▲7五玉の次、88手目△7二歩が疑問だったらしい。だけどアマ同士ならそれでも先手がダメで、どこまで行っても苦労が多い。
▲6七角。これが好打で、何とヨリが戻ったようだ。といってもアマ同士なら、やっぱり後手が勝つ。
その後も中村太地六段は玉周りを受けず▲6三銀と強気の攻め。
しかし112手目羽生善治王座は△8五桂と跳び、先手は次の△7三竜や△7三銀が受からない。今度こそ結着がついたのだ。次の▲5四玉の記譜コメントには、「報道陣も終局に備えて準備を始めた」とあった。
羽生王座は△4三銀と1枚捨て、▲4三同玉で、4三と4一で玉同士がお見合いになった。
玉の接近戦は時々見るが、4三と4一でのそれは珍しい。しかも一瞬だが、何と後手玉に詰めろがかかったのだ! ここに中村六段の気迫を感じた。
羽生王座は△3二金、△4三銀と囲いを再構築しつつ、先手玉を追い詰める。しかし先手玉がまだ仕留められていないのが不思議だ。
一手すき、中村六段は▲5二銀打とここでも強気の攻め。しかし相手陣に金銀3枚がベタベタ固まり、とてもいい形には見えない。
私はPCでAbemaTVを観ているが、先日録画した2時間ドラマの再放送(一度観た記憶がある)もテレビで同時に観ているので、PCのボリュームは「0」にしている。
羽生王座△9二角。これが厳しい攻めで、今度こそ結着がついたようだ。
だが不思議なことに、数手進んでも、中村玉はまだ生き延びている。むかし森下卓九段の将棋で、寄りそうで寄らない森下玉があったが、それを思い出す。まったく、本局の先手玉の耐久力には舌を巻く。でも、ということは、羽生王座が少しずつ疑問手を重ねているのではないか?
中村六段の玉は大遊泳し、今は5六にいるが、この玉は4三から、5四→6五→5四→4五→4六→4五→5六と動いたものだ。中村六段は盤に覆いかぶさらんばかりに闘志満々で、その横顔が「勝負はまだこれからです」と語っている。相手の立場からすればイヤになる。
しばらくして視線をPCに戻すと、△6七成桂が消え、先手の▲5六金が、▲6六金になっていた。
これは羽生王座が△6六成桂と捨てたということだ。それで4五から攻めようと意図かもしれないが、△6七成桂は▲7九角の活用も押さえていた要の駒で、これを捨てていいのか?
ネットではAbemaTV解説の中田功七段の解説が素晴らしいという。あまりにもその記述が多いので、私は2時間ドラマの視聴をついに止め、AbemaTVの観戦に専念することにした。つまりボリュームを上げたわけだ。
局面はさらに泥沼化し、訳が分からないことになっていた。ということはもう、優劣不明だ。となれば、今度はアマ同士なら流れの違いで先手が勝つ。
中田七段の解説は明快で、たしかにおもしろい。もうひとりの解説は井出隼平四段だろうか、こちらは聞き手に回ってしまっている。
しかし惜しむらくは、画面が盤面を映さず、さっきから両対局者を映している。「観る将」はそれでもいいかもしれないが、私は盤面を見て考えたいのだ。
175手目▲2四歩に△1四玉。やっぱり。ここ△2四同玉は、後の▲5七角の王手を気にしたと思う。
何しろ▲7九の角は中盤からほとんど働いておらず、遊び駒と化していた。それが▲5七角と王手で飛びだせる形になれば先手としては大儲けで、後手がこの順を嫌ったのは理解できる。
しかし中村六段の▲2六桂△同歩▲3七桂が好打で、ついに後手玉に詰めろがかかってしまった。
こんな展開ってあるんですかね。以下も中田七段の解説通りに進む。185手目▲1六銀。ここで私は名案を思い付いた。PC画面は竜王戦ネットにし、AbemaTVの音声を聴けばいいのだ。
それでその操作をしてAbemaTVに戻したら、中田七段が「あ、投了しましたね」と言った。
えっ? 投了? 羽生王座が投了しちゃったの!?
ここでは△2三桂か△1五桂で詰めろは受けられるはずで、ここでの投了は理解できない。
中田七段と井出四段も理解できないふうで、大盤で続きを検討したが、結論が出ない。
これは両対局者に聞くしかないが、現地の大盤解説会場に、2人が現れた。ちなみに現地の聞き手は宮宗紫野女流初段。スカートから伸びる脚が綺麗で、見とれてしまう。4月のシモキタ名人戦で拝見した時、何となく美脚の気配はあったのだが、やっぱり…という感じだ。
だが彼女はもう宮宗であって、熊倉ではないのだ。惜しい。
閑話休題。木村一基九段が羽生王座に△2三桂を告げると、当然羽生王座も驚いた。いや羽生王座だって△2三に桂を打つスペースはあると知っていたが、簡単に詰まされるとフンでいたようだ。
ところがこの手が意外に耐久性があり、やっぱり結論が出ず、2人は対局室に戻った。
AbemaTVではまだ中継時間があり、その後は対局室での感想戦も中継してくれた。
私だって風呂に入りたいのだが、これではPCの前を動くことができない。タイトル戦の感想戦を拝聴するのは初めてで、興味深い。
羽生王座はふだんからこんな感じなのか、疲労感がピークなのか、淡々と駒を動かしていた。この辺の情緒の安定が、第一人者の風格なのだ。
投了後の△2三桂についての変化も多くの時間を割かれたが、やはり結論が出ず。つまり羽生王座は、最もおもしろい局面で投げてしまったことになる。
2009年の王座戦五番勝負では、山崎隆之七段が早投げ?したことがあり、羽生王座が不満げ?だったことがあるらしいが、ベストの記譜を紡ぐことを信条としている羽生王座のこと、△2三桂を指さなかったことを、激しく悔やんでいるに違いない。
しかしまぁ、必勝の局面から何度もヨリが戻り、最後は嫌気が差してしまったとしても、それは無理もないことである。少なくとも私が先手だったら、10回以上は投了していた。
ともあれ、投了後にこれだけ膨大な変化があるのは珍しい。私が観戦記者だったら、最終▲1六銀で指了図とし、次の譜で1手も進めず、変化だけを載せる趣向を凝らすだろう。
本局、一局のうちで将棋の雰囲気が何度か変わり、私は別の将棋を3局観た錯覚に陥った。これは今年度の名局賞上位に食い込むだろう。
いずれにしても、この将棋を負けたら羽生王座は痛い。羽生株はまた暴落し、8日の竜王戦挑戦者決定戦第3局の勝利も危ぶまれた。
だがこの将棋を羽生二冠は快勝し、7年ぶりの竜王戦登場を決めた。やはり羽生二冠、私たちの予想の上を行くのである。
▲6七角。これが好打で、何とヨリが戻ったようだ。といってもアマ同士なら、やっぱり後手が勝つ。
その後も中村太地六段は玉周りを受けず▲6三銀と強気の攻め。
しかし112手目羽生善治王座は△8五桂と跳び、先手は次の△7三竜や△7三銀が受からない。今度こそ結着がついたのだ。次の▲5四玉の記譜コメントには、「報道陣も終局に備えて準備を始めた」とあった。
羽生王座は△4三銀と1枚捨て、▲4三同玉で、4三と4一で玉同士がお見合いになった。
玉の接近戦は時々見るが、4三と4一でのそれは珍しい。しかも一瞬だが、何と後手玉に詰めろがかかったのだ! ここに中村六段の気迫を感じた。
羽生王座は△3二金、△4三銀と囲いを再構築しつつ、先手玉を追い詰める。しかし先手玉がまだ仕留められていないのが不思議だ。
一手すき、中村六段は▲5二銀打とここでも強気の攻め。しかし相手陣に金銀3枚がベタベタ固まり、とてもいい形には見えない。
私はPCでAbemaTVを観ているが、先日録画した2時間ドラマの再放送(一度観た記憶がある)もテレビで同時に観ているので、PCのボリュームは「0」にしている。
羽生王座△9二角。これが厳しい攻めで、今度こそ結着がついたようだ。
だが不思議なことに、数手進んでも、中村玉はまだ生き延びている。むかし森下卓九段の将棋で、寄りそうで寄らない森下玉があったが、それを思い出す。まったく、本局の先手玉の耐久力には舌を巻く。でも、ということは、羽生王座が少しずつ疑問手を重ねているのではないか?
中村六段の玉は大遊泳し、今は5六にいるが、この玉は4三から、5四→6五→5四→4五→4六→4五→5六と動いたものだ。中村六段は盤に覆いかぶさらんばかりに闘志満々で、その横顔が「勝負はまだこれからです」と語っている。相手の立場からすればイヤになる。
しばらくして視線をPCに戻すと、△6七成桂が消え、先手の▲5六金が、▲6六金になっていた。
これは羽生王座が△6六成桂と捨てたということだ。それで4五から攻めようと意図かもしれないが、△6七成桂は▲7九角の活用も押さえていた要の駒で、これを捨てていいのか?
ネットではAbemaTV解説の中田功七段の解説が素晴らしいという。あまりにもその記述が多いので、私は2時間ドラマの視聴をついに止め、AbemaTVの観戦に専念することにした。つまりボリュームを上げたわけだ。
局面はさらに泥沼化し、訳が分からないことになっていた。ということはもう、優劣不明だ。となれば、今度はアマ同士なら流れの違いで先手が勝つ。
中田七段の解説は明快で、たしかにおもしろい。もうひとりの解説は井出隼平四段だろうか、こちらは聞き手に回ってしまっている。
しかし惜しむらくは、画面が盤面を映さず、さっきから両対局者を映している。「観る将」はそれでもいいかもしれないが、私は盤面を見て考えたいのだ。
175手目▲2四歩に△1四玉。やっぱり。ここ△2四同玉は、後の▲5七角の王手を気にしたと思う。
何しろ▲7九の角は中盤からほとんど働いておらず、遊び駒と化していた。それが▲5七角と王手で飛びだせる形になれば先手としては大儲けで、後手がこの順を嫌ったのは理解できる。
しかし中村六段の▲2六桂△同歩▲3七桂が好打で、ついに後手玉に詰めろがかかってしまった。
こんな展開ってあるんですかね。以下も中田七段の解説通りに進む。185手目▲1六銀。ここで私は名案を思い付いた。PC画面は竜王戦ネットにし、AbemaTVの音声を聴けばいいのだ。
それでその操作をしてAbemaTVに戻したら、中田七段が「あ、投了しましたね」と言った。
えっ? 投了? 羽生王座が投了しちゃったの!?
ここでは△2三桂か△1五桂で詰めろは受けられるはずで、ここでの投了は理解できない。
中田七段と井出四段も理解できないふうで、大盤で続きを検討したが、結論が出ない。
これは両対局者に聞くしかないが、現地の大盤解説会場に、2人が現れた。ちなみに現地の聞き手は宮宗紫野女流初段。スカートから伸びる脚が綺麗で、見とれてしまう。4月のシモキタ名人戦で拝見した時、何となく美脚の気配はあったのだが、やっぱり…という感じだ。
だが彼女はもう宮宗であって、熊倉ではないのだ。惜しい。
閑話休題。木村一基九段が羽生王座に△2三桂を告げると、当然羽生王座も驚いた。いや羽生王座だって△2三に桂を打つスペースはあると知っていたが、簡単に詰まされるとフンでいたようだ。
ところがこの手が意外に耐久性があり、やっぱり結論が出ず、2人は対局室に戻った。
AbemaTVではまだ中継時間があり、その後は対局室での感想戦も中継してくれた。
私だって風呂に入りたいのだが、これではPCの前を動くことができない。タイトル戦の感想戦を拝聴するのは初めてで、興味深い。
羽生王座はふだんからこんな感じなのか、疲労感がピークなのか、淡々と駒を動かしていた。この辺の情緒の安定が、第一人者の風格なのだ。
投了後の△2三桂についての変化も多くの時間を割かれたが、やはり結論が出ず。つまり羽生王座は、最もおもしろい局面で投げてしまったことになる。
2009年の王座戦五番勝負では、山崎隆之七段が早投げ?したことがあり、羽生王座が不満げ?だったことがあるらしいが、ベストの記譜を紡ぐことを信条としている羽生王座のこと、△2三桂を指さなかったことを、激しく悔やんでいるに違いない。
しかしまぁ、必勝の局面から何度もヨリが戻り、最後は嫌気が差してしまったとしても、それは無理もないことである。少なくとも私が先手だったら、10回以上は投了していた。
ともあれ、投了後にこれだけ膨大な変化があるのは珍しい。私が観戦記者だったら、最終▲1六銀で指了図とし、次の譜で1手も進めず、変化だけを載せる趣向を凝らすだろう。
本局、一局のうちで将棋の雰囲気が何度か変わり、私は別の将棋を3局観た錯覚に陥った。これは今年度の名局賞上位に食い込むだろう。
いずれにしても、この将棋を負けたら羽生王座は痛い。羽生株はまた暴落し、8日の竜王戦挑戦者決定戦第3局の勝利も危ぶまれた。
だがこの将棋を羽生二冠は快勝し、7年ぶりの竜王戦登場を決めた。やはり羽生二冠、私たちの予想の上を行くのである。