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依頼者・弁護士関係を、民法の委任契約で説明し難い場合は、存在するか。

2014-04-13 23:00:00 | シチズンシップ教育
 依頼者・弁護士関係を委任契約で説明し難い例(民法の委任契約で規律しえない例)は、原則存在しない、と考える。
 その一方で、1)委任契約締結前の依頼者と弁護士関係においては、法律の専門家として高度な注意義務等が課せられていること、2)委任契約締結後の委任者たる依頼者と受任者たる弁護士関係は、民法の委任契約で規律されおり、その規律が基本となること、そして、3)さらに弁護士として委任関係を、信認関係という真に意味のあるものにするために、心がけるべき事柄があることを念頭に、依頼者と弁護士の関係を築くべきである、と考える。
 以下、論ずる。

1、委任契約締結前の依頼者と弁護士の関係について

 弁護士は、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命」(弁護士法1条1項)とする「公益的役割」を担う社会的存在である。
 弁護士であるがゆえに、その社会的責任も重大であり、社会からは法律の専門家として見られるのであるから、高度の注意義務や守秘義務が課せられている。
 例えば、アメリカの事例であるが、入院中の医療事故で高度な麻痺が生じたことの法律相談で、勝ち目がないと助言した弁護士が、時効後に他の弁護士から勝訴の見込みがあったと教えられた家族に訴えられたところ、当事者間に弁護士と依頼者の関係(委任契約ではない)は成立しており、実際に与えた法的な助言は不適切かつ不正確であって、弁護士としての注意義務違反にあたると判事され損害賠償の責めを負った(Togstad case、テキスト「第1の例」52頁)。契約の成立がない段階においても、弁護士の専門家責任(弁護士倫理)に基づいて依頼者との間に一定以上の関係が導かれた瞬間に注意義務その他が生ずるとされた。我が国でも、契約締結前の関係性の理論(最判昭和59年9月18日、民法百選Ⅱ第6版3事件)は取り入れられているところであり、同様に家族は救済されうるだろう。
 また、守秘義務の問題では、トラック運転手が児童21名を死亡させた事故で、会社から派遣された弁護士に、運転手は、自分の味方だと思って不利なことまでしゃべったところ、弁護士はその情報を検察側に伝えた(おそらく会社の責任まで問わないこととこの情報提供が司法取引された)。運転手は、その弁護士を守秘義務違反で訴え、勝訴した(Perez case、テキスト「第2の例」53頁)。我が国においても、守秘義務違反を犯している以上、そのような弁護士には、不法行為責任(709条)が生じ、契約の有無に関わらず、同様の判決が下されると考える。
 たとえ、委任契約締結前の依頼者との対応であったとしても、弁護士は、依頼者が弁護士に抱く信頼を裏切らぬように行動することが求められている。


2、委任契約締結後の委任者たる依頼者と受任者たる弁護士の関係について

 2005年4月に施行された弁護士職務基本規定22条1項は、「弁護士は、委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重して職務を行うものとする」と規定する。弁護士と依頼者の関係が、委任契約であることを当然の前提としていることがわかる。
 実際に、民法の委任契約に則って、弁護士と依頼者の関係に適用したとしても、テキスト第三章で樋口範雄氏が述べるような大きな支障はなく、機能すると考える。
 すなわち、1)委任契約は、両当事者の合意を前提にしている(643条)ことに関連して、医師法19条の応召義務のようなものは、刑事事件の国選弁護のような場面では検討されても良いがだろうが、通常の弁護士活動の場面には要しないと思われる(テキスト56頁②への反論)。2)委任契約の終了事由として、当事者のどちらからでも、いつでも終了(解除)できるとされている(651条1項)。しかし、まだ係属中の紛争がありながら弁護士から自由に関係の終了がなされた場合には、その任意解除が「依頼者に不利な時期」にされたことで依頼者に損害が生じるのであれば、解除者たる弁護士は依頼人に対して損害賠償の責めを負う(同条2項本文)のであり、なんら依頼者に不利でもない(同③への反論)。3)受任者の報告義務の定めにつき、民法は委任者の請求があるときと委任終了時における義務を定める(645条)。確かに、依頼者が請求しなくとも様々な説明を進んでするのが弁護士の義務であるが、報告義務に違反がある場合、履行請求権・損害賠償責任が発生するほか、違反の態様次第では解除権も発生するところ、言わば最低限の報告義務が示されているのである(同④への反論)。4)650条3項は委任者の無過失損害賠償責任を規定するが、任意規定であり、委任事務処理により生じた損害をどちらが負担するものと考えられていたのか、受任者が損害を被る可能性を計算に入れて報酬額が決定されているなら、裁判所に駆けつける途中で弁護士がひき逃げにあおうと、その負担は弁護士である(同⑦への反論)。5)644条は善管注意義務を定めるが、644条の起草趣旨を踏まえれば、「委任の本旨に従い」とは、広範な概念であって、忠実義務とされる義務は、同条に言う善管注意義務に含めることができる(同⑧への反論)。

 以上、契約締結後においては、依頼者・弁護士関係は、民法の委任契約で、基本的には、規律し得る、と考える。

では、依頼者・弁護士関係を、単に「委任契約」で割り切るのではなく、「信認関係」にまで高めるのに心がけるべきことをあげるとすると、どのようなことが考えられるであろうか?
次に述べる。

3、委任契約たる依頼者・弁護士関係が「信認関係」にまで高めるための心がけについて

 (1)情報格差を埋める不断の努力

 民法の契約の規定は、原則として両当事者が対等な関係にあることを前提にしている。だが、弁護士と依頼者の関係は決して対等ではない。両者には歴然とした情報格差があるし、それは、民法の定める程度の報告義務・情報提供義務で埋まるものではない(その点では、645条だけでは不十分)。この点は、常に念頭におき、弁護士は依頼者と接することが必要であるし、社会に対し、憲法学や法律学の基礎的な知識や法的思考方法の基本を、情報発信する不断の努力が必要である。

(2)公益性と党派性のバランス

 弁護士は、上述の弁護士法1条1項「公益的役割」(公益性)及び「当事者その他の関係人の依頼等によって法律事務を行うことを職務とする」(同3条1項)という「当事者の代理人としての役割」(党派性)の一見矛盾する両者のバランスを取らねばならない。すなわち、「当事者の代理人としての役割」の限界を画すものが「公益的役割」である。従って、弁護士は、依頼者との信頼関係に基づく善管注意義務により、最大限の努力を傾注して依頼者の権利実現または利益擁護に邁進すべきだが、そのために社会的正義その他の規範に違反しまたは公益ないし公的価値に抵触することは許されない(加藤新太郎『弁護士役割論』)。
 例えば、レークプレザント事件(テキスト37頁)では、依頼者の告白した他の殺人事件について依頼を受けた弁護人は守秘義務を守ることまでは許されるが、その告白した事実を司法取引に用いようとしたところに「公益的役割」からの著しい逸脱がみられ、彼ら2人の弁護士が社会から断罪を受けたことはある意味当然の結果であると考える。

(3)依頼者に対する全人的ケア

 医学分野においては、医師には、病気を治すこと(cure)だけでなく、患者のQOLを高め、その患者が社会生活を豊かに送れることができるようになるという、全人的医療(care)を他職種連携の下に達成していくことが、常に目標としてある。しかし、残念ながら、Spaulding case(テキスト60頁)でいうのであれば、被告側の医師の行動は、あるべきケアの真逆であった。すなわち、原告の大動脈瘤を発見したのであれば、破裂すると生命の危険を来す重大疾患であるのだから、その治療を受けさせるように行動すべきであった。自分の役割は、被告側に依頼された診断をしたことで終えたとして、患者を放置することは医師として決して許されないと考える(医師に対する批判を同じ医師がすることは、医師の職業倫理に反する可能性があるが、その医師の個人的批判ではなく、医師の行動自体への批判である点で容赦願いたい。)。
 法律分野においても、同様に、法知識を技術的に使用するだけの専門的判断だけでなく、社会の中で生きている依頼者個人の法外的な側面への配慮、QOLへの配慮が求められている。レークプレザント事件の依頼者も結局は救われなかったが、「訴訟に勝ったが依頼者の生活は破壊された」では、その勝訴にはなんら意味がないのである。
 依頼者・弁護士関係を委任契約で説明し難い部分、民法の委任契約で規律しえない部分があるとすれば、このケアに関わるところであると考える。

以上

  

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