第2図以下の指し手。▲8八飛(途中1図)
△6九角成▲8五桂△6四角▲6五歩△5三角▲8九飛(第3図)
ちょっと気が利かないが、私は▲8八飛と打った。△6九角成に▲8五桂が3手一組で、次の▲8九飛もしくは▲5九金寄で、△6九の馬が助からない。中井女流六段は▲8五桂を軽視していたと思う。
4手後に▲8九飛が実現し、この将棋は負けられないと思った。
第3図以下の指し手。△5八馬▲同金△8四金(途中2図)
▲8六歩△7五金▲7八飛△8四歩▲6四歩△同角▲6九飛△8五歩▲6四飛△同歩▲7五飛△8八飛▲4九金△8六飛成▲7九飛△8八竜▲5九飛△8六歩(投了図)
まで、72手で中井女流六段の勝ち。
中井女流六段は△5八馬と切る。これは当然だが、次の△8四金には驚いた。ここまで中井女流六段は、飛車金交換の駒損。その大事な金を、桂を取るために打ったからだ。まるで誰かの指し手みたいではないか。
先にも書いたが、このころの私は精神的にドン底で、周りにずいぶんと迷惑を掛けた。中井女流六段にもそれは伝わっていて、私を元気づけようと緩めてくれたのだろうが、これは露骨すぎた。いくらなんでもこの順はあるめぇ。
しかし私も失敗する。桂を助けた▲8六歩がそれで、ここの歩は突くべきではなかった。▲7二角ぐらいでよかったと思う。
中井女流六段は△7五金から△8四歩。何となく手厚い攻めで、楽観気分が吹き飛んだ。
私は▲6四歩△同角と呼んで、▲6九飛。次に▲6四飛~▲7五飛の狙いだが、中井女流六段は△8五歩と桂を取って涼しい顔だ。
本譜もそのように進んだのだが、中井女流六段に△8八飛から△8六飛成とされ、容易でない形勢にガク然とした。
△8八竜に▲5九飛。△8八の竜は、そもそも△9四にいたものだ。それがいつの間にか△8八で竜になって威張っている。しかもあのタコみたいな△8四金は私に取られたことで捌け、結果的に働いた形になった。自陣を見れば、▲5九飛が蟄居している。この形は何なのだ。
中井女流六段は△8六歩。クソ、▲8六歩の疑問手を逆用された。私の持ち駒は角2枚だが、小駒がないので上手玉に迫りようがない。中井女流六段が△8四金と打ったところでは楽勝気分でいたのに、現在の追い詰められた気分は何なのだ。
そう思うと、何だか指す気が失せてしまった。
「負けました」
私が投了すると、
「エエーッ!?」
と中井女流六段が大仰に驚いた。
「もうダメです。戦意喪失」
「だってこっちが不利の局面でしょ。これじゃ、感想戦ができないじゃない」
「…すみません」
とはいえ投了図では、どう指せばいいのだろう。今では▲6六角が浮かぶ。しかし△7八竜と寄られて大したことはないか。
ちなみに感想戦では、中井女流六段だかO氏だかが、「▲6一角と打っておく」と言った気がする。
いずれにしても、中盤以降の私の指し手がヒドすぎて、これ以上は指す気になれなかった。
植山悦行七段が、Sug夫人に二枚落ちを教えていた。LPSA金曜サロン以来で、これも懐かしい光景である。
植山七段の、
「これは以前、教えたはずですけどねえ」
のフレーズが聞こえる。私はつい噴き出してしまう。そこで私が大悪手を指してしまった。
「Sugさん、いつも局面が新鮮に見えていいですよねえ。うちのオフクロなんかも、テレビの旅行番組を観てると、以前自分が行ったことがあるのに、ここ行ったことない、とか言うんですよ」
するとSug夫人が、まっ、と不満をもらした。
どうも私は一言多くていけない。
私はFuj氏と本日4局目を指す。中盤まで優位に進めていたが、逆転負けした。まったくいまいましい。
Sug夫妻が帰ることになったが。夫人が私に、じゃ! とわざわざ言いに来た。すっかり奥さんを怒らせてしまった。
私はその後、Hon氏とも指し、石橋幸緒女流四段直伝の雁木戦法に大苦戦した。
その後は中井女流六段の大盤解説があり、この日の芝浦サロンは充実の内容だった。
午後8時すぎにサロンも終わり、この後はみんなで居酒屋に繰り出した。
参加者は、中井女流六段、植山七段、W氏、Kun氏、Hon氏、Tod氏、Kaz氏、Fuj氏、私の9人。当時のベストメンバーである。だから酒席も本当に楽しかった。