神田茜著『オレンジシルク』(2016年4月25日新潮社発行)を読んだ。
2018年6月に『一生に一度のこの恋にタネも仕掛けもございません。』と改題。
新潮社の宣伝文句は以下。
三十歳で恋愛経験ゼロ。ダメな私が一目惚れした相手はイケメンの人気マジシャンだった。無理な恋、でも彼に近づきたい。仕事をやめてマジックの世界へ飛び込んだものの、恋も芸も前途多難。気持ちが折れかけたとき、不思議な巡り合わせが……一人の女性が心の殻を脱ぎ捨て、違う自分に出会うまでを柔らかなユーモアで描く長篇。
天野印子(インコ):キヨミは親友。30歳独身。地元の四葉信用金庫勤め。
キヨミ:印子の親友。30歳独身。建設会社勤務。無表情でファッションセンス0。
北川ヨネ太郎:キヨミの彼氏。マジシャン。
タカミユウト:「マジックバー シマノ」で働く女性に人気のマジシャン。
マモル:ユウトのアシスタント。
神谷支店長:四葉信用金庫の支店長。趣味はマジック。
相沢喜久子:信金の顧客。82歳。結婚前は松洋斎天鈴。印子と支店長は天鈴姐さんと呼ぶ。
マジ―光司:印子が弟子入りしたマジシャンの師匠。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
正直に言います、読む前ははっきり言ってバカにしていました。読みやすくスイスイ読めたのは想定範囲でした。もともとそのために読んだのですから。でも、マジックの裏側、師匠と身の周りの世話をする弟子の関係、寄席の演者側の裏側、モテない30女二人の頼りあい、引っ張り合う友情関係など興味引く話がゾロゾロ。
後半、どんどん挑戦的になっていくインコちゃん。ご都合主義だって? 「いいの!」(CMの(長澤)まさみちゃん風に)。楽しいんだから!
そして、最後にもう一つ。私がこの物語で最も楽しんだ部分。それは「女の友情」。たったひとりの友人・キヨミに対する印子の態度といったら、もうひどい。容姿をボロクソに批判し、ファッションをこき下ろし、恋愛などしたことがないはずだと決めつける。キヨミも負けじと、見下したことを言い放つ。これは友情のふり? ならふたりは、本当は嫌い合っているの――?
これもまた虚構と真実のミルフィーユの一部なのだ、とだけ言っておこう。
以下、雰囲気だけご紹介。
それにくらべてキヨミは、何年もクシを通していないのかというほど毛の絡んだおかっぱ髪といい、爬虫類っぽいヘラ形の指といい、鼻の下のうぶ毛といい、女性としてはマイナス百二十点くらいだろう。
若くは見えるかもしれないがそれは、女性として成熟していないせいだ。今年から三十路になったのだから、成人女性としての期間を経ないまま男性化してしまう可能性もある。女子学生からいきなりオッサンになるパターンだ。(p8)
もしもユウトの部屋にきれいな女性がいて、わたしが揃えたキッチン用品を使って、わたしよりもずっと本格的なハヤシライスを作っていたとしたら、わたしはマンションの廊下にへたり込んでコンクリートの床に溶けて染み込んで、地縛霊になるかもしれない。(p154)