貫井徳郎著『さよならの代わりに』(幻冬舎文庫、ぬ1-2、2007年8月10日幻冬舎発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
「私、未来から来たの」。劇団「うさぎの眼」に所属する駆け出しの役者・和希の前に一人の美少女が現れた。彼女は劇団内で起きた殺人事件の容疑者を救うため、27年の時を超えて来たというのだ! 彼女と容疑者との関係は? 和希に近づく目的は? 何より未来から来たという言葉の真意は? 錯綜する謎を軽妙なタッチで描く青春ミステリ。
プロローグ――二年後
主人公の白井和希(かずき)は、片思いのクールでモデル並みの美人の智美(さとみ)さんとカフェで近況報告している。和希は下っ端の劇団員。《うさぎの眼》は有名な俳優で主催者の新條雅哉を尊敬する20人弱の者が集まる劇団。
2年前。和希は劇団の前で落としたコンタクトを探している可愛らしい萩村祐里と出会う。新城の大ファンで、プレゼントを渡したいと言われる。その後、さらに祐里は、楽日に劇団ナンバー2の佳織の控え室に人が入らないように見張っていてほしいという変な頼みをし、理由は話せないという。結局、和希はその通りにしたのだが、自分の出番の時だけは同期の剣崎に頼んだ。
そして最終日。無事講演が終わった直後、圭織が控室で殺されていた。空白の時間は剣崎がトイレに行っていた3分間だけだったのだが。
最後にタイトルが登場。(p509)
祐里はさよならの代わりに「またね」と言った。そうだ祐里、また会おう。ぼくは運命を変えられると信じている。 キミにもう一度会えると、ぼくは信じている。
劇団《うさぎの眼》
和希:入団2年目。身長は高く、顔もまあまあだが、智美さんに完全に片思い。バイトでしのぐ貧乏暮らし。
新條:劇団主催。TVにもでる有名俳優。43歳の既婚者だが不倫も多い。
圭織:和希と入団同期だが、看板女優でNo.2。新條と恋仲との噂。公演楽日に刺殺される。
名倉:新條の付き人。モデル並みの体と顔。劇団員には不愛想。
荒木:舞台監督
剣崎:和希と同い年で入団年もほぼ同じ。親しい友人。猿顔だがすぐに女性と仲良くなる。
小春:和希より下で小柄でまあ可愛い子。剣崎と付き合っていたが、今は中堅どころで面倒見がよい橋本と。
映子:中学生のような童顔だが21歳。和希の後輩の川辺と恋仲。
萩村祐里:清楚で可愛いく、都内の女子大の3年生だという。
玉井:刑事。相棒は若い生田。
この作品は2004年3月幻冬舎より単行本として、2006年1月幻冬舎ノベルスとして刊行。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
劇団主催者の唯一の有名俳優であり、指導力もある新條を崇拝し、貧乏暮らしをものともせず、なにかというと飲み会になる若い劇団員たちの群像がよく描かれている。
謎:清楚かと思うと、度胸があり、祐里の本当の姿が最後まではっきりせず、謎をひっぱっていく。圭織を殺した犯人も最後の最後まで謎のまま。なぜ殺したのかの説明は十分ではないのだが。
未来から来た人の話は、ターミネーターなど数多くある。具体的に現代社会へまったく一人で放り出さラたらお金、泊る所、習慣など困ることは数多くあるだろう。この本は、そんな未来人の生活の困難さも実感させてくれた。
過去を変えられないというタイムスリップの原則に挑戦しようとする祐里の無謀さに驚く。
何回もタイムスリップを繰り返すという話はややこしい。タイムスリップする度に、より数か月前はタイムスリップするのだという。その間の記憶は残っているので、数か月後のことが分かっているという話だ。
虚仮(こけ)の一念:愚かな者がひとつの事にひたむきに打ち込むこと