知念実希人著『優しい死神の飼い方』(光文社文庫、ち-5-1、2016年5月20日光文社発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
犬の姿を借り、地上のホスピスに左遷……もとい派遣された死神のレオ。戦時中の悲恋。洋館で起きた殺人事件。色彩を失った画家。死に直面する人間を未練から救うため、患者たちの過去の謎を解き明かしていくレオ。しかし、彼の行動は、現在のホスピスに思わぬ危機を引き起こしていた――。天然キャラの死神の奮闘と人間との交流に、心温まるハートフルミステリー。
本作品は、7章よりなる連作短編集だが、全体として一つの長編にもなっているので、最初から順を追って最後まで読んだ方が良い。
なお、本作品に続く作品が『黒猫の小夜曲』だ。
人は未練を残して死ぬと「地縛霊」となってしまう。
そんな世界のホスピスに死神の「レオ」はやってきました。犬の姿で。
彼の目的は、人々の未練を解消し地縛霊になるのを阻止するためです。
そして死神のレオは、死に直面する人々の未練を解消するために様々な謎を解明していく、というミステリー作品です。
プロローグ
本作品の主人公の死神、本人曰く高貴な霊的存在は、死者を『我が主(あるじ)様』の天国へと導く道案内の仕事をしていた。未練を残して死に、そのまま地上に留まる「地縛霊」が多くなり、彼の成績が悪くなっていた。上司にその言い訳を『彼らが生きているうちから接触でもしないかぎり、成績を上げることは困難なのです』と口走ってしまったゆえに、人間界に犬の姿となって左遷されてしまった。
彼はホスピス『丘の上病院』近くの雪の中で美人の看護師・朝比奈菜穂に助けられ、「レオ」と名付けられ、病院で飼われることになった。
- 死神、初仕事にとりかかる
レオは地縛霊から発せられる「腐臭」を嗅ぎ取り、末期がんの南竜夫の夢の中に入りこみ、彼の未練を探り出す。終戦の少し前、18歳だった南は、駆け落ちしようとしていた丘の上の洋館に住む檜山葉子が結局婚約者を選び、自分は裏切られたと思っていた。
レオは、本当は葉子が…… - 死神、殺人事件を解明する
孫こと、金村は、昔、経営していた貴金属店が倒産し、露出した部分のない服装をした両親と息子・亮介が住むお化け屋敷の丘の上の家へ宝石を盗みに入り、屋敷の主人を殺してしまった。レオは、殺人犯は……。 - 死神、芸術を語る
内海直樹は屋敷に住んでいた亮介が気に入って、20枚以上の絵を売った。見知らぬ男が汚されたこの絵を売りに来て、絵が大切にされていなかったと思った内海は描く気をなくした。やがて癌を患った内海はかっての屋敷のホスピスに入ったが、残りの絵も見つからず、すべて捨てられたと思った。…… - 死神、愛を語る
レオは病院の庭で、かっての道案内仲間の死神に出会う。(後編『黒猫の小夜曲』にも同じ話が登場)
4人目の未練に縛られた患者は院長の娘で、告白できない医師・名城への愛だった。レオは初めて任務としてではなく、自らの「意思」で仕事することを決心した。彼女の名は……。 - 死神、街におりる
レオは死神仲間から、このホスピタルの7,8人が地縛霊となると聞いた。レオと菜穂は7年前屋敷で起こった殺人事件の2,3ヶ月後、金村を脅していた闇金業者が・水木・近藤・佐山だったことを見つけ出した。レオは菜穂にすべてを打ち明けて……。 - 死神、絶体絶命
- 死神のメリークリスマス
- エピローグ 略
最後の3行はこうだ。
さて、それでは改めて自己紹介するとしよう。
私は犬の姿をした天使である。
名前はレオという。
かってこの病院に住んでいた美しく、心優しい娘から授かった大切な名だ。
本作品は2013年11月光文社より単行本刊行。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
全体として、想定の範囲内のお定まりの展開で通俗的すぎるが、楽しく読める。ホスピスの患者はまもなく亡くなるのは想定できるので、暗い話になりがちだが、怨念を晴らすということで、辛くなり過ぎずに話を進めていく。
死神の、最後の方で天使と言い換えるが、レオはかっては冷静に仕事を成し遂げるだけで人間について余計な興味も感情も持たなかった。人間は、感情に動かされ、論理的判断ができない愚かものだと思っていた。そのレオが人間社会の中に犬の形で生活するように追いやられて、人間の愚かさを実感するとともに、自分の利益を差し置いて他人を思いやる暖かい心を持つことに、心を打たれるようになる。この過程が「いいじゃない!」。
高貴な霊的存在であることに誇りを持つレオも、犬に乗り移っているために、シュークリームを与えられたり、頭を撫でられたりすると、意に反してよだれが出てしまったり、しっぽを振ってしまったりするところが、ほほえましい。