「中央区を、子育て日本一の区へ」こども元気クリニック・病児保育室  小児科医 小坂和輝のblog

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内部統制システム構築義務に関する初めての最高裁判例H21.7.9についての分析

2014-04-27 23:00:00 | シチズンシップ教育
第1、内部統制システムについて
1、会社法上の内部統制システムの意義について
 規模がある帝都以上の会社において、会社が営む事業の規模・特性等に応じたリスク管理体制を整備する必要がある。そのようなリスク管理体制を、内部統制システムという。その会社の特定の組織・部署を指す概念ではなく、全社的な経営トップから従業員の末端に至るまでの組織全体のおける仕組み・工夫を言う。例えば、契約書の作成、伝票・領収書等の作成・保管の手続や、社内の決裁権限の定めは、内部統制システムの重要な構成要素である。
 従業員が少ない会社では、取締役が人的組織の活動につき隅々まで目を光らせることも必ずしも不可能ではないが、一定規模以上の会社では、取締役が直接に個々の従業員を監視することは不可能であり、現実的でもない。そこで、この内部統制システムを構築して、会社の計算及び業務執行が適正かつ効率的に行なわれることを確保すること(不適切な計算・業務執行を完全に予防するのではなく、その確率を費用対効果の観点において合理的な程度にまで引き下げること)に意義がある。

2,会社法上、内部統制システム構築義務を負う場合について
 会社法上、「取締役の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適性を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」と規定している。
 取締役は、取締役会の構成員として、また、代表取締役または業務執行取締役として、リスク管理体制を構築すべき義務を負い、さらに、代表取締役と業務執行取締役がリスク管理体制を構築すべき義務を履行しているか否かを監視する義務を負う。

第2、最高裁の考える内部統制システムの程度
1、事案の概要
 企業の上層部の部長が、不正をして売り上げが上がるようにしていたことを、4年間見抜くことができずにいたことについて、代表取締役に内部統制システム構築違反があるかが問われた事案。不正会計が明るみになることで、株価が下がり、損害を被ったとする株主が、会社及びその代表取締役に対し、損害賠償請求をした。

2,被告において架空売上の計上等の不正行為を防止するために構築されたものと認められたシステムとはどのようなものかについて
○職務分掌規定等を定めて事業部門と財務部門を分離したこと

○C事業部について,営業部とは別に注文書や検収書の形式面の確認を担当するBM課及びソフトの稼働確認を担当するCR部を設置し,それらのチェックを経て財務部に売上報告がされる体制を整えたこと

○監査法人との間で監査契約を締結し,当該監査法人及び上告人の財務部が,それぞれ定期的に,販売会社あてに売掛金残高確認書の用紙を郵送し,その返送を受ける方法で売掛金残高を確認することとしていたこと

 以上、3点がシステムとして認められた。

第3、裁判例、判例の分析
1、第1審・控訴審・最高裁の各判決の結論について
 第1審・控訴審は、代表取締役の内部統制システム構築義務違反を認定し損害賠償請求権が肯定された。一方、最高裁は、代表取締役の内部統制システム構築義務違反はないとされ、損害賠償請求権が否定された。

2、結論の違いの前提となる事実の評価について
 第1審・控訴審では、本件不正行為当時,C事業部は幅広い業務を分掌し,BM課及びCR部が同事業部に直属しているなど,上告人の組織体制及び本件事務手続にはBらが企図すれば容易に本件不正行為を行い得るリスクが内在していたにもかかわらず,上告人の代表取締役であるAは,上記リスクが現実化する可能性を予見せず,組織体制や本件事務手続を改変するなどの対策を講じなかった。また,財務部は,長期間未回収となっている売掛金債権について,販売会社に直接売掛金債権の存在や遅延理由を確認すべきであったのにこれを怠り,本件不正行為の発覚の遅れを招いたもので,このことは,Aが財務部によるリスク管理体制を機能させていなかったことを意味する。したがって,Aには,上告人の代表取締役として適切なリスク管理体制を構築すべき義務を怠った過失があると評価された。
 一方、最高裁では、1)第2問2でいうシステムが構築されていることから、通常想定される架空売上げの計上等の不正行為を防止し得る程度の管理体制は整えていたものということができる。2)そして,本件不正行為は,C事業部の部長がその部下である営業担当者数名と共謀して,販売会社の偽造印を用いて注文書等を偽造し,BM課の担当者を欺いて財務部に架空の売上報告をさせたというもので,営業社員らが言葉巧みに販売会社の担当者を欺いて,監査法人及び財務部が販売会社あてに郵送した売掛金残高確認書の用紙を未開封のまま回収し,金額を記入して偽造印を押捺した同用紙を監査法人又は財務部に送付し,見掛け上は上告人の売掛金額と販売会社の買掛金額が一致するように巧妙に偽装するという,通常容易に想定し難い方法によるものであったということができる。3)また,本件以前に同様の手法による不正行為が行われたことがあったなど,上告人の代表取締役であるAにおいて本件不正行為の発生を予見すべきであったという特別な事情も見当たらない。4)さらに,前記事実関係によれば,売掛金債権の回収遅延につきBらが挙げていた理由は合理的なもので,販売会社との間で過去に紛争が生じたことがなく,監査法人も上告人の財務諸表につき適正であるとの意見を表明していたというのであるから,財務部が,Bらによる巧妙な偽装工作の結果,販売会社から適正な売掛金残高確認書を受領しているものと認識し,直接販売会社に売掛金債権の存在等を確認しなかったとしても,財務部におけるリスク管理体制が機能していなかったということはできない。以上によれば,上告人の代表取締役であるAに,Bらによる本件不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があるということはできないと評価された。

以上
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