岡田尊司著『きょうだいコンプレックス』(幻冬舎新書390、2015年9月30日発行)を読んだ。
表紙裏にはこうある。
きょうだいは同じ境遇を分かち合った、かけがえのない同胞のはずだ。しかし一方では永遠のライバルでもあり、一つ間違うと愛情や財産の分配をめぐって骨肉の争いが起こることもある。実際、きょうだい間の葛藤や呪縛により、きょうだいの仲が悪くなるだけでなく、その人の人生に暗い影を落としてしまうケースも少なくない。きょうだいコンプレックスを生む原因は何なのか? 克服法はあるのか? これまでほとんど語られることがなかったきょうだい間のコンプレックスに鋭く斬り込んだ一冊。
自己愛のバランスの良い成熟のためには、その人の自己愛が十分満たされつつ、少しずつ自己愛の満足を断念していくというプロセスをたどっていく必要がある。
未熟な自己愛の親にかかると、・・・子どもを押しのけて、いつのまにか親や大人の方が話題の中心にいる。主役になっている。
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自己愛的な親は、従順で扱いやすい子どもを自分のペットのように手なずけ、一番のお気に入りにする傾向がある。気骨があり、自分の信条や信念を持つような人間は、煙たい存在でしかない。つまり、見どころのある子どもほど、しばしば自己愛的な親からは疎まれることになる。
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母親は意識するしないにかかわらず、姑が世話をした子よりも、自分が世話をした子と強い愛着の絆を結び、余計に愛情を注いだのである。
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・・・村上春樹は、一人っ子として育った。・・・たとえば、若き日の村上自身が色濃く投影されていると思われる『ノルウェイの森』の主人公を特徴づけているのは、他者との心からのつながりを避けようとする傾向である。こうしたパーソナリティ上の特性は、精神医学では「回避性」と呼ばれる。
回避性は、他者と深く親密なつながりを避けるだけでなく、責任を負うことや傷つくことを避ける傾向としても現れる。
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
詳細には書かれることが少なかった兄弟の確執、そしてそこに至った親の育て方に絞って書いた点は評価できる。
事例が多いので理解はしやすいのだが、一例でも良いのだが、いま一つ心の奥に襞に入り込む分析、たとえば学会に発表するような詳細な分析、がないと、並んだ事例を流し読みして、当たり前の解説を読むような気がしてきて物足りない。
確かに、未熟な、つまり自己愛の親が兄弟をえこひいきすることで、兄弟間の確執が生まれるだろうことは理解できた。そして、愛情を受けることが当然だと育った子どもが成功しても思いの行き届かない人間になったり、愛に飢えてできたひがみをばねにした子どもが大成したりすることがあるなどの流れも、事例を読めば、説得力ある。
多くの事例が提示されていて、解りやすくて良いのだが、その多くは極端で悲惨な例で、読み進めるうちに兄弟がいることが、とんでもなく悪い事のように思えてきた。
岡田尊司(おかだ・たかし)
1960年香川県生まれ。精神科医。医学博士。作家。現在、大阪府枚方市の岡田クリニック院長。
東京大学文学部哲学科中退。京都大学医学部卒。同大学院で、研究とパーソナリティ障害や発達障害治療に従事。山形大学客員教授。
著書に『アスペルガー症候群』『境界性パーソナリティ障害』『人はなぜ眠れないのか』『あなたの中の異常心理』『うつと気分障害』『発達障害と呼ばないで』『真面目な人は長生きする』『母という病』『父という病』『愛着障害』『人間アレルギー』。
小説家・小笠原慧として、横溝正史賞を受賞した『DZ』『手のひらの蝶』『風の音が聞こえませんか』など。
目次
第1章 きょうだいは他人の始まり
第2章 きょうだいコンプレックスと自己愛の心理学
第3章 きょうだいコンプレックスと愛着
第4章 生まれ順の心理学
第5章 きょうだいという亡霊
第6章 きょうだいコンプレックスは克服できるのか