第一章 心中花
死を目前にした母・藤下奈津美が娘・歩美(あゆみ)と鏡影館を訪れる。そこで、崎村の父の遺影を見つける。27年前、高校2年生で、当時姓が中江間だった奈津美は、西取川の火振り漁で出会った漁師の崎村源人と愛し合うようになる。しかし、奈津美の父の会社・中江間建設が川の汚染事件を起こして倒産し、街を去ることになった。
第一章の途中、空白の一ページがあり、次ページからは、今また街に戻った母・奈津江が娘・歩美に昔話を語る。
第二章 口笛鳥
巧みな嘘で真鍋カメラ店からコダックのコンパクトカメラを万引きした小学5年生の“まめ”(茂下駄昴)は、カメラ店の息子だという“でっかち”(佐々原學)にカメラを取り上げられそうになる。まめとでっかちは親友になり、互いに遊びで嘘をつきあう。でっかちの叔母・智絵などが登場。
空白の一ページがあり、次ページからは、大人になった“まめ”が、鏡影館をはじめた“でっかち”を久しぶりに訪ねる。
第三章 無常風
高校2年の崎村の息子・源哉は祖父の遺影を見るために鏡影館を訪ね、藤下歩美と出会う。
事故後の事件で倒産した中江間建設に代わって大きくなった野方建設を夫から引き継いだ野方逸子の秘密が明かされる。
エピローグ 待宵月
大学生の源哉、看護師の歩美、でっかちの息子・創(はじめ)などがペットボトルでウミホタルの罠を作り、海に投げる。
本書に関する著者インタビュー「第58回 道尾秀介さん 嘘が物語のはじまり」(小学館 小説丸)
初出 「口笛鳥」:朝日新聞2014年11月4日~2015年3月11日、その他:「小説トリッパ―」
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
舞台は、火振り漁が行われ、河口が近いためクラゲが漂う西取川がある小さな田舎町の写真館を中心の限られた空間だ。そこで、少数の人々が3代にわかり織りなし、絡みあうローカルながら詩情豊かな生活が積み上げられていく。
人々のなにげない嘘や、嘘と見えて実は嘘ではなかった話が、人の人生を変える。しかし、結果として変わってしまった人生が必ずしも不幸にはつながらなかったりする。
私としては、はしっこい“まめ”と、ぼーとしている“でっかち”の凸凹コンビの嘘のつきあいが、少年時代を思い起こさせてくれ、「いいなあ! この種の話」。
『透明カメレオン』で引用したのだが、道尾さんが友達から嘘をつかれた件を話していた。
小学校の友だちで、カメレオンを飼ってるってウソをついてた友だちがいたんです。・・・そいつのうちに遊びに行った。そうしたら、玄関にあった造花のところにカメレオンがいるって言い張るんですよ。「茎に見えるけど、よく見ると尻尾でしょ」って。で、そう思って見ていたら、だんだん本当にカメレオンが見えてきた。いまにも動き出しそうな気がする。信じればそこにいるんだ、と思った・・・。