付け焼き刃の覚え書き

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「マシアス・ギリの失脚」 池澤夏樹

2008-02-25 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
「わからないね。自分たちの記憶にあるもののどこまでが想像の産物で、どこからが現実なのか」
 旅行者ポール・ケッチの言葉。

 面白かった!と思っても、何度も読み返す気力の起きない本があります。『マシアス・ギリの失脚』もその1冊。本棚に置いておきたい1冊だけれど、分厚く重く読むのがツライ。今なら分冊刊行かなあ。これでも1人の男の生涯、1つの国のすべてを語り尽くすには足りないのだろうけども。

 マシアス・ギリは南洋のナビダード民主共和国の大統領。島民たちは純朴で政敵もいない。かつては日本で暮らしていたこともあり、日本とのパイプを活かして島の観光開発も進めようとしている。
 だが、日本からの慰霊団47人を乗せたバスが忽然と消失したことから、順風満帆に見えた彼の独裁にかげりが見え始める。亡霊は本当に存在するのか。巫女の力を侮ってはいけなかったのか。
 南の海の小さな島の独裁者が失脚するまでの顛末を、異国の地で生き抜いた少年時代をフラッシュバックさせながら描く幻想と現実の物語。

「一国を運営するのに思想などない方がいいのかもしれない」
 マシアス・ギリ最後のメッセージ。

 マシアス自身が経済大国(戦後)日本のカリカチュア的な存在なんでしょうね。純朴な島民の迷信を侮った、精神的には半分日本人である大統領がしっぺ返しを食らう話。けっして悪い人間でも、愚かでも、不親切だったわけではないし、島を何年も統治して発展させた……けれど、彼の望みは島の望みでもなかった。
 何が真実で何が幻想なのか、誰の言葉が真実かそれとも真実などないのか。不思議な読後感の物語。

【マシアス・ギリの失脚】【池澤夏樹】【バス】【精霊と巫女】【鳥】【ホテル】【海と椰子と空】
コメント
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