一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

菅井新王位誕生の裏で

2017-09-06 01:32:59 | 将棋雑記
8月29日、30日に行われた第58期王位戦七番勝負第5局は、菅井竜也七段の勝ち。菅井七段は4勝1敗とし、羽生善治三冠から王位を奪取した。菅井先生、おめでとうございます。
最近の菅井七段は絶好調だったが、相手は百戦練磨の羽生王位である。このシリーズ、仮にタイトルの移動はあっても、勝ったり負けたりの展開になるとフンでいた。それが4-1とは、戦前の予想が完全に裏切られた形だ。
同じ王位戦七番勝負では、1972年の第13期・大山康晴王位VS内藤國雄八段戦がやはり1-4となり、内藤八段が殊勲の二代目王位に就いたが、「常勝のタイトルホルダーが気鋭棋士に完敗する」という構図が、あの時と似ているように思われた。
というわけで今シリーズ、全体を通じて、菅井七段の奔放な指し手が目立った。
これを第1局から挙げていったらキリがないし、読者も先刻承知だから多少端折るが、例えば第4局は中飛車に振ったものの、羽生王位が向かい飛車に振ると、自分は居飛車に戻し、中住まいのような珍妙な囲いから巧みに駒を捌き、快勝してしまった。
反対の立場でこんな負かされ方をしたら、第23期十段戦リーグで福崎文吾七段にバッサリ斬られた谷川浩司名人の言葉ではないが、感覚を破壊されてしまうところである。
そして第5局は、後手の菅井七段が▲3三角成△同金の形から、△3二飛と振ったのが「将棋400年の歴史であるのかな」(福崎九段)という奇手。第4局もそうだったが、王者羽生に対してよくこんな手が指せるなあ、と私もあんぐりしたものだった。
その後△3三金は△3四金から△2四金と寄らされたが、そこから菅井七段が芸術的な捌きを見せ、最終的に快勝したのだった。
私には、プロの序中盤は過去の定跡をなぞっておもしろくない、というイメージがあるのだが、菅井七段のそれは独創的で、「次はどんな手を見せてくれるのだろう」というワクワク感があった。それは将棋ソフトの指し手の「期待感」にも通じるものだった。
しかも第5局においては、中盤あたりで「最後は菅井七段が勝つだろう」という雰囲気が漂っていた。第4局までの指し手で、菅井七段はファンの信用を得ていたのだ。
おもしろい手を指しても、負けてしまったら意味がない。菅井七段がこれらの将棋に実際に勝ったことで、菅井株はストップ高になったのである。
ちなみに、挑戦者の奔放な指し手にタイトル保持者が振り回される、の図は、その福崎九段が1986年の第25期十段戦で、米長邦雄十段とまみえたシリーズを彷彿とさせた。
ともあれ、こうも振り飛車で快勝局を見せられては、棋士の意識も変わってきそうである。
現在はプロでもアマでも将棋ソフトを用いての研究が盛んで、そのソフトが飛車を振らないから相居飛車の研究も進んだが、ということは、対振り飛車の研究がおろそかになっている、と考えることもできる。つまり振り飛車党だけが独自の将棋を磨ける理屈だ。
かつて居飛車穴熊が猛威を振るった時、何人もの棋士が振り飛車党から居飛車党に鞍替えした。
しかし、棋士が勝率が高い戦法になびくのであれば、今後居飛車党から振り飛車党に転向する棋士もでてきてもおかしくない。今後の推移に注目である。

対して心配なのが羽生二冠である。今回は菅井新王位が強すぎた、という声もあるが、羽生二冠も精彩を欠いていたと思う。
控室の検討で「こう進めたら羽生王位がわるい」という順を羽生王位が指し、それでわるくなるパターンが多かった。
ちなみに菅井七段は、検討で出ない手を指したらそれが好手、というパターンが多かったように思う。
羽生二冠はまだ二冠を保持しているのに、ネットではもう過去の人、という雰囲気すら漂っているのが恐ろしい。
それを払拭するには、5日から始まった第65期王座戦五番勝負で中村太地六段相手に防衛し、8日の竜王戦挑戦者決定戦第3局で松尾歩八段に勝って、竜王挑戦を決めるしかない。
ところがこの王座戦第1局が、棋史に残る奇局となろうとは、私は夢にも思わなかった。
コメント (2)
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