一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

桐谷の名局

2015-10-15 01:12:13 | 名局
14日放送の「ホンマでっか!?TV」を見たが、人間は5つのタイプに分類されるそうだ。私は「エキセントリックタイプ」っぽい。

日付変わって今日10月15日は、桐谷広人七段の66歳の誕生日。おめでとうございます。
日本テレビ系「月曜から夜ふかし」の準レギュラーである桐谷七段は、今や「投資家」の方が通りがいい。実は将棋の棋士なんです、と教えられても、周りはポカンとするばかりだろう。
しかし桐谷七段は紛れもなく棋士で、過去の膨大な対局をすべて頭に叩きこんだことから「コンピューター桐谷」、相手の攻めを丁寧に面倒を見ことから「桐谷マッサージ」と呼ばれた。順位戦こそ昇級はなかったが、竜王戦では昇級の経験もある。まあ記録は大したことはないが、記憶に残る名棋士なのである。
今日は桐谷七段の公式戦810局の中から、若手に勝った快勝譜を紹介する。

1993年7月13日
第52期順位戦C級2組2回戦
於:東京「将棋会館」
持ち時間:6時間

△六段 桐谷広人
▲四段 久保利明

▲7六歩△8四歩▲6八飛△8五歩▲7七角△3四歩▲6六歩△6二銀▲4八玉△4二玉▲3八銀△3二玉▲3九玉△5二金右▲7八銀△5四歩▲2八玉△4二銀▲1六歩△1四歩▲5八金左△7四歩▲9八香△5三銀左▲5六歩△4二金直▲4六歩△7三銀▲6七銀△6四歩▲9六歩△6五歩▲3六歩△6二銀右▲3七桂△6三銀▲4七金△7三桂▲4五歩△8一飛▲2六歩△8六歩▲同歩△7五歩(第1図)

桐谷現七段はこの時棋士19年目。40歳をとうに越えていたが、昇級を狙っていたのは言うまでもない。
一方の久保現九段は、この年の4月に17歳でデビューした。相手は中年棋士だから、この対局はもらった、と戦う前から思っていたのは想像に難くない。しかし順位戦は違うのだ。
将棋は久保四段の四間飛車に、桐谷六段の△5三銀左急戦。桐谷六段はさらに△7三銀と出て△6五歩と仕掛けた。だが久保四段にじっと待たれると、△6二銀右~△6三銀と繰り替えた。さらに△8一飛と間合いを取り、△8六歩~△7五歩。これが世にいう「桐谷流▲3五歩(△7五歩)戦法」である。

第1図以下の指し手。▲7五同歩△6六歩▲7六銀△6四銀▲6六飛△同角▲同角△5五歩▲6五歩△同桂▲7四歩△8六飛▲7三歩成△同銀▲5五角△7六飛▲1一角成△7八飛成(第2図)

△7五歩では△6六歩▲同銀△6五歩と進むのが一般的だが、桐谷六段は△7五歩を得意としていた。これがなかなか破壊力のある手で、ジョナ研メンバーではFuj氏が得意としている。私も何度かこの手を喰らい、いずれも粉砕されて、勝った試しがない。
ちなみに桐谷六段の師匠の升田幸三実力制第四代名人も、△7五歩を喰らって惨敗したことがある。
局面。当然の▲7五同歩に△6六歩。これを▲同銀は△7六歩で先手わるい。よって▲7六銀とかわすが、後手は△6四銀と圧力をかける。
先手は抑え込みを嫌って▲6六飛と捌くが、後手は手に乗って△8六飛の飛び出しを実現した。こうなれば後手ペースだ。
先手は手順を尽くして▲5五角から▲1一角成とするが、後手も銀を取り△7八飛成。明らかに居飛車優勢である。

第2図以下の指し手。▲7九歩△同竜▲4六角△5七歩▲5五香△7八飛▲4八金引△6二金▲2五桂△4七銀▲6八歩△同飛成▲6九歩△同竜寄▲1三桂不成△4八銀成▲2一桂成△3八成銀▲1七玉△5四銀打▲3三桂△5三金▲5四香△4九竜▲2二馬△4二玉▲3一馬△5一玉▲5三馬△2七金(投了図)
まで、92手で桐谷六段の勝ち。

▲2五桂からは必死の攻めだが、後手の攻めの方が早い。先手は歩を駆使して二枚飛車の働きを減殺しようとするが、後手はふつうに応接して、涼しい顔だ(たぶん)。
先手の馬と桂だけの攻めでは迫力がなく、後手の俗手攻めに、先手の受けもなくなった。
▲5三馬まで形を作り、△2七金まで久保四段の投了。桐谷六段の快勝となった。

現在桐谷七段は株主優待券の消費に忙しく、もう将棋に関わっていられないだろう。
しかし桐谷七段の著書「歩の玉手箱」などは名著で、一家に一冊は置いておきたいところである。
もう桐谷七段が棋書を上梓することは考えられないが、気が向いた時に手筋本でも著してもらえたら、うれしい。
コメント (4)
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