付け焼き刃の覚え書き

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「黄土の奔流」 生島治郎

2008-02-27 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 ゲーム絡みで冒険旅行だ、大陸浪人だと騒いでいたときに「そういうことなら最低これは読んでおかなくちゃ」と周囲から薦められたのが、生島治郎の『黄土の奔流』。

 世界大戦後の1923年。列強各国が利権獲得にひしめきあう上海租界。一攫千金を求めて15年前に大陸へ渡ってきた紅真吾だったが、32回目の誕生日を目前に無一文となっていた。
 そんなとき、紅は起死回生の儲け話を持ちかけられる。重慶から豚の毛を買い付けてこいというのだ。豚の毛とはいえ、当時は上質のものならかなり高値が付いた。しかも治安の悪化している大陸奥地の重慶の産といえば、行って戻るというだけでも命の危険にさらされる土地だけに儲けも大きい。
 そこで紅は仕事を引き受け、無頼な大陸浪人たちを率いて揚子江数千キロの旅に出た。行く手に待つのは天然の難所、土匪・軍閥の襲撃、そして仲間の裏切り……?

 大戦間期の中国大陸を舞台に展開する冒険小説の傑作。
 この時代の上海は「魔都」だの「イエローバビロン」だのと呼ばれるような街でした。出島感覚で清朝政府が外国人を封じ込めようと設定した租界は、単なる外国人居住区からいつしか商人たちの自治区となり、ロンドンやニューヨークと並ぶ世界の金融取引の中心になり、そして世界各国から集まってきた商人や冒険者や犯罪者たちが割拠する街となっていました。世界各地からの貨客船が横付けする一方、河川を使って中国奥地との交易もおこなわれていたわけで、この物語もそうした時代を背景に展開しています。
 一方、租界の外はどうかというと、清朝政府が倒れ、中華民国が1912年に樹立したというものの、実際は国民党と共産党が覇権争いを繰り広げ、広大な大陸のあちらこちらに軍閥が一大勢力を築いている群雄割拠状態。中央政府の威光なんてありゃしません。
 そんな状態で、儲け話に危険に飛び込む男たちの運命やいかに。

【黄土の奔流】【生島治郎】【豚毛】【大陸浪人】【揚子江】【軍閥】
コメント
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