付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「翼あるもの~マップス・シェアードワールド」 原作:長谷川裕一 

2008-02-16 | バイオシップ・人工知能
 SFコミックの傑作にしてスペースオペラ界の至宝『マップス』。最初の雑誌掲載が確か1986年で、コミックが完結して外伝2巻が出たのが1997年。そこからでも10年かあ……。でも面白いものはいつまで経っても面白いわけで、そこでマップス世界をネタに、笹本祐一、新城カズマ、中里融司、古橋秀之、秋津透、重馬敬といったSF界で活躍している面々が短編を書いてやろうという究極の企画! そしてそれぞれの短編に長谷川裕一の扉絵が付き、カラー口絵は村枝賢一、三浦建太郎、麻宮騎亜という豪華ラインナップ。

 2万年前に秘宝「風まく光」への地図を隠したまま消えてしまった“さまよえる星人”。その最後の子孫だという高校生・十鬼島ゲンは宝を狙う女海賊リプミラと出会い、秘密結社スペースパトロールに狙われ、さらには米ソの戦闘サイボーグに襲われ、ついにリプミラやガールフレンドの星見らとともに銀河宇宙へと旅立つことになる。
 しかし銀河系は広い。およそ20億種類の知的生命体がそれと同じだけの数の国家を形成し、さらには彼らに使役されるビメイダー(合成人間)など、さまざまな命と文明に満ちあふれていた。
 だが彼らの行く手には伝承族、銀河系の文明を陰から操り、育み、そして滅ぼしてきた種族が立ちふさがる。生贄砲が狙うものはなにか。銀河障壁は何のために存在するのか。そして「10匹の魔物」とは何物だというのか……。

 ほんと、みんな愉しそうに書いてます。お馴染みのキャラが活躍する話もあれば、オリジナルの新キャラが活躍する話あり。ゲンやリプミラが活躍する艦隊戦への殴りこみもあれば、サイボーグ少女の人助けや村へやってきた女先生の話とかもあり。確かにマップス世界でありながら、それぞれの作家の世界でもあって、原作を知っていて良し、知らなくても良しの作品集です。
 新城カズマの作品なんか、本当に『サマー/タイム/トラベラー』のようないつもの調子の語り口と展開で、「こ、これで本当にマップスになるんだろうな!?」と不安になったりもしましたが、ちゃあんとマップスでしたよ。この上ないほど。

【マップス】【頭脳船】【人型端末】【伝説の勇者】【シェアワールド】【イースター】
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「ブライトレッド・レベル」 在原竹広

2008-02-15 | その他フィクション
「今日のお昼はなんだろうな」
 野々村樒(しきみ)のつぶやき。

 ウルスという組織があった。かなりの勢力を誇っているようだが詳細は不明。調査しようとする者はいつの間にか消されてしまうのだ。なぜならウルスとは異能のエージェントを使って暗殺やテロを請け負う暗殺者集団だったから。
 そして野々村樒はウルスの暗殺者だった。さっきまでは。
 ウルスの研究所で1人の被験体の少女の死を目撃した瞬間、それまで忠実無比な暗殺者にすぎなかった樒の中で何かがはじけた。彼女は研究者や警備員を殺害して逃走。ウルスから狩られる身へと転落する。だが最初の刺客、飛田紫郎が樒を取り逃がしてしまう。
 それが樒と手塚愛姫が出会う第一歩だった……。

 幕間劇を挟みつつ、ひたすら異能の暗殺者同士の戦いが続く物語。とりあえずSFに分類したけれど、なんというか、美少女伝奇バイオレンス? この話で仮面ライダーをやっていても違和感ないよね。そんなテイスト。
 なんというか、主人公たちはバカではなく、「そんなことやってちゃ!?」と思うような言動を取らないので素直に読めますね。するっと読めるバトルアクション。

【ブライトレッド・レベル】【在原竹広】【虫愛づる姫君】【毒娘】
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「奇跡の対価~戦闘城塞マスラヲ3」 林トモアキ

2008-02-14 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
「ああ、あの青い地中海へ帰りたい……そしてスエズから来る、あの大型石油タンカーを沈めたい……」
 陸に上がったセイレーン、レミーナの嘆き。

 対人恐怖症のヒキコモリ青年ヒデオが挑む聖魔杯もはや中盤。妨害ありありの公道レース聖魔グランプリあり、カラオケ大会ありと続く中、魔人エルシアをパートナーにするリュータは地下迷宮でついに家族の仇と対峙するのだが……。

 日本のサブカルばんざい!の第3巻は、敵も味方も邪悪な本性を露わにし、口先で、力で、他人を意のままに操ろうとしていきます。なんというか、本当に極悪なのは誰か!?グランプリですな。

【MMMR】【D】【ランボー】【天下一武闘会】【アイマス】
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「頭蓋骨のホーリーグレイル」 杉原智則

2008-02-13 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
「子供とて、自分の身を守る権利はあるはずだ。たとえ他人を殺し、他人のものを奪ったとしても。神さまはお許しくださるだろう」
 魔を狩る神父、猪狩遼馬の言葉。でもそんな世界は悲しいですね。

 ニューヨークの一角、うらぶれた倉庫と無人のアパート群のはざまにひっそりと建つ教会を襲撃した男たちは死んだ。貿易会社の社長を襲撃した後に同士討ちをしたとだけ報じられて。
 しかしそれは新たな戦いの端緒に過ぎなかった。
 14世紀にテンプル騎士団が壊滅して以来、密かに悪魔バフォメット復活の機会をうかがっていた騎士団の末裔。それが魔杯教団だった。舞台を東京に移し、バフォメットの騎士と戦うのは隻眼の神父とその娘!

 悪魔と身体の一部を交換することで特殊能力を得た騎士たちと、傭兵上がりの神父とガンマニアの少女が激突する、エロ・グロ・バイオレンスが適当に入り混じったオカルト・アクション。菊池秀行や夢枕獏が台頭し始めた頃のソノラマ文庫もこんな感じの作品が多かったですね。ただ、まだちょっと荒削り。5歳だか7歳だかの歳にはもう銃をぶっ放していたという、白蛇を使い魔にする少女、猪狩咲夜ももうちょっと魅力的に活躍させられたと思うな。チンピラ少年と互いにちょっと気になる間柄……になるにしても、今ひとつ唐突。そんなにフィーリングが合うとか、気になることあったっけ?
 決して多くはないけれど、いろいろキャラの視点が移動した分だけ密度が薄くなった感じ。でも少ない描写で最大限の印象を与えるケレン味が加わると、この視点切り替えの多様はテンポの良さになるはず……などといっても、これが2002年の作品。今の作品がどんな風になっているか、読むのが楽しみですね。

【頭蓋骨のホーリーグレイル】【杉原智則】【聖堂騎士団】【頭蓋骨】【ホーリーグレイル】【受胎】
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「SAS」 鳥居羊

2008-02-11 | 学園小説(不思議や超科学あり)
 SAS……スペシャル・アナスタシア・サービスって、ぜんぜん意味わかんないってばさ!?

 さえない外務省職員の父、双子の妹と3人暮らしをしていた中学生、山階立夏の日常は終わった。双子の妹と思っていた紗友が実は従妹で、実はバルト海沿岸の小国リヴォニアの第一公位継承者だというのだ。
 借地だった自宅は総理大臣のお墨付きのもとリヴォニア政府に接収。一転して居候の身となり、紗友の護衛に派遣された異国の3人の美少女たちと同居することになる……。

 まあ、ヒロインたちがUK系統の特殊部隊の訓練を受けたって設定なので、タイトルがイギリス陸軍のSAS(スペシャル・エア・サービス)が元ネタってことくらい解るし、メインのヒロインの名前がアナスタシアではあるけれど、まあ、もう一ひねり欲しいよね。もっとスペシャルなアナスタシアのサービスを期待するぞ。
 それから彼女らの母国リヴォニアは、バルト海沿岸に位置する旧ソ連の小国でドイツのチュートン騎士団が建国に絡んで……という話だからたぶんリトアニア(リェトゥヴァ)がモデルなんだろう。でも、あそこは公用語はリトアニア語なんだよなあ……などとと本編に関係ない部分で引っかかるんですよね……。リヴォニアが独立後UKに接触し、そこで支援を受けて設立された機関で訓練を受けた少女たちや一般の軍人たちが作戦時や日常に使う言葉がロシア語でも英語でもなくドイツ語かいなどとか。どうでも良い些末事ではありますが、なにかと思わせぶりにドイツ語表記を使うので逆に気になりました。
 やっぱ、キャラが多いよね。妹ですらほとんど最後の方はアイテム扱いだし、アナスタシアが立夏に心を開く過程も唐突に思えてしまう。出出しは面白く、わくわくと読み出しただけに、細かい部分が気になったのが残念でした。

【SAS】【鳥居羊】【王位継承】【ライ麦パン】【集団居候】【ハーレム】
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「クダンの話をしましょうか2」 内山靖二郎

2008-02-10 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
「パスタ1kg、128円!」

 鵺を追い求めて放浪するクダンの物語の第2作は、コロポックル伝説を追っての北海道編! この街に出没し、手形を残していくというコロポックルとは? 今回のクダンは喫茶店でバイト。ナポリタン・スパをマスターすべく奮戦します。
 人の未来を見る力を持つけれど、それを本人に告げてしまえば、その相手の未来からも過去にもクダンは居なくなってしまう。思い出せないし、二度と出会うこともなくなる。けれども親しくなった人の不幸な未来を視てしまったら告げないこともできない。だからクダンはいつもひとりぼっち。彼女の周囲にいるのは、相棒のバクと、彼女に鵺に関係しそうな噂を伝えてくるキリンのみ。
 そして彼女は貧乏旅を続けるのです。

【クダンの話をしましょうか】【内山靖二郎】【鵺】【件】【クダンの話をしませんか】【ソフトクリーム】【コロポックル】
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「アンの娘リラ」 L・M・モンゴメリ

2008-02-10 | その他フィクション
 カナダの作家モンゴメリによる、『赤毛のアン』などで知られるアン・ブライス(旧姓シャーリー)の末娘を主役にした物語。アン・シリーズの10作目だけれど、内容的には枝編というかアボンリーの街を舞台にした別シリーズみたいなもので正編には数えないらしい。
 こういう話はいつの話かはっきりしないものが多いけれど、この『アンの娘リラ』についてははっきりしていて、逆算で他の作品の年も確実に計算できます。今まで聞いたこともないヨーロッパの街でどこかの大公が殺された年。

 バーサ・マリラ・ブライスはちょっと可愛い14歳の少女。彼女の夢は姉たちのように(田舎町の)社交界へデビューして崇拝者を何人も手に入れ、パーティーでちやほやされること。ところが彼女の初めてのパーティーは台無しになった。いきなり飛び込んできた誰かが戦争が始まったことを告げたのだ。
 遠い国の戦争など関係ないと少女たちは思っていたが、それは間違いだった。
 やがてカナダも参戦し、彼女らの兄弟が、友人が、恋人たちが志願して戦地へと旅立ち始めたのだ……。

 第一次大戦時のプリンス・エドワード島の田舎町を舞台に、それまで世界といえば自分たちの住んでいる町がすべてで、せいぜい近くの街までという人々が遙かヨーロッパの戦況やアメリカ大統領選挙の結果に一喜一憂するようになっていく中、年相応に見栄っぱりでワガママだった少女がさまざまな人々との出会いや別れを経験しつつ、1人の女性として成長していく姿を描く銃後の物語で、女たちに勇気が無ければ男は勇敢に戦えはしないという話。あの、頑固っぷりはまさしく母親譲り。

「僕ならカイゼルをいい人にするな--僕ならそうしたいな--そうなったらいい気味だ」
 まだ幼いブルース・メレディスは、戦争を引き起こしたドイツ皇帝に与えられるべきいちばん重い罰は、自分のしたことを理解することだと考えた。

 村岡花子の訳は名訳だけれど今となってはかなり古いのは仕方がないですね。掛川 恭子訳も験してみましたが趣味にあわない。花岡訳に慣れたせいでしょうか。でもまあ、慣れて無くても「マダム・白黒」よりは「黒と白の老婦人」、「頬ひげを生やした月」より「月に頬髭」、「信頼に応える」よりは「誓いを守る」の方が好みにはちがいありません。

【アンの娘リラ】【L・M・モンゴメリ】【新潮文庫】【講談社文庫】【自由の代償】【熱狂的愛国的異教徒】【戦時国債】【反戦論者】【戦争孤児】【戦時下結婚】【帽子】【キッチナー】
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「神々の分水嶺~戦闘城塞マスラヲ2」 林トモアキ

2008-02-09 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
「萌えに罪はない!」
 闇屋台のにいちゃんの悲鳴。

 『戦闘城塞マスラヲ』は1巻しか読んでないと言ったら、長男が自分で買った2巻と3巻も貸してくれました……orz

 何の取り柄もない川村ヒデオがウィルスの電子精霊ウィル子を拾ったことから闇社会の武闘会「聖魔杯」に参加することになり、目つきの悪さと運の強さだけでもう3勝。ブッチギリの優勝候補である。
 しかし治療費だなんだと借金がかさみ、かといって地下ダンジョンでお宝稼ぎと思っても地下1階のスライムにいきなり負けてしまう実力ではなんともならない。追い詰められたヒデオは、ついには伊織魔殺商会の借金取り立て人になるのだが……ヒキコモリがついに「正社員」だと意外に前向きだった……。

 バトンを振り回すマジカルプリンセスも登場して、なかなか邪悪なドタバタ・バトルアクション。ノルカ、ソルカは良いキャラだと思うな。

【神々の分水嶺】【戦闘城塞マスラヲ2】【林トモアキ】【天下一武闘会】【ご利用は計画的に】
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「原子力潜水艦シービュー号」 シオドア・スタージョン

2008-02-08 | 水の世界・海洋冒険SF
 『原子力潜水艦シービュー号』という作品は元はアメリカのテレビドラマ。昔は夕方などに再放送をしていたので、ときどき見てましたねえ。ちょうど『宇宙大作戦』と同じ時期です(こちらの方が少し早いらしい)。
 アメリカの最新鋭原潜が海底を冒険し、海洋調査をしたり、スパイと戦ったり、恐竜と戦ったり、ミイラ男と戦ったり……ああ……。
 そのノベライズの1つをシオドア・スタージョンが担当しています。正確にはテレビ・シリーズ『原子力潜水艦シービュー号』の元となった劇場版『地球の危機』のノベライズですね。バン・アレン帯が燃え上がってしまったので、潜水艦がミサイルを撃って火事を消し止める話……ってまとめるとトンデモ話みたいだなあ。

 でもあらためて確認してみると、実はシービュー号ってほとんど観てなかったりします。なんかいろいろ観ていた気がするのは、同じアメリカドラマの『宇宙大作戦』や、同じくシービュー号の搭載艇フライング・サブと似たサイズの潜水艇P1-0号が活躍するアニメ『海底少年マリン』とかITCの『スティングレイ』あたりと記憶が混ざってしまったためのようです。
 そう思うと、昔はいろいろあった海洋冒険物がほとんど観られないことに気がつきます。それでも「ここ数年」あたりにまで範囲を広げれば、『サブマリン707R』『青の6号』『ローレライ』『シークエスト』とかポツポツとありますね。
 ただ『サブマリン707R』と『青の6号』は今ひとつの出来だった気がします。なんだろなあ。オールドファンの欲目なのかな……。(08.1.11)

「奴らをなぎ倒せ。だんだんふえてくるが、屍の山をきずいて乗り越えていくのだ」
 ハリマン・ネルソン提督の極めて好戦的な言葉。でも地球が滅びるかどうか、自分が生きるか死ぬかの戦いで、提督自ら白兵戦という修羅場の発言ですから仕方がないですけどね。

 2冊セットで発掘したので表紙イラストを掲載(定価150円!)。原潜シービュー号の荘厳な巨体も、神秘の海底竜も、驚異の海底都市も、なんとなく描き飛ばしているようにしか見えませんが、これが当時の「味」というやつです。映画ポスター風でも良かったのにね。
 話としては、どちらもなかなか面白いです。『シービュー号と海底都市』は深海で発見された謎の建造物、世界各地で発生する大竜巻、そしてアメリカ上院議員の暗殺と、一見何の関係なさそうな事件が、実は地球の命運を賭けた大事件へとつながっていく話。

【原子力潜水艦シービュー号】【シービュー号と海底都市】【シオドア・スタージョン】【海洋冒険】【潜水艦】【バン・アレン帯】【海洋強奪】
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「シルフィ・ナイト」 神野淳一

2008-02-08 | 架空戦記・仮想戦史
 魔法の時代から機械の時代へ移り変わり、古の領土を回復せんとファーラントへの侵攻を開始した<帝国>との戦いが始まって1年。戦火は大陸全土へと広がり、ファーラントに続きフレイル共和国も陥落。帝国はエルン海峡を突破してウェストランド王国へ上陸すべく制空権確保の戦いを開始した。
 時に新聖歴040年7月のことであった。この戦いを後世の人々は「海峡の戦い」と呼ぶことになる。
 その激戦のさなか、第113戦闘飛行中隊に新たに配属されてきたのは、王国空軍<七人の戦乙女>の1人にして、最後の妖精デ・ダナーンでもある銃手兼無線士、ライム・ローズアイゼン軍曹であった……。

 一目でわかるバトル・オブ・ブリテンのファンタジー世界版。あとがきにもリチャード・ハウ&デニス・リチャーズの『バトル・オブ・ブリテン』を参考に、リチャード・コリヤーの『空軍大戦略』からモチーフを借りたと書いてあります。どちらも読んでいるのでなんか半端な感じがしますが、逆に読んでいない人には、航空戦記+最後の妖精譚的な組み合わせが面白いかも。
 でも魔法というか精霊の扱いがどっちつかずかな。前大戦が魔法が全面的に戦争に使われた最後であり、20年後の現在では魔法が存在することすら疑うものが出ているということだけれど、「魔法がつい最近まで存在していた社会」の構築というか描写が見えてこないので、そちら方面でも物足りず。むしろ前大戦より遙か以前に魔法なんか消え失せて、魔法無しの社会が構築されていることにした方が、クライマックスが盛り上がったんでないかな。せめて3世代。20年なんか「つい、この前」じゃないですか。

【シルフィ・ナイト】【航空戦】【オバケ】
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「螺旋の国の3ドリル」 富永浩史

2008-02-07 | 異世界結合・ゲート・ゾーン
「ドリルがオレたちを呼んでるんだ」
 最後の決戦に臨む宮寺轟の言葉。

 完成間近の都心地下鉄工事に謎のドリル怪獣が出現。シールドマシン見学会に参加していた高校生たちが巻き込まれてしまう。
 3人の少年少女、轟、竜一、翠の目が覚めた場所。それはいずことも知れない白濁した大海のほとり。見知らぬ不思議な世界だった。そして怪人怪獣の襲撃。そこで彼らは気がついた。この世界では螺旋の力が異常なまでに強化されるということを。
 マスケット銃の弾などはじき返してしまう怪物の装甲も、ライフリングを施した小銃弾なら吹き飛ばしてしまう。誰かを殴るときにも拳に回転を付ければ驚異的な威力を発揮する。
 そして地上では非力なオタク趣味の少年たちは、自分たちがこの世界で通用する武器を持っていることに気がついた! モデラー必携の3ミリ径ピンバイスが、使い方次第で最強兵器となるのだ……。

 こういうバカ話は好き。1つ基本に大嘘こいて、あとはひたすら大嘘に整合性を持たせるためにストーリーや世界構築していく話ね。
 とにかくドリルが強い世界。理由は不明っ! 怪獣怪人はどいつもこいつも螺旋状で円錐形でもって回転している。とにかく螺旋が回転しているとパワーが出る。
 で、0.01のスケール狂いも許さず、見えない部分の設計や背景まで考慮してきっちり作品を仕上げる海城竜一。設定なんか無視してでも迫力ある作品をめざす宮寺轟。この2人のモデラーがピンバイスを携帯しているのは良いとして、3人目のゴスロリ少女がなぜドリルなのか?(ヒント:松平瞳子) なんか、このノリが好き。それぞれの個性がぶつかり合い、失敗しつつも、最後には合作していくところが。
 これ1冊で終わりと言えば終わりだけれど、伏線も張りっぱなしなのでまだまだ続く気もするし、なんにせよ荒削りではあるけれど楽しみであります。

【螺旋の国】【ドリル】【ペルシダー】【造型師】【ナチス】
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「戦略拠点32098 楽園」 長谷敏司

2008-02-06 | 超能力・超人・サイボーグ
「兵士は、兵器を扱う『能力の束』であるべきなのだ。人間性は、一瞬を争う場面では、性能を下げる不純物でしかない」
 要塞艦<パンタグリュエル>制御官ガダルバ。

 汎銀河同盟と人類連合の戦争が始まって1000年。
 <拠点32098>と呼ばれるのは不可解な惑星だった。惑星は未改造で、その地表にも地下にも人工物らしいものは何もない。しかしこの星を守る人類連合は一歩も退くことなく戦い続け、だから攻める汎銀河同盟も攻撃の手をゆるめない。そしてその間も、何もないはずの惑星に大破した戦艦が次々に降下していくのだ。
 その<拠点32098>の戦いが膠着して3年目。<拠点32098>の正体を探るべく降下部隊が次々に送り出されるが、その防衛線を突破して地上にたどり着いた者はほとんどいなかった。
 だがR777特別降下チームのたった1人の生き残りであるサイボーグ兵士ヴァロワが九死に一生を得てたどり着いた地表で出会ったのは、制御官と呼ばれる人類連合の強化兵と10歳ほどの黒髪の少女マリアだけだった。

 長谷敏司のデビュー作にして、第6回スニーカー大賞金賞作。
 楽園のような自然の大地に、墓標のように突き刺さっていく大型戦艦や要塞艦。そして大気圏外では艦隊戦が続く中で、静かに暮らす少女と2人のサイボーグ兵士が織りなす物語。CHOCOのイラストがよく似合う佳作です。

【楽園】【イチゴ】【サイボーグ兵士】【記憶】
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「貴婦人の薔薇~女魔術師ポルガラ」 デイヴィッド&リー・エディングス

2008-02-05 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
 エディングスの『ベルガリアード物語』『マロリオン物語』の外伝で、前日譚をポルガラ視点から語ったもの。この話はなんというか……「俺の屍を超えてゆけ」って感じ? たった1つの血筋を守り、宇宙創生からの歪みに決着をつける為だけに生まれ死んでいく人々を見守るポルガラの物語。

「血の海を歩くのは、最良の愛情表現ではない」
 大事な友人を殺され復讐に狂う娘をいさめるポレドラの言葉。

 今でも世の中は自己満足で海を往きたがる者ばかりですよ……。

「どんな国境だろうと、あっち側にいる人間は人間じゃないの。だから、あっち側の連中がたまたま合法的に何かを所有していても、それはこっち側にいる本物の人間のものだというわけ。世界中の人間がそう思っているわ」
 国境に近くなるとどうして人間の最悪の部分が表面化するのかという疑問に対するアスラナの答え。みんながみんなお互いに「あいつらは人間じゃない」と思っていたら、どうにもならんわな。確かに殺伐とした人生観ではあるけれど。

 アスラナは若く聡明で美しい娘ではあるけれど、エディングスの作品に登場する美女・美少女のご多分にもれず、目的を達成するのに最善の方法と確信すればこれっぽっちも手段を選ばないキャラクター。毒薬と短刀。歴史に埋没するには惜しいキャラです。

【女魔術師ポルガラ】【デイヴィッド&リー・エディングス】【狼】【都市の滅亡】
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「どくろ観音~千両文七捕物帳」 高木彬光

2008-02-05 | 時代・歴史・武侠小説
 神田白壁町の捕り物名人、千両文七が、天狗が、鬼が、山姥がと江戸を騒がす怪事件の数々を、一の子分、合点勘八と共に一刀両断に解決していく。

 自分の書いている文章が、あれこれ細かいことを書きすぎて回りくどくなっているなと思うときは捕物帖とかを読み返してみたりします。この『どくろ観音』の場合だと、1冊で12話収録なので、平均すると1話24頁の計算。この枚数で怪事件が発生し、それにまつわるさまざまな色恋や親子関係とか因縁話が一刀両断され、謎解きされて事件解決してしまいます。もうあっけにとられるくらい。
 でもちょっと死にすぎみたいな気がしますけれどね。
 被害者はもちろん死ぬけど犯人も最後は死ぬパターンが多いよね。同じ簡潔な『顎十郎捕物帳』の場合は「謎解きに興味があるだけで、犯人が捕まるかどうか興味ないね」というキャラだけれど、こちらは話を簡潔に整理するためにみんな殺しているような気がしないでもないけれど、穿ち過ぎかな。

【捕物帖】【鬼】【入れ墨】【復讐】
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「ガーゴイルの誓い~魔法の国ザンス18」 ピアズ・アンソニイ

2008-02-04 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「うぎゃあぁぁ! わかった、ご開帳はやめてくれ」
 バケツの悲鳴。

 今回の主役は醜いガーゴイルのゲイリー。でも表紙イラストは女悪魔のメンティアとゴーレムの娘サプライズ。でもいくら手を後ろに胸をのけぞらせているにしても、メンティアの胸は「見事に突き出ていて」と描写されるにはボリューム不足でないかな?

 フロリダ半島で魔法のない世界マンダニアとつながっているザンスだが、そのマンダニアから流れてくる水の汚染が激しくてガーゴイルたちの浄化能力が追いつかなくなってきていた。そこでゲイリーは、ふらりと出現した女悪魔の誘いに乗って、魔法使いハンフリーのもとを訪ねることにした。
 浄化方法を求めたゲイリーに対し、ハンフリーの与えた助言と条件は「魔力をコントロールできない幼女サプライズの教育係をしながら、魔法のフィルターを探せ」というものだった。だが、人間の姿に変えられたゲイリーが、女悪魔メンティア、無制限に魔法を使いまくるサプライズ、そして幻惑の魔女アイリスらを引き連れて乗り出す探索の旅は、有史以前のザンスを再発見する旅でもあった……。

 魔法の国というか、土手(バンク)には葉の裏が緑の木(グリーンバックス=ドル紙幣の俗語)が生え茂るなどといったダジャレの王国なのはいつもの通り。そして問題があり、魔法使いの城で解決へのヒントが与えられ、探索の旅の中で幾つものカップルが成立して大団円という展開もいつもの通り。
 ただ、今回はいつにもまして露出が激しい気もするよね。もともとドリュアドとかセントールとかは服なんて着てないけれど、やけに太腿の間のかげりとかスカートの中のパンティとかこぼれ落ちそうな胸とか剥き出しの方とかそっちの方面への誘惑が多いぞ。

【ダジャレ】【愛の泉】【悪魔】【パンティ】
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