すっかり影を潜めた新型インフルエンザですが、いまやWHOはこの警戒レベルを最も高い「世界的大流行」であるフェーズ6に引き上げています。
ところがもはや新鮮さを失ったネタに対してマスコミは冷淡です。「大変なことになりそうだ」という恐怖感を煽ったすえに、正しい知識や心構えなどを冷静に伝えることもないようです。
素人でも分かる基礎的医療情報を掲げるMRICというメルマガに、「現場の意見をマスコミに」というタイトルで医療現場の声が寄せられていましたのでお届けします。
---------- 【ここから引用】 ----------
▽ 現場の意見をマスコミに ▽
有限会社 T&Jメディカル・ソリューションズ
代表取締役 木村 知
AFP(日本FP協会認定)
医学博士
2009年6月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行
http://medg.jp
------------------------------------------------------------------------------
素人にも分かる基礎知識そろってます。患者さんへの説明にご活用ください。
『ロハス・メディカルweb』新装開設(もちろん無料)
http://lohasmedical.jp
ロハス・メディカル発行人 川口恭
------------------------------------------------------------------------------
皆様からのご寄附をお待ちしております!!出産の際に不幸にしてお亡くな
りになった方のご家族を支援する募金活動を行っています。一例目のご遺族の
方に募金をお渡しすることができました。引き続き活動してまいります。
周産期医療の崩壊をくい止める会より http://perinate.umin.jp/
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世界保健機関(WHO)は6月11日に豚インフルエンザの警戒レベルを「世界的大流行」のフェーズ6にレベルアップしました。このニュースは主要紙の一面に翌日掲載されましたが、ワイドショウをはじめとして今までかなりの勢いでインフルエンザ報道をしていた各局テレビ番組では、この件にそれほど多くの時間を割くことはなかったように思われます。
食品偽装問題や、閣僚の不祥事、日本人選手の世界レベルでの活躍や芸能人のスキャンダルなど、大衆向け番組のトップニュースはまさに日替わり。そして、それらの「ニュース」はある一定期間騒ぎたてられた挙げ句に、ものの数日間ですっかり忘れ去られたように、新聞の番組欄からも視聴者の記憶の中からも消えてゆきます。しかしこれらの「使い捨ての情報」が後々大きな問題を残してしまうのだという危険性を、果たして番組制作担当者はどれほど認識しているのでありましょうか?
このような「使い捨て情報番組」では、いわゆるコメンテーターと称する人々が次々に根拠のない「私見」を声高に発信します。今回のインフルエンザについても、医療にどれだけお詳しいのかわかりませんが、作家やタレント、経済ジャーナリストや政治評論家までもが、自らの「インフルエンザ論」をまことしやかに論じておられました。
医療ジャーナリストや感染症の専門家を名乗る医師らもゲストとして登場し、より視聴者に説得力のある専門的立場から「私見」を発信するわけですが、これらの人々も果たして本当に現場でインフルエンザ治療に関わったことがあるのか、疑問を抱かずにはいられない発言をされていました。
これらの無責任な「使い捨て情報」が視聴者の記憶のなかに残留することが、今後確実に到来が予測される秋以降の「第2波」でパニックを引き起こすことに繋がるのではないかと私は強く危惧しています。
* * * * *
私が診療に携わっているクリニックは、年齢性別、診療科を問わず年中無休で夜間9時まで診療している便利さから、毎日多くの患者さんが訪れます。特に冬のインフルエンザシーズンになると、それこそ「発熱外来」の様相を呈し、ピーク時には一週間に数百人ペースでの新規インフルエンザ患者の診断と治療を実際に行うことになります。
毎年このような状況で診療している私たちの間では、インフルエンザの早期診断は非常に難しいという見解で一致しています。いわゆるインフルエンザ様症状を呈していても、発症間もない場合は迅速検査をしても、まず陰性となります。しかし、だからといって熱発から○時間経過していれば必ず陽転する、とも言い切れません。
特に今年は、熱発して二日目にやっと二度目の検査で陽性に出たケースも多くありました。シーズン終盤に流行したB型では、発熱初日に陰性、翌日一旦自然解熱し来院されず、三日目に再度の熱発で再診され、そこで初めて陽性反応が出るという特徴がありました。
逆に、ほとんど症状なく来院、体温も36度前半(解熱剤の服薬なし)で、患者さん希望により念のため、渋々検査をしたところ陽性になった、というケースもあります。つまり、インフルエンザの早期診断は、われわれのような「インフルエンザ治療のエキスパート集団」の熟練した(?)診断能力をもってしても、かなり困難といえます。
* * * * *
検査の不確実性は、現場で十分に説明していますが、おそらく多くのB型患者さんは一旦解熱した二日目には学校や職場に出かけたと思われます。従って、「発熱したらすぐ病院で検査を受けて確実に診断を」などと報道するのは流行拡大防止の観点からは大変危険であるということがわかります。すべての医療行為に共通のことですが、この「医療の不確実性」についてひろく国民に周知する必要性があるでしょう。
もう一つ、インフルエンザ診療を通して流行拡大の危険性を感じるのは、危機的状況から脱した(つまりタミフルが効いて解熱した)あとの患者さんの行動についてです。多くの場合、タミフル、リレンザは著効するため、咳などの上気道炎症状は残るものの、数時間から二日くらいのうちに熱は下がります。すると熱の下がった患者さんたちは、多くの場合、「熱も下がったのにそんなに長期間休んでいられない」とすぐに社会活動に復帰してしまうのです。
子供たちの場合は、出席停止の措置がとられるので、大きな問題にならないようにも思われますが、それでも「熱が下がって元気にしているからすぐにでも登校させたい」という自己中心的な考え方の親御さんもかなりいらっしゃいます。「熱は悪者、すぐに下げるべし。解熱すれば治癒」という発熱についての誤った一般的な認識がこういった行動の根底にあるのでしょう。
これらの意識改革も重要です。そもそも、学校保健法による「解熱後二日を経過するまで登校停止」という基準はタミフルなどの抗ウイルス剤が使用されることを前提とはしていないと思われます。抗ウイルス剤を使用すると、最短で発症してから三日目に登校許可の基準をクリアしてしまう症例もあるのです。
日本医事新報(6月6日号)の質疑応答欄では、「インフルエンザの出席停止期間」について東大医科研の田村大輔先生が回答者として執筆されておられますが、そこでは、抗ウイルス剤治療後のウイルス排泄の可能性が指摘されており、解熱後患者さんの適切な行動についても、広く周知することが大切です。
人間は、不安や恐怖など身辺に危険が及ぶと、防衛反応からか、自己中心的になります。映画「タワーリング・インフェルノ」ではわれ先に非常口に殺到するという群衆の行動が、さらに一層の悲劇を生むということを表現していたと記憶していますが、これは人間の本能であり、変えられない仕方のないものなのかもしれません。
しかし、インフルエンザ治療の現場に疎い素人さんたちが発信する「使い捨ての情報」を無責任に垂れ流すことで不安と恐怖だけを煽れば、いっそう自己中心的な群衆を増やし、さらに感染被害を広げてしまうのは自明です。
番組制作には、視聴率増加などのいろいろな数値目標や、関係省庁や政府からの要請などがあり、われわれ医療現場の生の意見がその意向に沿わない事情もあるのかもしれませんが、国民全体でインフルエンザ流行拡大に真剣に取り組まなくてはならない現状なのですから、今こそマスコミはその影響力を存分に発揮し、実際にインフルエンザ治療に携わっている現場医師たちが情報発信できる場を提供しなければならないのではないでしょうか。
---------- 【引用ここまで】 ----------
つまらない(と判断した)記事はスルーし、読者の意見も聞くことはないマスコミに対しては、現代人はネット井戸端会議の力で情報を集めて正しい対応をするしかありません。
こうしたMRICのように、専門的でいながら分かりやすい形で流されているもののなかなか一般的な人にまでは届かない情報を、二次的に広めるのもアマチュアブロガーの頑張りどころなのかもしれません。
待っているだけでは届かない適切な情報にたどりつく力を互いに補足しあいましょう。
インフルエンザ対策は、完治するまで家で我慢するしかない、というのが現実的な対応のようです。やがて来る次なるパンデミックには、テレビに踊らされることなく冷静に対応したいものです。
ところがもはや新鮮さを失ったネタに対してマスコミは冷淡です。「大変なことになりそうだ」という恐怖感を煽ったすえに、正しい知識や心構えなどを冷静に伝えることもないようです。
素人でも分かる基礎的医療情報を掲げるMRICというメルマガに、「現場の意見をマスコミに」というタイトルで医療現場の声が寄せられていましたのでお届けします。
---------- 【ここから引用】 ----------
▽ 現場の意見をマスコミに ▽
有限会社 T&Jメディカル・ソリューションズ
代表取締役 木村 知
AFP(日本FP協会認定)
医学博士
2009年6月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行
http://medg.jp
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素人にも分かる基礎知識そろってます。患者さんへの説明にご活用ください。
『ロハス・メディカルweb』新装開設(もちろん無料)
http://lohasmedical.jp
ロハス・メディカル発行人 川口恭
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皆様からのご寄附をお待ちしております!!出産の際に不幸にしてお亡くな
りになった方のご家族を支援する募金活動を行っています。一例目のご遺族の
方に募金をお渡しすることができました。引き続き活動してまいります。
周産期医療の崩壊をくい止める会より http://perinate.umin.jp/
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世界保健機関(WHO)は6月11日に豚インフルエンザの警戒レベルを「世界的大流行」のフェーズ6にレベルアップしました。このニュースは主要紙の一面に翌日掲載されましたが、ワイドショウをはじめとして今までかなりの勢いでインフルエンザ報道をしていた各局テレビ番組では、この件にそれほど多くの時間を割くことはなかったように思われます。
食品偽装問題や、閣僚の不祥事、日本人選手の世界レベルでの活躍や芸能人のスキャンダルなど、大衆向け番組のトップニュースはまさに日替わり。そして、それらの「ニュース」はある一定期間騒ぎたてられた挙げ句に、ものの数日間ですっかり忘れ去られたように、新聞の番組欄からも視聴者の記憶の中からも消えてゆきます。しかしこれらの「使い捨ての情報」が後々大きな問題を残してしまうのだという危険性を、果たして番組制作担当者はどれほど認識しているのでありましょうか?
このような「使い捨て情報番組」では、いわゆるコメンテーターと称する人々が次々に根拠のない「私見」を声高に発信します。今回のインフルエンザについても、医療にどれだけお詳しいのかわかりませんが、作家やタレント、経済ジャーナリストや政治評論家までもが、自らの「インフルエンザ論」をまことしやかに論じておられました。
医療ジャーナリストや感染症の専門家を名乗る医師らもゲストとして登場し、より視聴者に説得力のある専門的立場から「私見」を発信するわけですが、これらの人々も果たして本当に現場でインフルエンザ治療に関わったことがあるのか、疑問を抱かずにはいられない発言をされていました。
これらの無責任な「使い捨て情報」が視聴者の記憶のなかに残留することが、今後確実に到来が予測される秋以降の「第2波」でパニックを引き起こすことに繋がるのではないかと私は強く危惧しています。
* * * * *
私が診療に携わっているクリニックは、年齢性別、診療科を問わず年中無休で夜間9時まで診療している便利さから、毎日多くの患者さんが訪れます。特に冬のインフルエンザシーズンになると、それこそ「発熱外来」の様相を呈し、ピーク時には一週間に数百人ペースでの新規インフルエンザ患者の診断と治療を実際に行うことになります。
毎年このような状況で診療している私たちの間では、インフルエンザの早期診断は非常に難しいという見解で一致しています。いわゆるインフルエンザ様症状を呈していても、発症間もない場合は迅速検査をしても、まず陰性となります。しかし、だからといって熱発から○時間経過していれば必ず陽転する、とも言い切れません。
特に今年は、熱発して二日目にやっと二度目の検査で陽性に出たケースも多くありました。シーズン終盤に流行したB型では、発熱初日に陰性、翌日一旦自然解熱し来院されず、三日目に再度の熱発で再診され、そこで初めて陽性反応が出るという特徴がありました。
逆に、ほとんど症状なく来院、体温も36度前半(解熱剤の服薬なし)で、患者さん希望により念のため、渋々検査をしたところ陽性になった、というケースもあります。つまり、インフルエンザの早期診断は、われわれのような「インフルエンザ治療のエキスパート集団」の熟練した(?)診断能力をもってしても、かなり困難といえます。
* * * * *
検査の不確実性は、現場で十分に説明していますが、おそらく多くのB型患者さんは一旦解熱した二日目には学校や職場に出かけたと思われます。従って、「発熱したらすぐ病院で検査を受けて確実に診断を」などと報道するのは流行拡大防止の観点からは大変危険であるということがわかります。すべての医療行為に共通のことですが、この「医療の不確実性」についてひろく国民に周知する必要性があるでしょう。
もう一つ、インフルエンザ診療を通して流行拡大の危険性を感じるのは、危機的状況から脱した(つまりタミフルが効いて解熱した)あとの患者さんの行動についてです。多くの場合、タミフル、リレンザは著効するため、咳などの上気道炎症状は残るものの、数時間から二日くらいのうちに熱は下がります。すると熱の下がった患者さんたちは、多くの場合、「熱も下がったのにそんなに長期間休んでいられない」とすぐに社会活動に復帰してしまうのです。
子供たちの場合は、出席停止の措置がとられるので、大きな問題にならないようにも思われますが、それでも「熱が下がって元気にしているからすぐにでも登校させたい」という自己中心的な考え方の親御さんもかなりいらっしゃいます。「熱は悪者、すぐに下げるべし。解熱すれば治癒」という発熱についての誤った一般的な認識がこういった行動の根底にあるのでしょう。
これらの意識改革も重要です。そもそも、学校保健法による「解熱後二日を経過するまで登校停止」という基準はタミフルなどの抗ウイルス剤が使用されることを前提とはしていないと思われます。抗ウイルス剤を使用すると、最短で発症してから三日目に登校許可の基準をクリアしてしまう症例もあるのです。
日本医事新報(6月6日号)の質疑応答欄では、「インフルエンザの出席停止期間」について東大医科研の田村大輔先生が回答者として執筆されておられますが、そこでは、抗ウイルス剤治療後のウイルス排泄の可能性が指摘されており、解熱後患者さんの適切な行動についても、広く周知することが大切です。
人間は、不安や恐怖など身辺に危険が及ぶと、防衛反応からか、自己中心的になります。映画「タワーリング・インフェルノ」ではわれ先に非常口に殺到するという群衆の行動が、さらに一層の悲劇を生むということを表現していたと記憶していますが、これは人間の本能であり、変えられない仕方のないものなのかもしれません。
しかし、インフルエンザ治療の現場に疎い素人さんたちが発信する「使い捨ての情報」を無責任に垂れ流すことで不安と恐怖だけを煽れば、いっそう自己中心的な群衆を増やし、さらに感染被害を広げてしまうのは自明です。
番組制作には、視聴率増加などのいろいろな数値目標や、関係省庁や政府からの要請などがあり、われわれ医療現場の生の意見がその意向に沿わない事情もあるのかもしれませんが、国民全体でインフルエンザ流行拡大に真剣に取り組まなくてはならない現状なのですから、今こそマスコミはその影響力を存分に発揮し、実際にインフルエンザ治療に携わっている現場医師たちが情報発信できる場を提供しなければならないのではないでしょうか。
---------- 【引用ここまで】 ----------
つまらない(と判断した)記事はスルーし、読者の意見も聞くことはないマスコミに対しては、現代人はネット井戸端会議の力で情報を集めて正しい対応をするしかありません。
こうしたMRICのように、専門的でいながら分かりやすい形で流されているもののなかなか一般的な人にまでは届かない情報を、二次的に広めるのもアマチュアブロガーの頑張りどころなのかもしれません。
待っているだけでは届かない適切な情報にたどりつく力を互いに補足しあいましょう。
インフルエンザ対策は、完治するまで家で我慢するしかない、というのが現実的な対応のようです。やがて来る次なるパンデミックには、テレビに踊らされることなく冷静に対応したいものです。
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