おはようございます。アドラー心理学に基づく勇気づけの研修(外部研修も)とカウンセリングを行う ヒューマン・ギルド の岩井俊憲です。
昨日(5月10日)は、石川県庁で62人の新任管理者を対象とした研修を行っていました。
「アドラー心理学の本を読んだことがある人は?」と尋ねたら、ただ一人、私の『勇気づけの心理学 増補・改訂版』を読んでいる人がいただけでした。
石川県では、アドラー心理学の普及がこれからのようです。
さて、またもや白石一文の小説にはまってしまいました。
『一瞬の光』(白石一文、角川文庫、743円+税)
この本もうちのカミさんの強いお勧めによる後追いですが、私に一番フィットした小説です。
社長の扇谷に目をかけられ、38歳の若さで従業員数5万人の巨大企業―三菱重工を連想させるーの人事課長に抜擢された橋田浩介(東大法学部卒、IQ 190)は、部下に連れられてあるバーで一人の女性の右手の包帯に気づくところから物語が始まります。
この女性がその晩、男性といさかいを起こしているのを救うところから、20歳の短大生、中平香折との、他者から見たら愚かしい愛の物語―しかも2人の間に性的な関係なし―が展開されます。
読んだ人は、瑠衣という才色兼備の女性(一橋大学経済学部卒、コロンビア大学のビジネススクールでMBA、外資系コンサルティング会社の社員、浩介の会社の社長の義理の姪、父親は大会社の社長、料理も達人)と結婚すれば順調な出世コースが確実視されるのに、母親や兄から虐待を受けながら育ち、PTSDに加え境界性人格障害と思われる香折との複雑な愛を選ぶ浩介から「人は何のために生きるのか」「人を愛するとはどういうことか」と問われることに違いありません。
会社を辞めることを決断した浩介に対して、打算なしに浩介を失いたくない瑠衣が「私、家族を捨てる。家も、父も母も、叔父もみんな捨てる」「私はあなたなしでは生きていけない。私はあなたと一緒になるために生まれてきたの」と訴える姿は、涙なしに読み進めることができませんでした。
それでも、将来の役員候補間違いなしと思われていながらも、派閥抗争にも巻き込まれ、会社を退職してしまった浩介は、瑠衣を捨て、兄にスパナで頭を殴打され、頭蓋骨陥没骨折による脳挫傷のため昏睡状態が続く香折との、恋人でもなく、家族でもない、それ以上の愛に生きる決断に究極の愛の姿を読み取ることができるでしょう。
私は、『一瞬の光』を読み終えた後、しばらく白石一文の次の小説を読む意欲を失っています。
そこまで深く感動した小説でした。
私のような気持ちにならないよう、お勧めするのにためらいが出る小説です。
◆白石一文の小説については、今までの次のとおり紹介しています。
2013年6月28日 夫婦愛の小説のお勧め:『快挙』(白石一文)
2017年4月18日 慎重なお勧め:小説『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 上・下』
2017年4月26日 積極的なお勧めの小説:『彼が通る不思議なコースを私も』
<お目休めコーナー>5月の花(11)

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