
小学生の次男が「クジラの肉って食べられないの?」といきなり質問してきた。
「食べられるよ」と回答したけれど、次男の聞きたかったのは「食用になるかどうか」ではなく「市場に流通して家庭の食卓に並ぶのか」ということだったらしい。
そこで妻が早速、ショッピングセンターに出かけたついでに「クジラ肉ジャーキー」を買ってきて、家族で『スタートレックIV~故郷への長い道』を鑑賞しながら賞味。
さて、資源保護やら動物愛護やらあるいは知的生命の定義によって調査捕鯨も困難な昨今ですが、かつて鯨油を採るためだけに鯨を派手に殺し回っていたのは欧米の捕鯨船です。そんなことをふと思い出したのはベルヌの『海底二万里』を再読してしまったから。
潜水艦ノーチラス号で世界中の海を旅するネモ船長一行は、アトランティスの遺跡を始めさまざまな驚異に遭遇しますが、ここでも「海のギャングであるマッコウクジラは皆殺しだ」とノーチラス号がクジラの群に突貫して虐殺しまくっています。今なら、絶対不可能な展開。他の何よりも時代を感じさせるエピソードです。
そして、この話の「おうちのかたへ」には「高学年では。この物語をふりだしに、多くのSFへの関心をもたせ。読みを広げる方向に向かわせたいと思います」と書かれていて、編纂者の確信ぶりが伝わってきます。
この巻には他に動物の森の騒動を描いた『ライオンのめがね』、魔女に呪われ牝鹿に変化してしまったお姫さまの『森のめじか』、狂気の天才画家『ゴッホ』の生涯、お馴染みファーブルの『昆虫記』も収録していますが、目玉はジョルジュ・サンドの『愛の妖精』。
仲が良すぎて周囲が困ってしまう双子の兄弟の前に現れたのは、魔法使いと忌み嫌われている老婆に育てられた口が悪く乱暴な少女ファデット。色が黒く、小柄で痩せているファデットは他の子供たちからも「こおろぎ娘」とからかわれ敬遠されていたが、あるとき兄シルヴィネが行方不明になったことから、弟ランドリはファデットとある約束をすることになり……という少年少女の成長と恋愛模様を描くサンドの代表作。このファデットに「ツンデレ」とレッテルを貼ったら、サンド夫人に飛び蹴りをくらいそうですね。でも、どう見たって現代基準じゃツンデレ娘だよ……。
♪こおろぎ、こおろぎ、こおろぎ娘
小鬼の娘の、おともは鬼火
『ライオンのめがね』 原作:C・ビルドラック/絵:安野光雅
『愛の妖精』 原作:G・サンド/絵:中山正美
『ゴッホ』 文:后藤有一/絵:梁川剛一
『森のめじか』 原作:ドーノワ夫人/絵:高橋真琴
『昆虫記』 原作:アンリ・ファーブル/絵:藤原芳春
『海底二万里』 原作:ジュール・ベルヌ/絵:伊勢田邦貴
【ワイドカラー版少年少女世界の名作25】【フランス編6】