父が亡くなり母が塞ぎこむことが多くなった。その様子を見るたびに胸が締め付けられる思いであった。仕事の都合上なかなか外に連れ出すことが出来なかったが、たまたま日にちが取れて連れ出すことが出来た。そこで手前味噌ではあるけれど私の好きな湯平へ行くことにした。母もひなびた温泉を好むので意見が一致したわけである。道中は山々を縫って道が続くので、あちらを向いてもこちらを向いても桜、桜の山である。しかもソメイヨシノではない。多種多様の桜を見ることが出来た。丁度いい時期に行くことが出来たのである。
湯平の入口にある駐車場には一本の大きな山桜がある。花は小さく華奢な花でひっそりと咲いているかのようであった。見ごたえはそれほどではないかもしれないが、山の中で咲いている。これは趣があって良い。母も私も都会では見ることが出来ない桜を目の当たりにして感動したのである。これだけでもここに連れてきたかいがあったと言うものだ。