付け焼き刃の覚え書き

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「赤道南下」 海野十三

2008-02-02 | 戦記・戦史・軍事
「全く(手紙に)書くことがない。場所を書いてはいかん。戦況を書いてはいかん。暑いと書いてはいかんでは、まだ生きとるぞと書くしかない。それなら一行でお仕舞いじゃ」
 <青葉>機関長のぼやき。

 太平洋戦争中の昭和17年、海軍報道班員として南洋の最前線に派遣された海野十三の45日間の航海記。

 日本SFの父とも呼ばれる海野十三の従軍記ではあるけれど、作戦ミスによる兵士の死も軍政のトラブルも平気で綴ったアーニー・パイルのコラムを読んだ後では、伏せ字だらけの文章が泣かせます。「○戦隊というと軍艦○○のクラスじゃないか」「司令部の○○参謀は、即時乗り込めといそいでいたぞ」って、なんだかなあ。まあ、いかにも戦中小説ではありますが。
 ちなみに本文中では伏せ字ばかりで、戦隊の名前も艦名もわかりませんが、あとがきによれば乗り込んだのは第6戦隊旗艦の巡洋艦<青葉>であったそうです。
 内容は「わが海軍では戦闘第一主義、居住は第九か第十」「アメリカやイギリスの軍艦は居住性はよいがはなはだ弱い」と、今の視点で考えれば威勢が良いというより悲しくなるような言葉が並びますが、緊張感はあるけれどおだやかな艦の生活ぶりが浮かび上がるように描写されているので、史実のその後を考えなければ存分に楽しめます。
 貴重な水を大事に使って風呂に入り、届いた郵便物に一喜一憂し、副長の巡検に同行する。候補生が海で全長10mの鰐を目撃したと言い張り、士官室の食事は、冷凍サンマの煮付けにジャガイモの付け合わせ、冷凍ガツオの切り身とネギのすまし汁。冷やしうどんが出たりもする。しかし上陸してもアイスキャンデー屋の他に楽しむものがない。せめて新聞を置いた図書館、ピンポン台や将棋盤、良く言えばレコード鑑賞会くらいは娯楽として兵士に与えるべきだと不平を言ってみたりするわけですが、『アーニーの戦争』によれば同じ「遊びに行く場所もない」でもマリアナ群島を占拠した米軍は、仕方がないので野外映画館を233、舞台を65、拳闘場が45、ソフトボール場95、バレーボールコート225等々を建設したそうですよ……。

 ちなみにその後の<青葉>。
 同年6月、第一次ソロモン海戦に参加。
 同年10月、サボ島沖海戦に参加、大破。修理後ソロモン作戦にて大破。
 1944年10月、レイテ沖海戦に参加し、米潜水艦の雷撃を受け大破。呉軍港に帰投。
 1945年。修理の目処が立たず放置されたままの状態で防空砲台として戦闘参加。
 同年7月、航空機による爆撃で大破、着底。戦後に解体。


【従軍記者】【赤道南下】
コメント
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