付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「カラシニコフ自伝 世界一有名な銃を創った男」 エレナ・ジョリー

2008-04-16 | 戦記・戦史・軍事
「もちろん、カラシニコフ銃を手にしたビンラディンの姿をテレビで見るたびに憤りを覚える。(中略)テロリストも正しい選択をしているのだ。一番信頼できる銃を選んだという点においては!」

 現在、世界中で6000万丁以上が生産され、使用されているカラシニコフ自動小銃の設計者であるミハイル・チモフェエヴィチ・カラシニコフの生涯を、エレナ・ジリーが聞き書きしてまとめたもの。

 カラシニコフは1919年のロシア革命の直後に生まれ、スターリンの圧制下のシベリアで家族を次々に失い、やがて整備士として戦車部隊に配属。第二次大戦のブリヤンスクの戦闘で重傷を負うも生還し、ファシストを倒すための銃を創りたいという一心で開発に打ち込み始めたカラシニコフは、やがて著名で階級も遙かに上の技術者たちとの競争に打ち勝つだけの銃を生み出すことになる。
 しかし西側の技術者たちとは異なり、カラシニコフの手には銃の生産によるライセンス料は入ってこない。彼の主な収入は軍の年金くらいだ。けれども、彼は共産主義者として、そのことに対する不満は語らない。ただ、もう少し自由に使える資金が有れば後進の育成と開発が楽になるのにというだけだ。
 共産主義が成功したとは思っていないが、その理想は信じているのだ……。

 動乱のロシア現代史のど真ん中を生き続ける技師の自伝。
 武器史家エドワード・エゼルとの交流から、ユージン・ストーナー(M16の発案者)、ビル・ルガー(スターム・ルガー社の創設者)、ウジール・ガル(ウージー短機関銃の生みの親)といった西側技術者と知り合うことになる一幕も面白かったし、もう少し詳しく聞きたいと思いました。

【カラシニコフ】【自動小銃】【官僚機構】
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「バッカーノ!1934 獄中編」 成田良悟

2008-04-15 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
 『バッカーノ!1934 獄中編』はPBMプレイヤー御用達の成田良悟作品です。ファンタジーというジャンルでくくるべきか、毎度悩みますけれどね。

 そのPBMのマスターやプレイヤー経験のある作家さんというのは、今のライトノベル界じゃさして珍しくもないのですが、成田良悟の作品というのは、(作者本人には怒られるかもしれないけど)小説として理想的に仕上がったリアクション総集編そのものという感じなのです。良い意味とか悪い意味とかではなく、小説の構造自体が良質のPBM的です。
 つまり、複数の発端があり、登場人物もそれぞれ複数のグループに分かれて話が進むんだけれど、それぞれは結局のところ大きな物語の一部/断片にすぎず、クライマックスでそれらの物語が一点に集中し、そしてまた分かれて個々の結末を迎える……といった感じ。登場人物も個性なんて言葉をあざ笑うような凶悪な曲者揃い。「こんなキャラ登録したの、誰だよ!?」と追求したくなるくらい。
 初期作品はまだ荒い部分があって読みにくかったりしますが、『バッカーノ! 特急編/鈍行編』あたりから見事な形に仕上げるようになりましたね。面白い。
 今回は1934年のアルカトラズ刑務所が舞台。またまた複数のストーリーが錯綜し、一応この巻で完結するものの、語られなかった裏事情とかまた別の物語は『娑婆編』で補完されてました。これまた必読です。

【不死者】【監獄】【裏切り者】
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「ナギが使い魔!? やっとけ☆世界征服~ハヤテのごとく!(2)」 築地俊彦

2008-04-14 | 学園小説(不思議や超科学あり)
「経験がなかったら、資料の調査なり想像力でカバーするのがクリエイターというものだろう」
 落ち武者大将軍、怒りの正論。

 底意地の悪いヒロインを描写させたら天下一の築地俊彦が書く、『ハヤテのごとく!』ノベライズの第2弾。名匠正宗の手になる「丸ペン正宗」の力が発現し、ナギが描きためていた大河マンガの世界に入り込んでしまった、お馴染みの面々が遭遇する事件とは。そして事件を操る黒幕の思惑とは……という異世界冒険編。
 あいかわらずオタネタ満載で突っ走ります。挿絵イラストには不満が残りますが、コミックのノベライズとしては文句ありません。変なところにばかり凝って、大事なところはすっ飛ばし、蹴りを入れたらそのまま倒壊しそうなセットが立ち並ぶチープで電波系な未完のファンタジー作品を攻略するのは、なかなか大変なことだと思います。
 でも、この表紙って、なんとなくジャンプコミックっぽいよね。

【ナギが使い魔!? やっとけ☆世界征服】【ハヤテのごとく!】【築地俊彦】【ガンダム】【アイドルマスター】【クトゥルフ】【FF】【ブラックラグーン】
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『フロリダ旅行(4) エプコットセンター』 1992.07/04-07/05

2008-04-14 | イベント・コンベンション
 エプコットセンターとは実験未来都市のこと(今は単に「エプコット」と呼ぶらしいけれど)。
 ここはふたつのゾーンで構成されています。
 1つは、最新テクノロジーを体験できる展示やアトラクションの「フューチャー・ワールド」。恐竜世界を通り抜け、人体の内部を体験し、未来世界の様子をかいま見、発明発見の歴史を俯瞰して、実際に運営されている未来農場で生産されている野菜などを利用したフードコートで食事ができるというエリアです。
 そしてもう1つは、湖の畔に世界各国のパビリオンが立ち並ぶ「ワールド・ショーケース」。カナダの大自然を360度スクリーンで体感し、ヨーロッパの街並でジャグリングを披露する大道芸人たちと一緒に騒ぎ、トロルが暴れる北欧の海に漕ぎ出したかと思うと、闇の中の篝火に浮かび上がる中南米の古代遺跡を探検するというエリア。
 なんというか、常設の万国博覧会ですね。大阪万博とか、愛・地球博とかを想像してもらえれば正解。でも、さすがに湖に大鳥居、その正面には色とりどりの幟が立ち並ぶお城の天守閣というのは、日本人としてなんか莫迦にされているような気持ちになりますが……そこはお互い様かな(写真参照)。
 訪れたのが独立記念日の週だけあって、独立当時のコスチュームに身を包んだ人たちが国歌を斉唱してたり、どこもかしこも「ビバ!アメリカ」ムード。別に悪くはない。悪くはないというか……歴代大統領の演説を聴きながら会場外に出てきたとき、思わず「ああ、アメリカ人で良かったな」と感慨にふけっている自分に気づいて愕然。
 恐るべし、ディズニー・マジック。あの雰囲気作りの演出テクニックは見習う必要があるよね。
 このエプコットこそが、ディズニー・ワールドを単なる大きなテーマパークではなく、1つの自治体にすることを可能とした施設。単なる遊園地ではないという企画書が、州議会を説得して自治権を与えさせたんだとか。ふうん。
 後日、東京ディズニーランドで、日本の歴史を描いた、似たような施設を覗いてきたけれど、あの「ビバ!アメリカ」な熱気がなかったのが残念。史実と神話の間で中途半端な作り。神話なら神話でスペクタクルに作ればいいのにね。

 5日にはユニヴァーサル・スタジオへ。
 キングコングとかゴーストバスターズとか大地震とか、いろいろ見て回って深夜まで大はしゃぎ。でも、そろそろエネルギーが尽きかけている予感……。

【イマジネーション】【自治体】【いらっしゃい】【水耕農園】
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「ノエルと白馬の王子」 菊池たけし他

2008-04-13 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
 アリアンロッド・リプレイ・ルージュの番外編。収録されているのは、トラン最後のセッションである『ノエルと白馬の王子』、ルージュではないけれどデスメイズに挑むパーティーの冒険を描いた『魔を貫くもの』、雑誌連載時の4コママンガ集『ノエルと四つのコマ』、そしておまけデータは悪の秘密結社ダイナストカバル特集です。

 本編が終わってしまって少し寂しいなと思っていたときだっただけに、家族総出で奪い合って読みました。
 なんかしみじみと読み返してしまいましたねえ。PCが死んでは次々にプレイヤー交代する『魔を貫くもの』も壮絶で素適。

【アリアンロッド・リプレイ・ルージュ】【ランダムダンジョン】【婚約者】
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「女戦士の帰還 サイボーグ士官ジェニー・ケイシー(1)」 エリザベス・ベア

2008-04-12 | ミリタリーSF・未来戦記
「迷ったあげくに弾丸を手に取ろうが、いちかばちか弾丸を手に取ろうが、結果はたいして変わりない」
 ガブ・キャスティンの言葉。

 環境破壊による気候の変化に混乱する世界では、アメリカ合衆国は内戦状態に陥った状態から回復しておらず、拡張路線を突き進む中国と巨大企業の支援を受けて軍事大国と化したカナダが二大陣営として対峙していた。その舞台は宇宙。
 カナダと中国は火星で異星の宇宙船を発見し、その技術で星間宇宙船を建造しようと密かに争っていたのだ。そして、その競争はついに最終段階に入っていた。
 宇宙船のコントロールに問題を抱えるカナダは、その解決策としてサイボーグ飛行士と全人格プログラムの組み合わせを研究していたが、プログラムの研究は遅々として進まず、適性を持った飛行士も見つかっていない。

 軍用ドラッグ<ハンマー>中毒による被害者の増加に怒るギャングのボスがいた。
 減刑で軍刑務所から釈放された女がいた。
 バーチャル・リアリティの世界でロープレイング・ゲームに興じる少女とその父親がいた。
 捜査中の相棒を殺された刑事がいた。
 普通なら接点のないはずの彼らは、“メイカー”と呼ばれる女性メカニックによって接点を持つことになる。場末の機械修理屋として暮らす49歳の女性。壊れかけた機械の身体を持つ女。そして彼女こそカナダ軍が求めるサイボーグだった……。

 物語はコネティカット州の街を舞台に、誰が何のために汚染された軍用ドラッグをばらまいていたのかという捜査と追跡を主軸に進みます。そして、表紙イラストはなにやらカッコ良さげな美女戦士のイラストで、帯には「怖るべき陰謀の渦中に巻き込まれた女サイボーグ戦士の死闘」とありますが、ちょっと違います。
 主人公のメイカーことジェニー・ケイシーはガリガリの肢体に魔女の鷲鼻、火傷の痕と左目の人口眼の中年女性ですし、彼女は物語半ばで仲間に後を託してカナダへと向かいますので、ドラッグの出所を求めて死闘を繰り広げるのはもっぱらギャング・ボスのレザーフェイス、刑事ミッチ、殺し屋ボビの3人。ジェニーも頑張っていますが、手術台の上で生死の狭間をさまようのを死闘というなら、病院はみんな戦場だよね。
 まあ、本当はそんな些末な事はどうでも良く、単に面白い、カッコイイと誉めれば良い話と言われたらそれまで。いろいろ魅力的かつ一癖も二癖もある登場人物たちが動き回り、彼らの行動をどきどきしながら見守ることになります。ちょっとタイトルが仰々しくもB級テイスト満載だと思います。誰だよ、シリーズ名に「サイボーグ士官ジェニー・ケイシー」なんて付けたのは!? あまりに恥ずかしくてスルーするところだったぞ!
 今回はハードボイルドっぽい話にバーチャル・リアリティと人工知能の話が絡まり合いながら進みますが、内容的には続き物なので、この巻では話はろくに終わってません。とりあえずハードボイルド編は終わって宇宙編が幕開けしたくらいかな。急いで続きを読まなくちゃね。

【気象変動】【バーチャルゲーム】【異星船】【人工知能】【ファインマン】
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『フロリダ旅行(3) コンテンポラリー・リゾート』 1992.07/01-7/3

2008-04-12 | イベント・コンベンション
 キーウェストから空路でおよそ30分。オーランド国際空港に到着したら、事前手配のピックアップ・バスでコンテンポラリー・リゾートへ。
 そこは既にウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート。122平方キロの敷地内に、6つのテーマパークから幾つものゴルフコースやレースサーキットまでを抱える世界最大のアミューズメントリゾート……というか自治体ですね。街が丸ごとテーマパークではなく、テーマパークを丸ごと地方自治体にして、警察消防から徴税まですべて自前でやっているのです。そこのところを押さえておかないと、この徹底さは理解できません。

 法案には1つ、重要な項目が抜けている。
「王国なのに、王位の規定がない」
 法案署名に会場へ向かうクロード・L・カーク知事の言葉。(『ディズニー伝説』ボブ・トーマスより)


 南部邸宅風からポリネシア風まで、幾つもの個性豊かなホテルがありますが、コンテンポラリー・リゾートは分厚い本を背表紙を上にして伏せたような形。そして開かれたページとページの間は14階までの吹き抜けになっていて、その中をモノレールが発着するので、気分はトレーダー分岐点。
 部屋のドアを開けて外へ出ると、眼下にモノレール・ステーションやショッピング・モール、ジャズの生演奏が続くステージなどを見下ろすことができます。この光景を見たいがためだけに、日本語スタッフが常駐していないことなど気にせず申し込んだんです。
 部屋そのものは普通ですが、建物全体に意匠を凝らした仕掛けが施されていて、今では日本でも珍しくない「音声でアナウンスするエレベータ」も、渋い声でしゃべってくれてなかなか魅力的。
 ここを拠点に、遊びほうける日々が続くことになります。

【コンテンポラリー・リゾート】【自治政府】【モノレール】
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「おうちがいちばん」 秋月りす

2008-04-11 | その他フィクション
 秋月りすの4コマまんが集『おうちがいちばん』を読む。
 この話はとくに共感できるネタが多くて泣ける。感動じゃなくて、思い出し泣き。なんというか、子育てする夫婦ってこういうことがあるよねえという共感にあふれているのですね。子供って思いもよらぬことをしでかすよねとか、子育てしてると仕事ってこうなるよねとか、「こんな状況を放置しておいて、少子化対策なんてエラそうにいうな!」という話だったり。
 だから子供を育てた人間でないと面白さ半分かも。

【子育て】【4コマ】
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「クレイジーカンガルーの夏」 誼阿古

2008-04-10 | その他フィクション
 ネットの評判が良かったので読んでみた。まあ、何も聞かなくても、ライトノベル系で青春小説というとたいてい手を出すから、どちらにしても読んでいたかな。

 普通に面白かった。

 地方都市に住む4人の中学1年の少年が経験した1979年一夏の物語。

 で、まあさ、実際に1979年の夏を地方都市の高校1年生で経験した身でいうとさ、「嘘くさい」。いや、まるっきり嘘じゃないし、そういう中学生もいたかもしれないけれど、なんというか、実際に戦争で戦った老人が架空戦記を読んで感じる違和感みたいなものかな? 空気の違い。
 登場人物たちがガンダムの放映を毎週楽しみにしてるんだよね。小学生のときに見たライディーンとか海のトリトン(再)なんかも話の話題になる。アニメージュとかOUTとか買ってるやつもいる。今の中学生が「舞-乙HiMEのあのシーンってSEEDのパロだろ?」「あれは作監がさ」とかいうような感覚。そこを嘘っぽく感じるね。自分が通った道だけに、自分との違いが気になる。
 後書き読むと、作者は若いんだよね。調べて書いてる。だから、いかにも調べました、エピソードを挿入してみました……という「こなれなさ」みたいなもの。戦争中のエピソードに今の感覚で突っ込まれて「あの当時はそんな空気じゃなかった。自分もそんなあたりまえの理屈を思いつきもしなかった」と答えるようなもの。
 アニメとアニメ雑誌と音楽だけ抜き出して時代を語ろうとするからいかんのだろうね。政治とか経済とかを考える必要はないけれど、周囲とか前後とか、自分が思い出すようなキーワードが幾つも抜けてる。ウォークマンって欲しいよなあとか、アニメージュ・OUTときてなんでアニメックの名前が出ないのかとか、インベーダーゲームって興味なかった?とか、そんなに真面目にガンダム見てたら体育系の部活はできないだろとか……いろいろ言えてしまうくらいに近い時代だから。
 仕方がないことではあるけれど、まあ、40代が読むには違和感ある。30代ならOKかも。
 むしろ、端々に紹介するガンダム話をもっとページを取って話にしっかり絡めた方が面白かったかも。半端に遠慮してるところがあるというか、軽く無視するにはアニメや音楽の比重が高いからなあ。
 でも、こういう感覚の差というのは、きっとぼくが自分の体験していない時代や場所のことを書いたとしても、体験している人から指摘されるであろうことなんだろうけどね。そういう意味では怖い本。(2023/03/30改稿)

【クレイジーカンガルーの夏】【誼阿古】【藤本みゆき】【GA文庫】【ノスタルジックで胸にしみいる、“帰らない日々”の物語】【友情】
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『フロリダ旅行(2) カサ・マリーナ』 1992.06/29-07/01

2008-04-10 | イベント・コンベンション
 精神ダメージをいきなり3D6ほどもくらいながら到着したホテルは、落ち着いたたたずまいでした。白い壁と磨き込まれた木製の床が続く、古い時代そのままのホテル。確かに最高級の老舗です。シャワーからお湯が出ないところまで老舗です。

 キーウェスト最初の朝。
 朝食は青空の下、木々の緑に囲まれたオープン・ビュッフェでした。オムレツ・コーナーのシェフに、好みの具を指示してオムレツを作ってもらっている間に、あれこれソーセージやパンやフルーツを物色。やっと落ち着いたという雰囲気で、のんびり朝食を楽しみます。
 それから島内を巡回するトローリーバスに乗って、目抜き通りのある島西部へと観光へ出発。椰子の木陰をくぐりながらヘミングウェイの邸宅を訪ね、古本屋を覗き、メル・フィッシャー宝物館で金の延べ棒を持ち上げ、Tシャツ屋で店員の口車に乗ってTシャツを買いすぎ、周囲に山のように積み上げられた特産の海綿スポンジの列をくぐり抜けます。そして、日本ではゲーマー向けのショップにしかないようなドワーフやケルピーのフィギュアが普通に土産物屋のショーケースに並んでいる光景に釘付けになり、そして1日の締めくくりには、アメリカ最南端キーウェストの夕日!! ぬるい空気の中、道ばたで演奏されるスティール・ドラムのトロトロという音をBGMに、観光客が海岸に鈴なりで落日を待ちますが……、最後の最後に雲が出て尻切れとんぼで夕陽は拝めず。
 しかも、夕陽の時間にはバスは最終便が出た後! あのお、観光地最大の売り物を見ていると帰りの足が無くなるってどうですか? がっかり、しょぼんで、とぼとぼと島の反対側まで歩いて帰るのかと思っているところに、三輪車の輪タクを見つけてつかまえることに成功。自転車と人力車を足して割ったようなやつね。
 運転手は1968年にミサワ基地にいたというおじさん。たくましい脚できこきこ漕ぎながら、道道の観光名所を案内してくれます。結果オーライ。

 翌朝。今日はもう昼にはここを立つので、その前にアメリカ最南端に到達してやろうと、とことこ15分ほど散歩して海岸へ。地図を片手に、道ばたに転がっている椰子の実を蹴飛ばしながら、ついに到達!
 なんか、この旅で初めて予定通りにいったぞと、ちょっと気をよくしてホテルへ戻って荷造りをしていると、ドアの外で慌ただしい人の動き。こっそりドアを開けて様子を見ようとすると、「Don't Worry!!」などと叫びながら鍵束を手にしたフロントマンが通り過ぎ、そのあとを2人の警官がドッカドッカと駆け抜けていくではありませんか。

 何があったんだろう。心配するなと言われてもねえ……?

 そして島を離れるために再びやってきた空港は、前に見たときよりちょっとは優しく思えました。
 早めに着いた空港の食堂でお昼。チリドッグとコンクチャウダー、キーライムパイ、そしてアイスティーとアイスミルク。2人ともアメリカは初めてではなかったけれど、久々だったので油断しました……。
 コンクチャウダーは島の貝で作ったチャウダーで、まあ、マグカップ1杯分。あふれているけれど、これは普通。飲み物も普通。チリドッグがホットドッグに見えなかったのが誤算(写真参照)。パンの上にかけられたチリソースの重みに耐えかねて、パンがグダ~っと皿の上に広がってピザ状態。それに山盛りのフライドポテト。そしてキーライムパイはアメリカのデザートそのものを体現したように、巨大ですこぶる甘ったるいシロモノ。素晴らしいアメリカン・デザート! なんか、やっと「アメリカに来た!」という感じかな(今まではただの南国気分)。

 やっとの思いで昼食を済ませると、来たときと同じ小さい飛行機に乗り込んで「やっぱり飛行機に乗ったと実感するには小型レシプロ機に限る」とうそぶきつつ、オーランド国際空港へと旅だったのでした。

【輪タク】【トローリーバス】【チリドッグ】【警官】
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「アラブの大富豪」 前田高行

2008-04-09 | 伝記・ノンフィクション
 最近、アラブ成分が不足していたので、ちっとばかし供給。

 今なお総額1京3000兆円相当の石油や天然ガスが眠っているという地下資源を背景に、世界経済を牛耳っているアラブの大富豪を描くことでオイルマネーの流れを紹介しようという本。

 アラブの大会社というのは、王族=大富豪が支配しているわけで、当然株式公開の必然性も何もないから他人が財務諸表を手に入れることは不可能。それでも表面に出てくる動きをとらえていくだけで、アラブの近現代史が浮かび上がってくるところが面白いよね。
 ビジネスとしては完全に失敗だった競馬の世界からドバイが得たモノは何か?
 ペルシャ湾での戦争を「湾岸戦争」と呼ぶのは何故か?
 サウジアラビアのアルワリード王子が投資家として成功できたのは何故か?
 産油国に囲まれた弱小国にすぎないヨルダン王国が国際政治で飛び回っている理由は?
 こうした話題の数々を順番に展開していくので、読んでいても飽きません。個人的にいちばん面白かったのは、建設ブームに湧くドバイの話かな。いつ完成するとも知れない巨大タワーは知っていたけれど、土台が回転するんで全室オーシャンビューなマンションは知りませんでした☆ 竣工した姿を是非みたいものです。

【アラブの大富豪】【前田高行】【オイルマネー】【コーラン】【政商】【王族】
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「漱石、ジャムを舐める」 河内一郎

2008-04-08 | 食・料理
 明治の文豪、夏目漱石の日記や著作を題材に、明治の食文化を検証しようという本。といっても、夏目漱石をおざなりに扱って好きなテーマを語っているのではありません。
 本当に、日記の記述から漱石がいつ誰に何を奢ったとか拾い出してみたり、「三四郎」が駅弁を買ったのはどこの駅か、それは何弁当かと作品の記述や当時の時刻表などを引っ張り出して検証してみるマニアックの極み。万事がこれ。
 資料的にも、後半は明治大正期の食文化年表とか物価一覧が掲載された資料集だし、前半にも焼失した松本楼のメニューとか星岡茶寮の間取り図とか資料やうんちくが満載。しかも、このメニューにしても、いつ頃のメニューか当時の電話帳と片っ端から照合して番号表記から確認しているし、星岡茶寮についてもその由来や創業廃業の顛末にまで事細かに言及しています。

 明治の食文化を知る上で必携の1冊であり、夏目漱石の作品を別の角度から愉しむためのガイドブック。

【夏目漱石】【食の明治史】
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『フロリダ旅行(1) キーウェスト国際空港』 1992.06/29

2008-04-08 | イベント・コンベンション
 夫婦でフロリダ旅行へ出かけたのは、もう随分前のこと。
 当時は行きたい場所を回るツアーコースが無くって、旅行社で航空機チケットと宿の手配だけして、あとは添乗員も現地スタッフもなんにも無しという旅行を選択。2人とも少しくらいは英語は話せるし、こみ入った会話をするわけでなし、行きたいところへ行くのが一番だよね。
 そして、そういうときに限ってトラブルに見舞われるものなんです。マーフィーばんざい。

 最初の目的地はキーウェスト。ヘミングウェイがネコと共に暮らした屋敷があり、シュワルツェネッガーがハリアーで吹き飛ばしたセブンマイル・ブリッジがコバルト色の海の上を何処までも続く南の島。ここを走りたくて国際運転免許証まで取得したけれど、飛行機の都合でキャンセル。ちょっと残念だったけれど、後から思えば、これで何が起こったかも解らない災厄を回避できた気がしないでもないね。

 まずはフロリダ空港でジャンボジェットから小型のレシプロ機に乗り換え。ジェットコースター並の振動に振り回されながらも、夜のキーウェスト国際空港に到着! ところが荷物がいつまで経ってもターンテーブルに出てこない……。
 しかも乗ってきたのが最終到着便。他に誰もいなくなった空港で、周囲の明かりがどんどん消されていきます。ほとんど非常灯だけになった到着ロビーで、どこにも姿のない空港係員の姿を求めて右往左往。
 いや、キーウェスト国際空港なんて立派な名前はついてますが、大きさとしたら近所のスーパーマーケットに消防署の火の見櫓を足したくらいの建物(写真参照)。本当に、どこにも人の気配がありません。
 なんとか、戸締まりされた職員用ドアを叩いて宿直職員を見つけ、カタコト英語でスーツケース紛失を訴えて手続を何とか済ませ、さて「どうやってホテルへ行こう?」……。

 誰もいなかった空港内部から、チョコバーの自販機なんかを横目で見つつ、一歩外で足を踏み出せば、そこは熱気あふれる南国の夜。そしたら、いくらでも人はいるわけですよ。空港以外周囲に何もなく、空港は電気消して真っ暗なのに、タクシー乗り場10人ほどが陽気に大声で雑談しているんです。たぶんタクシーの運転手です。開襟シャツに入れ墨の屈強そうなドライバーたち。あれだ、昔のマンガ『ポパイ』に出てくるブルートみたいな感じ。
 ふらふらと心細げに到着ロビーから出てくる東洋人2人に、運転手(と思われる人)たちがわらわらと寄ってきます。幸い、どう見たって、タクシーが必要なお客にしか見えませんから、こみ入った会話は必要はありません。
「あんちゃんたち、タクシーいるかい!?」
 赤いタンクトップにホットパンツのおねえちゃんの登場。
 彼女の運転するピンクのタクシーで、一路ホテルへ。後日、NY在住の義妹にその話をしたら「それ、白タクじゃん! 危ないよ?」と言われたけれど、他に選択肢がなかったんだから仕方がないってば。

 しかし、あの空港。今はさすがにきれいになってんのかねえ……?

【キーウェスト】【国際空港】【タクシー】
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「神託の夢~ドラル国戦史(3)」 ディヴィッド&リー・エディングス

2008-04-07 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「“正直”と“政府”はひとつの文章に出てくるものではないんだよ」
 「政府にひとりくらいは正直な人間はいないの?」というナラサン少年の問いかけへの父親の回答。

 古き神の時代が終わりつつあり、新しい神の目覚めが近づく時代。その端境期に出現した邪悪なるヴラーなるものは、爬虫類とも昆虫ともつかない部下たちを続々と生み出し、世界を支配せんと動き始めていた。
 4柱の古き神々は、ヴラーなるものから世界を守るべく……金塊を使って世界各地から戦士たちを呼び寄せた。傭兵軍団が、海賊が、狩人が、騎馬の民が、アマゾネスが、続々と集結し始める。
 だが、彼らの背後から意外な敵が襲いかかろうと策謀し、また新しき神々の目覚めも既に始まっていたのだ……。

 神々の最終戦争は金にあかせての代理戦争という、エディングス節ばりばりの新シリーズも3冊目。今回はどちらかというとインターミッション。前巻の続きでヴラーなるものの動向が描写され、新たな登場人物であるオマーゴら農夫が戦いに加わっていく過程が語られますが、それ以外は、目覚めつつ神々の思惑が語られたり、今までの物語をドラル国の軍人や海賊たちの視点から再話されます。
 これが、このシリーズの特長かな。ベルガリアード物語などでも「この写本にはこう伝えられている、この伝説ではこう。でも本当は……」という構成だったけれど、今回はそれが作品全体に及んでいます。たぶん、単純に書き連ねるだけなら1/3くらいの分量になってしまう物語を「この司令官にはこういう過去があり、こういう姿勢の持ち主だけれど、彼の視点では今の神々と悪しきものとの戦いはこう写っている」「この海賊にはこういう過去があり……」という形に膨らませているのですね。
 いわば、「ベルガリアード物語」「マロリオン物語」「魔術師ベルガラス」「女魔術師ポルガラ」を最初から1つの物語に取り込んでいるようなものです。この構成が中盤以後も続くのかな。こういう語り方が当初は回りくどい気もしたけれど、今はちょっと楽しみになりました。

【ドリーマーズ】【金塊】【昆虫人】【堕落】【軍人】
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「紅蓮の翼~『爆風』死闘の果て」 内田弘樹

2008-04-06 | 架空戦記・仮想戦史
 1トン爆弾を抱えて急降下できる戦闘攻撃機<爆風>。もし、そんな攻撃機が存在していたらという仮定の下に話が進むのが、この『紅蓮の翼』シリーズ。「<爆風>が戦争に投入されたことで戦局がどう変わっていったか」ではなく「<爆風>という戦闘攻撃機が存在していたら、どのような戦術が採用され、どのような戦場に投入し、その結果をどう発展させていっただろうか」という方向にIFの重心が傾いていますから、連作短編集の形式は、このテーマを語るのにふさわしいスタイルだと思います。
 シリーズ最終巻の『「爆風」死闘の果て』も、爆風を凶鳥ハーピーと呼ぶアメリカ艦隊の対抗戦術を描いたプロローグ「ソロモンに逃げ場なし」、爆風をコルセアに見立てて味方飛行隊の教育を行う爆風戦闘教導隊の物語「我らカモメにあらず」、反跳爆撃(スキップボミング)戦術を実戦に採用することになった五五三空の顛末を雑誌記事の体裁で描く「スキップボミングに勝機あり」、陸軍に地上攻撃機として採用された爆風一五型を駆って敵に挑む男たちの「辻斬り稼業」、そして捲土重来を期してガダルカナルの戦いに臨む空母エセックス視点で語るエピローグ「爆風の名の如く」と、さまざまな視点で<爆風>について語られます。
 「こんな戦闘攻撃機が日本にあったらスゴイぜ!」という妄想大爆発で登場した<爆風>を大事に大事に(=リアルにシビアな視点で)育て上げていきます。たとえば「スキップボミングに勝機あり」も、単純に新型機に新戦術で大勝利!という話ではなく、多大な犠牲を払いながらも試行錯誤で前進していく物語です。
 凄い! でも万能じゃない。だからこそ、その性能をあらゆる方策を使って、とことん引き出して活かしてやろうという熱さこそが、この作品の魅力です。

【架空戦記】【太平洋戦争】【爆風】【内田弘樹】
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