一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

8月23日の蕨将棋教室(前編)

2020-09-07 00:48:12 | 蕨将棋教室
植山悦行七段が講師を務める蕨将棋教室は、コロナ禍の関係で4月から教室を休止。8月9日(日)にようやく再開したが、生徒は大人の3人のみだった。開催場所の蕨市立文化ホール「くるる」は市の運営なので条件が厳しく、教室最大収容人数が「9人」に制限されている。それにしたってこの生徒数は寂しく、だからというわけではないが、8月23日(日)夕方、出向いてみた。
蕨駅を出て、立ち食いソバ屋でかけそばをたぐる。川口駅と同じ経営店だが、川口は駅構内、蕨は改札口の外にある。店を出ると和菓子屋が出張販売を行っており、家用に大福を買った。
W氏にメールをして、今日の出席人数を聞こうと思ったが、意味がないのでやめた。午後5時50分ごろ、そのままくるるに入ると、植山七段がエレベーターに乗るところだった。中にはYos氏もいた。
「あれ大沢さん久しぶり。頭が……」
「はい、だいぶ薄くなりました。髪の毛の色素までなくなってきましたよ」
「ああ大沢さんはそっちのほうからハゲてくるんだねえ。○さんと同じタイプか」
ハゲ談義をしている間に、3階に着いた。先客はOku氏である。Oku氏は教室一の常連で、植山七段との指導対局(平手)に滅法強い。
私は早速指導対局となった。
私「平手でしょうか」
植山七段「ボクが先手でもいいんだよ」
植山七段は平手歓迎主義で、有段者相手には抵抗なく平手にする。私は畏れ多いのだが、ありがたく?平手に甘えさせていただいている。

初手からの指し手。▲7六歩△8四歩▲2六歩△3二金▲2五歩△8五歩▲7七角△3四歩▲8八銀△7七角成▲同銀△2二銀▲3八銀△3三銀▲7八金△6二銀(第1図)

将棋盤は布製で、以前のものと微妙に違う。
「あれ大沢さん、その将棋盤を知らないということは、相当に『久しぶり』だよ」
とW氏。私が蕨将棋教室に訪れるのは昨年の11月26日以来。その前となると、2017年11月28日以来だ。大野教室もそうだが、蕨にもだいぶご無沙汰していた。
ちなみに教室の開講時間は午後6時~8時だが、これは表向きである。蕨は子供たちの受講が多いので、成人の指導対局はそのあと、という暗黙の了解があった。施設は最大9時半まで貸してもらえるので、私はいつも7時ごろに入室し、のんびり指導を受けていたのだ。よって今回定時に入ったのは、かなり珍しかった。
▲7六歩△8四歩に、少し迷ったが▲2六歩とした。以下角換わりとなり、第1図が作戦の岐路である。

第1図以下の指し手。▲4六歩△6四歩▲4七銀△6三銀▲3六歩△7四歩▲6八玉△9四歩▲3七桂△7三桂▲2九飛△8一飛▲4八金△6二金▲1六歩△1四歩▲5六銀△5二玉▲9六歩△5四銀(第2図)

第38回NHK杯の羽生善治五段を見習って棒銀も考えたが、植山七段はうまくいなしてくるのだろう。ふつうに▲4六歩とし、腰掛け銀を目指した。
Yos氏は私の左に座り、飛車落ち。植山七段は△5二金~△6一玉~△7二玉と微妙に定跡手順を変えて、Yos氏を困惑させている。それでもYos氏はしっかり定跡通り指していた。
Oku氏は私の右斜め前の席に座った。たっぷりソーシャルディスタンスを取っている。こちらは前回の指し掛けから進めるようだ。
「指し掛けまでの手順を忘れちゃって、参ったよ」
と植山七段が自嘲する。それを横目にOku氏が駒を動かしている。見たところOku氏は棋譜用紙を用いてないが、頭の中に入っているのだろうか。
私の将棋は、お互い飛車を引き右金をまっすぐ立つ、例の形。私はこういう最新形は指したくないのだが、ここは定跡の力に頼るしかない。

第2図以下の指し手。▲5八玉△4四銀▲2四歩△同歩▲同飛△3三桂▲2九飛△6五桂▲6六銀△2五歩▲同桂△同桂▲同飛△3五歩(第3図)

植山―Oku戦は、5五銀を植山七段が同角と取った。これは植山七段の角銀交換の駒損だ。植山七段、この将棋も苦戦のようである。
▲2九飛~▲4八金型の唯一の弱点は、駒を捌きあったあとの△4七歩や△4七銀の反撃であろう。それがイヤだから私は▲5八玉と形を直したが、これで手番が後手になってしまった。もっとも角換わりの場合、途中でパス合戦があるから、この手待ちは気にしない。
植山七段は△4四銀。私はありがたく飛車先の歩を交換したが、植山七段は△3三桂と突っ張ってきた。
4人目のお客が来て、4面指し。ここまで植山七段は座っていたが、ついに立たざるを得なくなった。
▲2九飛に△6五桂。これには▲8八銀とし▲6六歩を狙う手もあるが、△5七桂成と自爆する手もあるし、綺麗には取り切れない。それで▲6六銀と上がった。
そこで△2五歩。▲同桂には△2一飛▲3三桂成△2九飛成があるので、▲3三桂成で▲2六歩と謝るか。これで悪くないと見たので、堂々と▲2五同桂と取った。植山七段は何事かつぶやき、△同桂。これは▲同飛で、1歩得した私がいい。
植山七段は△3五歩。なるほどこれが1歩損の代償か。これを▲同歩は△3六角があるから取れない。そこで私がひねり出した手は。

(つづく)
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2年振りの蕨(後編)

2019-12-16 00:20:29 | 蕨将棋教室

第5図以下の指し手。▲5三歩成△4六飛▲5二と△1七銀▲同桂△同歩成▲同香△同香成▲同玉(第6図)

Tod氏の将棋が終わり、時間の余ったTod氏がW氏と将棋を指し始めた。W氏が実戦を指すのは珍しく、今日はいいものが見られた。
私は▲5三歩成とした。△同金直なら、▲6六角△同角▲5三飛成△同金▲6二飛(参考A図)で技ありだ。しかし上手にも▲5三飛成の瞬間△1七銀があるなど、かなり際どい。

植山七段は△4六飛ときたが、私は目をつぶって▲5二と。自玉は詰めろでないと判断した。
植山七段は△1七銀から清算したが……。

第6図以下の指し手。△2五桂▲2八玉△7七角成▲4二と△同玉▲5一銀△3三玉▲1七歩(第7図)

このあたりで、Ok氏が顔を出した。Ok氏とは将棋ペンクラブや社団戦で何度か会っているが、将棋教室では珍しい。しかしOk氏がどこに住んでいるか知らないが、熱心なことだ。
だがよく聞くと、Tod氏が私へより先に、メールしたらしい。Tod氏はいったい何なのだ。
第6図で植山七段は長考した。出した答えが△2五桂▲2八玉を決めてからの△7七角成で、自玉を拡げるとともに詰めろだ。私は桂を補充される手はまったく見えていなかったので、飛び上がった。
とりあえず▲4二とと金を取り▲5一銀も決めるが、△3三玉に詰みはない。
しょうがないから▲1七歩と詰めろを防いだが、相手玉への詰めろになっていないのが残念だ。だがここでも、植山七段が考え込んでしまった。

第7図以下の指し手。△1六歩▲同歩△同飛(第8図)

W氏は盤を片付け始めた。もう21時は過ぎているが、まだロスタイムはあるだろう。この熱戦が打ち切りになることはないと思った。
私は△1六歩と合わせられるくらいでも負けだと思っていた。然るに植山七段は唸っている。ということは、私が気付かない攻防手があるのだろうか?
植山七段は△1六歩。まあそうであろう。▲同歩△同飛。次の詰めろがほどきにくい。

第8図以下の指し手。▲5七角△4六香(投了図)
まで、86手で植山七段の勝ち。

私は攻防手が見えず、▲5七角とした。だがこれは自分の飛車先を塞いだので、詰めろになっていない。
植山七段は△4六香。ここで私は投了した。W氏が終了してください、と発したのとほぼ同時だった。
だが植山七段は納得がいかない表情だ。

「ここで▲2九金と受けられていたら」
「エッ!?」
第8図から▲2九金(参考B図)と打つ。

なるほどこれは、まだ下手が粘れそうである。それで植山七段は唸っていたのだ。だが私にはまったく見えていなかったからしょうがない。前局は最後の受けばかりを考えていたが、今回は攻めのほうに目がいっていた。まあ、これが私の実力ということだ。
「こっちも△7四銀が働いてないからな……」
と植山七段がつぶやいた。植山七段は遊び駒にウルサイのだ。(追記:読者より、「参考B図から△1七飛成で詰みなのでは?」のコメントがあった。おっしゃる通りで、これで上手勝ち。植山七段ともあろう人が、エアポケットに入ってしまったようだ。私も気付かず、お恥ずかしい限り)
とにかくこれで、今日はオワリである。結局21時30分までいてしまった。
晩飯は、近くの「なか卯」に行った。最近はここがレギュラー食事処のひとつらしい。私は食事済だが、ここで帰るわけにも行くまい。
2階へ上がると誰もいない。「いつもほぼ貸し切り状態だよ」とW氏が言う。確かにこれなら、気兼ねなくおしゃべりできる。
私は牛丼、植山七段はカレーだ。テーブルは2つに分かれたが、植山七段、Tod氏、Ok氏、と私が同じテーブルになったので、4対2になってしまった。
植山七段はカレーのルーとライスを徹底的に混ぜ、食す。ちょっと珍しい食べ方だ。
食後は雑談になったが、私は状況が状況なので、心から楽しめない。
「このたびは中井先生、女流王位リーグ入りおめでとうございます」
「そうなの?」
「……」
植山七段は相方の成績にあまり関心がないようだ。
Yos氏が、明日が早いので、と帰る。それなら私たちも……となるところだが、ほかに客がいないのをいいことに、私たちはまだおしゃべりを続けてしまう。
植山七段は佐藤康光九段の才能を高く評価した。そういえばOg氏も佐藤九段を評価していた。きっと、プロ筋にしか見えないチカラがあるのだろう。
「最近私も強くなった気がしますよ。ワハハハ」
植山七段は上機嫌で、何よりである。
W氏がTod氏に「ここで将棋を指せば?」と言う。さっきW氏が、あとで将棋を指せると言っていたのは、ここなか卯でだったのか?
まあさすがに将棋は無理である。さすがに散会となった。
店の前で、やっと飯野愛女流初段の結婚の話になる。相手が一般人と聞いて植山七段は意外そうだった。まあ、男女の仲は分からないものだ。私が言うのも説得力はないが。
Tod氏、Ok氏と駅まで行く。Ok氏はここ蕨在住で、そのために教室に寄ったらしかった。
久しぶりに植山七段に将棋を教えていただき、楽しかった。また機会があったら参加したい。
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2年振りの蕨(中編)

2019-12-15 00:17:32 | 蕨将棋教室

第4図以下の指し手。▲2八飛△6七銀成▲7八金△6八金▲同金△同銀成▲同飛△5七歩成(投了図)
まで、68手で植山七段の勝ち。

Yos氏の将棋も終わり、感想戦に入っている。しかし私は考慮時間をいただいても、どうにもならない。植山悦行七段がこちらを見たが、私は着手できない。
第4図では▲8六角成としたいが、△7七歩がピッタリでいよいよ受けがなくなる。
何はともあれ▲2八飛だが、△6七銀成でいよいよマズイ。ここで▲1八飛打を考えたが、こんなところに飛車を手放しては勝てない。
仕方なく▲7八金と寄ったが、植山悦行七段は平易に△6八金。以下▲6八同飛まで進み、これも△同成銀と取るのかと思いきや、△5七歩成があった。ああそうだった、これは投了である。

感想戦では、「何か受けがあると思ったけど」と植山七段は言ったが、調べてみるとそうでない。
結局△5七銀で受けなし。そこから遡っていき、△7六銀の時点ですでに上手がいいということになった。実はこの局面、もう上手は「もらった」気でいたのだ。
第3図では△8六角のほかにA△7七歩(参考図)も痛打で、どの駒で取っても▲5五銀を抜かれてしまう。

またB△8七銀成もあり、▲同金△8六角も先手陣は収拾不可能。見た目以上に差が開いていたのだ。とくに△7七歩は厳しく、これで終わっている。そう指さなかったのは武士の情けだったか。
植山七段は
「(下手は)飛車の横利きが通ってないからね」「▲5五銀の存在がヘンでしょ」
と何度も口にした。駒の配置の微妙な違和感を察知する能力、これに棋士は長けていると思う。
さらに遡り、ヒョイと上がった▲5八金が敗着と断定された。先日の大野教室の敗着▲2三歩もそうだが、アマはかなり早い段階で敗着を指しているのだ。いや、それを的確に咎める棋士や指導棋士のチカラがすごいのだが。
「いやー、(終始)気持ちいい手が指せた」
と植山七段はご満悦である。上手をいい気持ちにさせて、私はクサルばかりだ。
ほかの3人は2局目に入っている。植山七段は「もう一局いこう」と誘ってくれるが、時刻はもう20時20分過ぎで、とても時間がない。でもW氏によると、21時以降も若干余裕があるらしい。それで、お言葉に甘えることにした。

初手からの指し手。▲7六歩△8四歩▲6八飛△3四歩▲6六歩△8五歩▲7七角△6二銀▲4八玉△4二玉▲3八玉△3二玉▲2八玉△5四歩(第1図)

3手目に飛車を振ると、「得意戦法できましたネ」と言われた。そんなに得意でもないが、たしかに四間飛車で、植山七段に何回か勝たせてもらったことがある。

第1図以下の指し手。▲3八銀△5二金右▲7八銀△7四歩▲6七銀△1四歩▲1六歩△4二銀▲4六歩△5三銀左▲9八香△6四銀▲7八飛△7五歩(第2図)

私はふつうに美濃囲いに組む。植山七段は△7四歩で、急戦の構え。むかし穴熊を指されたこともあったが、この時間では速戦即決がよい。
▲9八香。植山七段は私の左金が動いていないことに工夫を感じたようだが、これはたまたまである。ただ、こういう時に藤井猛九段の、▲6九金型四間飛車の著書を読んどけばよかったと思う。
植山七段は「後手だから無理っぽいけどナー」とつぶやいて△5三銀左。そして△4二金直と締まらず△7五歩と仕掛けるのが植山流で、果たしてそうきた。

第2図以下の指し手。▲6八金△7六歩▲同銀△7五歩▲6七銀△7三銀▲5六歩△7四銀▲5七金△6四歩▲4五歩△5三銀(第3図)

ここは▲6五歩があるかもしれないが、さすがに成算が持てない。▲6八金と上がったが。植山七段は「それは普通ですね。ふつう……」とつぶやいた。植山七段はいろいろしゃべってくれるが、その真意が分からず、下手は困惑することもある。
△7六歩には△7二飛と思いきや、植山七段は△7五歩~△7三銀と立て直す。
私は指す手が分からなくなり、▲5六歩から▲4五歩と伸ばした。

第3図以下の指し手。▲5九角△7二飛▲4八角△4二金直▲4六金△6五歩▲5五歩△8六歩▲5四歩△同銀▲5八飛△5五歩▲8六歩△8二飛(第4図)

少年の将棋は終わった。「ちょっと厳しく指しちゃったけど、指導対局は手加減できないんだよね」と植山七段。その姿勢は逆に素晴らしい。
少年の身内の方が迎えにきたらしい。塾みたいなもので、親御さんも大変である。
私はまたも指し手が分からず、▲5九角と引いた。だが角の利きを減殺して、面白くない。しかし植山七段は「ナカタヒロキですか」と言う。推測するに、若かりし頃中田宏樹八段とこんな将棋を指したようだ。ただその局面を憶えているのがすごい。いつも思うのだが、棋士の記憶力には舌を巻く。
私は▲4八角~▲4六金としたが、この金がいかにも狙われそうだ。大人しく▲4七金だったか。
△8六歩に▲同歩は注文通りと見て、▲5四歩から▲5八飛とした。しかし結局▲8六歩と戻すのでは、何をやっているのか分からなかった。

第4図以下の指し手。▲5六歩△6六歩▲同銀△8六飛▲7七桂△1五歩▲5五歩△1六歩▲5四歩△6六飛(第5図)

奥のTod戦は、植山七段が詰まし損ねたようで、負けにした、と叫んでいる。
本局、△8六歩に▲8八飛や▲5九角はバカバカしくて指せないので、▲5六歩と合わせた。
△8六飛にも指す手が分からない。先手は中央から捌きたいが、何かの拍子に△4六飛と取られる筋がある。この変化があるから▲4六金は疑問手だったのだ。
とにかくダイレクトに△8九飛成は許せないので、▲7七桂と跳んだ。「それはよさそうな手ですよ」と植山七段がつぶやく。
そして△1五歩。これに挨拶するほど心の余裕がないので、私は▲5五歩。この銀取りも魅力だ。△6三銀なら、そこで▲1五歩だ。
植山七段も強く△1六歩と取り込み、そこで▲1八歩は悔しいので▲5四歩。こっちも銀得だから悪いはずがないと思ったが、直後に△6六飛で取り返された。これがあるから▲5四歩の前に一本▲8七歩はなかったか。対して△同飛成なら△6六飛の筋が消える。
しかし後悔してもいられない。少なくとも前局よりは勝負になっているはずで、まだ私にも勝ち筋があると思った。

(つづく)
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2年振りの蕨(前編)

2019-12-14 00:27:48 | 蕨将棋教室
飯野愛女流初段の結婚が発表された翌11月26日、またもTod氏からメールがきた。今度は「蕨将棋教室」のお誘いである。今日はウイークデーだが、珍しく教室があるのだ。
一度は断ったが、Tod氏に「じゃあ自分だけ行きます」と再返信され、アマノジャクの私は逆に参加したくなった。
教室の開講時間は18:00~20:00だが、たしか暗黙の了解で1時間の延長があった。
というわけで私は夕食を摂ったあと、結局蕨に向かった。
蕨駅前の施設「くるる」に入り、3階の教室に入ったのは19時03分だった。
W氏は驚き、講師の植山悦行七段はたいそう懐かしがってくれた。実に一昨年の11月28日以来、2年振りの蕨である。ということは植山七段とは、それ以来の再会でもあった。
「すみません、Todさんに誘われまして」
「なんだそりゃ」
植山七段のアタマがまた後退したように見えたが、私の被害のほうがハゲしい。この2年の間、私の「職業」は変わらず、将棋界では室谷由紀女流二段と、冒頭で述べたように、飯野女流初段が結婚してしまった。
教室は現在、3面指しだった。右からTod氏、少年、中年氏である。平日ということはあるが、もう少し生徒がいてもいい気がする。局面はいずれも中盤戦だった。
私も一隅に座り、平手で対局開始となった。

初手からの指し手。▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲7七銀△6二銀▲2六歩△4二銀▲4八銀△7四歩▲7八金△7三銀(第1図)

将棋盤は布製の新しいものになっていた。大野教室の六寸盤もいいが、布盤も落ち着いていていい。
▲7六歩△8四歩に▲2六歩からの角換わりも考えたが、矢倉を指すことにした。
▲6八銀に、植山七段は「今の矢倉は勝てなくて」と嘆く。植山七段は本局を見ての通り平手大好き棋士なので、アマ相手の矢倉戦も多いのだろう。
△4二銀と上がるところで、「今は△3二銀から左美濃なんでしょ?」と言う。「でも私は」と△4二銀。
一見がっぷり四つの相矢倉になりそうだが、植山七段は、後手番矢倉はまず急戦でくる。私が七段の棋風を読むのもヘンだが、そうなのだ。
果たして植山七段は、△7四歩~△7三銀と出動し、ほかの盤に移った。

第1図以下の指し手。▲2五歩△3三銀▲5六歩△5四歩▲6九玉△3二金▲3六歩△3一角▲5八金△6四銀▲6六銀△8五歩▲5七銀上△7五歩▲同歩△同銀▲同銀△同角▲6六銀(第2図)

私の席からでは、3面の生徒がタテ方向に見える。手前の中年氏、その向こうの少年とも飛車落ちだ。その向こうのTod氏はよく見えないが、やはり飛車落ちだろうか。
少年が投了し、感想戦に入る。少年が▲5六桂で▲6四桂と銀を取ったが。植山七段は「その前に▲4四歩(銀取り)が絶対でしょう」とか言っている。駒を最大限に活用するということだ。
一方で中年氏の指し手は遅く、あれからほとんど局面が進んでいない。
▲2五歩に植山七段は「ここは受けないんだろうけど、受ける」と△3三銀。数手後の△3一角には▲5八金と上がった。この瞬間、少しイヤな予感がした。
△6四銀に▲6六銀と対抗する。むかし似たような局面で、△6四銀に▲6六歩としたら、植山七段に顔をしかめられ、「ここは▲6六銀でしょう!」と言われたことがある。
今回▲6六銀に、植山七段は「おおー!」と楽しそうな顔をした。

第2図以下の指し手。△8六歩▲同歩△同角▲8七歩△6四角▲5五歩△7六銀▲8六銀△4一玉▲4六歩△5五歩▲同銀(第3図)

私は右銀を5七までやったのでノータイムで▲6六銀と出たが、△8六歩がシャレた手で、▲7五銀は△8七歩成でまずい。ただし△8六歩の手自体は気付いていた。
▲8六同歩△同角のあたりでTod氏の将棋が終わった。これも植山七段の勝ちのようである。
「就職はどうなりました?」
と中年氏に話しかけられた。マスク越しのその目はYos氏で、男性に関心のない私は、いままで全く分からなかった。
▲8七歩△6四角に、▲5五歩の後手引きが痛い。しかもこの歩は▲5四歩と取り込めないのだ。
植山七段は△7六銀。俗に、棒銀は五段目までくれば成功と言われているが、この銀は六段目までワープした。私は▲8六銀と辛抱したが、いかにもあぶない。してみると▲6六銀では、手堅く▲7六歩だったか。
植山七段は△4一玉。ここは△4四銀かとも思ったが、そんなソッポの手は指さないのだ。△4一玉は何かの時の王手○取りを消して味がいい。しかもそれで私のほうに有効な手がないのに愕然とした。
▲4六歩は気が利かないが、ほかに手もない。
植山七段は△5五歩と取ってくれ、私はよろこんで▲同銀としたのだが……。

第3図以下の指し手。△8六角▲同歩△同飛▲5三角△8八飛成▲同金△5七歩(途中図)

▲5七同金△3九角▲2七飛△5七角成▲同飛△5六歩▲2七飛△5七銀(第4図)

植山七段は△8七銀成といきかけたが、△8六角と切った。
▲8六同歩△同飛に私の反撃手段は▲5三角しかない。△8五飛なら▲8六歩。△8二飛ならじっと▲8四歩でどうか。
だが植山七段は△8八飛成とバッサリ行き、返す刀で△5七歩。こんな歩は取るよりないが、△3九角が痛打だ。
私はバカバカしくなって投げようと思ったが、植山七段が「無理攻めかなァ」とかつぶやくので投げられない。
しかし以下も手順の攻めが続き、△5七銀。明快な詰めろだが、受けはあるのだろうか。

(つづく)
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8ヶ月ぶりの蕨将棋教室(後編)

2017-12-13 00:10:53 | 蕨将棋教室
初手からの指し手。△8四歩(実際は▲2六歩)▲7六歩△3四歩▲7八金△3二金▲2六歩△8五歩▲2二角成△同銀▲8八銀△7二銀▲7七銀△7四歩▲4八銀△4二玉▲4六歩△3三銀▲4七銀
△6四歩▲5六銀△7三桂▲6六歩△6三銀▲5八金△3一玉▲6八玉(第1図)

平手での指導対局は下手が先手ということになっている。とはいえ下手も後手で指したい戦法はあり、「横歩取り△2三歩~△4五角」「急戦矢倉」などがそうだ。
角換わりの将棋では、「将棋世界」2016年8月号付録「塚田(泰明九段)流角換わり△6五同桂革命」がおもしろく、今回はそれを試すに絶好の機会だと思った。
だが△8四歩の出だしでは、角換わりに持って行きにくい。それでも強引に角換わりにしたが、後手番の私が一手損をしたため、やや立ち遅れてしまった。
しかも次の手が誤算だった。

第1図以下の指し手。△8一飛▲3六歩△5四銀▲3七桂△6二金▲7九玉△9四歩▲4七金△1四歩▲2五歩△6五歩▲同歩△7五歩▲6六銀△8六歩▲同歩△同飛(第2図)

「勉強はしてないけど、最新の手は指さないとねえ」と植山悦行七段は△8一飛。
「△6五同桂革命」は相手陣が△5二金・△8二飛型なので、これをやられちゃ「▲4五歩△同歩▲同桂△4四銀▲7五歩」が指せない。
ここから別の構想で行かねばならぬ。といっても私は角換わりに詳しくないのだが、▲4七金は形と思う。
Fuj氏の将棋は、Fuj氏が上手の飛車を攻めて優勢に見える。奥の常連氏は氏が長考を重ねており、局面がほとんど進んでいない。Takah氏は子供と指していた。
植山七段は△6五歩。なんで後手から先に攻めることができるんだ、と思ったら本局は私が後手番のうえ、1手損していた。どうも調子が狂う。
△7五歩には▲6六銀と先に上がり、△8六歩▲同歩△同飛に次の手が敗着となった。

第2図▲7七金△8一飛▲8二歩△同飛▲7一角△7二飛▲6二角成△同飛▲8八飛△8六歩▲同飛△8五歩(第3図)

私は▲7七金。植山七段が「突っ張ってるねえー」と驚く。
△8一飛に▲8二歩。植山七段が再び「突っ張ってるねー」。
それは、「アンタの指し手は無理筋」と同義語に聞こえた。しかし私も突進せざるを得ず、以下角を切って暴れたが、△8五歩まで落ち着かれてみると、私の指し切りがハッキリした。

第3図以下の指し手。▲8八飛△6五銀▲7五銀△5六銀▲同歩△6五桂▲6七金△4九角▲6八金打△6七角成▲同金△4九角▲5八銀△8七金(投了図)
まで、67手で植山七段の勝ち。

第3図の前、△8六歩では△8五歩と思ったが、△8六歩という1歩の犠牲で、先手を取られた。▲8八飛に△6五銀とぶつけられ、この反撃が厳しい。
やはり▲7七金は無理っぽかったが、それは薄々気付いていたのだから、それならそう指すな、という話である。
先日の魚百での、対渡部愛女流二段の「▲2四銀」、対男性氏の「▲9五角」、いずれも無理筋と分かっていながら、つい指してしまう。これを精神的疾患と見るのか、実力と見るのか判断は難しいが、勝負に淡白になっているのは確かだ。
私は▲7五銀と躱したが、植山七段に気持ちよく△6五桂と跳ばれてはもうダメである。
Fuj氏の将棋が終わり、植山七段の勝ち。感想戦を聞くと、中盤まではFuj氏が優勢だったらしい。しかしそこをうっちゃるのが上手の技であろう。
私の将棋は△8七金まで。Takah氏が来て、「さすがにプロはうまく指すもんだねえ」と感心する。まったくその通りで、私はここで投げた。

感想戦。植山七段の△6五歩▲同歩△7五歩には、▲3五歩と攻め合いを目指すところだったという。角換わりは受け一方の将棋にしてはダメらしい。
だが私の反応が鈍いので、植山先生が「大沢さん、勉強してないな」と苦笑する。
図星を指されて私は小さくなるばかり。植山七段の講義を神妙に聞くばかりだった。
「大沢さん弱くなりましたねえ」
と植山七段。「昔はもっと強かったけどなあ」
言い過ぎたと思ったのか、「私はもっと弱くなりましたけど」
と付け加えた。私は苦笑するのみである。
常連氏の将棋はまだ中盤に見える。私は表のソファーでくつろいでいたが、やがて全員が出て来た。あの一局は、植山七段が投了したらしい。
常連氏は植山七段に対してバカに勝率がいいらしいが、持ち時間の制限があった時、どんな将棋を指すかはまた別問題である。
今回は植山七段、W氏、Fuj氏、常連氏、私の5人でガストに行く。
「大沢さんは仕事止めちゃったの?」
と植山七段。
「止めました。私にもう少し技術があれば続けていましたが、その技術がありませんでした」
数年前からオヤジが引退することは視野に入れていたのに、対策を講じなかった私が悪い。
店に入り、私はハンバーグとチキンの料理を頼む。しかしこの年齢でこの時間にこのメニューは、やや重かったかもしれない。
食後もみなで談笑。その中に、将棋ファンなら誰でも驚く情報があり、私とFuj氏は「あっ…!?」と意味が呑み込めず、その後「ええーーーっ!!」とのけぞったのだった。
将棋界奇々怪々、一般人はついていけない世界だ。
植山七段は最近忙しいようで、何より。私もあやかりたいものだ。
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