「中央区を、子育て日本一の区へ」こども元気クリニック・病児保育室  小児科医 小坂和輝のblog

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医師の守秘義務を考える上で重要判例。救急医療の現場で知りえた覚せい剤使用を通報することに関し。

2014-04-19 23:00:00 | 医療
 医師の守秘義務を考える上での、ひとつの重要判例(治療の目的で救急患者から尿を採取して薬物検査をした医師の通報を受けて警察官が押収した尿につきその入手過程に違法はないとされた事例)です。

 救急の現場で、知りえた覚せい剤使用を、警察に通報することが、医師の守秘義務に反するかどうか。

 とてもとても悩ましい問題です。

 なお、下記判例の医師の行為自体は、罰せられる違法性はありません(刑事訴訟法239条2項参照)。
 最高裁裁判官も全員一致で、判決を出しています。

 医師の守秘義務の原則は、どこまで通用するか。

 「医師は、治せばよい、覚せい剤の部分には触れないでよい。」と言っているのでは決してありません。
 傷の治療だけして、覚せい剤使用を放置して退院させると、この患者は、救われない。
 治すべき部分は、短期的には、もちろんナイフの刺し傷。長期的には、薬物に依存することになったこと。
 患者のために、全人的ケアが求められるケースです。
 忙しい救急現場だけでは、対応できるものでもありません。


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刑事訴訟法239条
第二百三十九条  何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる。
○2  官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。


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メモ:「証拠能力」と証拠の「証明力」との違い。

 「証拠能力」は、裁判に、証拠として出せるかどうか。
 違法に得られた証拠は、裁判には出されません。
 もし、このケースで、採尿結果の証拠が、医師の守秘義務違反に基づき違法だとされたら、検察は、この患者の覚せい剤使用の犯罪を、他の証拠を用いて証明しなければならなくなります。

 一方、証拠の「証明力」は、その証拠を用いて、事実を証明しうるかどうか。
 このケースでは、患者さんの尿から覚せい剤が検出されたという鑑定書を用いて、患者が覚せい剤を使用していたと証明しえ、結果、検察は、その患者を覚せい剤使用の罪で罰すべきことを法廷で主張しえます。
 鑑定書が、裁判で用いられなければ、実質的には、「国立病院aにおいて、患者さんの尿から覚せい剤が検出された」という事実なしで、裁判が行われることとなります。
 他に有力な証拠がなければ、裁判上は、無罪ともなりえます。




*****最高裁ホームページより*************************

 主    文
       本件上告を棄却する。

         理    由

 弁護人森野嘉郎の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,所論引用の判例は事案
を異にして本件に適切でなく,その余は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる
法令違反の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

 なお,所論にかんがみ,被告人の尿に関する鑑定書等の証拠能力について職権で
判断する。

 1 原判決及びその是認する第1審判決の認定によれば,被告人の尿の入手経過
は,次のとおりである。

 (1) 被告人は,平成15年4月18日,同せい相手と口論となり,ナイフによ
り右腰背部に刺創を負い,同日午後7時55分ころ,東京都世田谷区内の病院で応
急措置を受けたものの,出血が多く,救急車で国立病院aに搬送された。被告人は
,同日午後8時30分ころ,上記aに到着した際には,意識は清明であったものの
,少し興奮し,「痛くないの,帰らせて。」,「彼に振り向いてほしくて刺したの
に,結局みんなに無視されている。」などと述べ,担当医師が被告人を診察したと
ころ,その右腰背部刺創の長さが約3㎝であり,着衣に多量の血液が付着していた
のを認めた。
 (2) 同医師は,上記刺創が腎臓に達していると必ず血尿が出ることから,被告
人に尿検査の実施について説明したが,被告人は,強くこれを拒んだ。同医師は,
先にCT検査等の画像診断を実施したところ,腎臓のそばに空気が入っており,腹
腔内の出血はなさそうではあったものの,急性期のためいまだ出血していないこと
も十分にあり得ると考え,やはり採尿が必要であると判断し,その旨被告人を説得
した。被告人は,もう帰るなどと言ってこれを聞かなかったが,同医師は,なおも
- 1 -
約30分間にわたって被告人に対し説得を続け,最終的に止血のために被告人に麻
酔をかけて縫合手術を実施することとし,その旨被告人に説明し,その際に採尿管
を入れることを被告人に告げたところ,被告人は,拒絶することなく,麻酔の注射
を受けた。
 (3) 同医師は,麻酔による被告人の睡眠中に,縫合手術を実施した上,カテー
テルを挿入して採尿を行った。採取した尿から血尿は出ていなかったものの,同医
師は,被告人が興奮状態にあり,刃物で自分の背中を刺したと説明していることな
どから,薬物による影響の可能性を考え,簡易な薬物検査を実施したところ,アン
フェタミンの陽性反応が出た。
 (4) 同医師は,その後来院した被告人の両親に対し,被告人の傷の程度等につ
いて説明した上,被告人の尿から覚せい剤反応があったことを告げ,国家公務員と
して警察に報告しなければならないと説明したところ,被告人の両親も最終的にこ
れを了解した様子であったことから,被告人の尿から覚せい剤反応があったことを
警視庁玉川警察署の警察官に通報した。
 (5) 同警察署の警察官は,同月21日,差押許可状の発付を得て,これに基づ
いて同医師が採取した被告人の尿を差し押さえた。

 2 所論は,担当医師が被告人から尿を採取して薬物検査をした行為は被告人の
承諾なく強行された医療行為であって,このような行為をする医療上の必要もない
上,同医師が被告人の尿中から覚せい剤反応が出たことを警察官に通報した行為は
医師の守秘義務に違反しており,しかも,警察官が同医師の上記行為を利用して
被告人の尿を押収したものであるから,令状主義の精神に反する重大な違法があり
,被告人の尿に関する鑑定書等の証拠能力はないという


 しかしながら,【要旨】上記の事実関係の下では,同医師は,救急患者に対する
治療の目的で,被告人から尿を採取し,採取した尿について薬物検査を行ったもの
- 2 -
であって,医療上の必要があったと認められるから,たとえ同医師がこれにつき被
告人から承諾を得ていたと認められないとしても,同医師のした上記行為は,医療
行為として違法であるとはいえない。

 また,医師が,必要な治療又は検査の過程で採取した患者の尿から違法な薬物の
成分を検出した場合に,これを捜査機関に通報することは,正当行為として許容さ
れるものであって,医師の守秘義務に違反しないというべきである


 以上によると,警察官が被告人の尿を入手した過程に違法はないことが明らかで
あるから,同医師のした上記各行為が違法であることを前提に被告人の尿に関する
鑑定書等の証拠能力を否定する所論は,前提を欠き,これらの証拠の証拠能力を肯
定した原判断は,正当として是認することができる。

 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,
主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉 徳治 裁判官 島
田仁郎 裁判官 才口千晴)
- 3 -
コメント (2)
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