「これまでやってきた政策って、全部過疎対策なんです」
そういうのはこの地域のある首長さん。子育ても医療も産業振興も教育も全部、この町に住む人が幸せを感じて人口が増えることを願ってのことなのだと。
「でもことごとく期待に反して人口は減り続けています。地域の首長が集まるたびに、『お互いに住民を奪い合うようなことはしないでおこうね』と言っていますが、地域間で頑張っても皆札幌や東京へ行ってしまう。なにをやってきたのかなあ、と空しくなることがありますよ」
地方創生という現政権の看板政策が語られるときに、その基本方針として「東京一極集中の歯止め」が挙げられ、『地方から東京圏への人口流出(特に若い世代)に歯止めをかけ、地方に住み、働き、豊かな生活を実現したい人々の希望を実現する。東京圏の活力の維持・向上を図りつつ、過密化・人口集中を軽減し、快適かつ安全・安心な環境を実現する』と記されています。
しかし、現実には都会へ来る人の流れを止めるようなことはなく、地方には『地域の特性に即した地域課題を解決せよ』と言います。
「もうさんざんやってきたけど地方で解決できることなんてないのじゃないか、という気持ちになります。そもそも地方が頑張っても、国全体の子供の数や人口が増えないのならば、それは地域同士で奪い合えということにしかならないではありませんか」
人口が増えてこそ初めてどう奪い合うかという議論もできようというものですが、問題はまず国として人口が増えないことです。このことが地方において人口減少対策が機能しない最大のポイントです。
「まずは底が抜けて水が漏れる樽の穴を塞げってことですよ」
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しかしもう一つの問題は、国の少子化対策、人口増加政策が機能したとしても本当に人口が増えてくるためには時間のタイムラグがあります。
まだこれからも人口減少の局面を迎える時間を耐えていかなくてはなりません。
人口が増加に転じる時期を期待しつつ、まず自分たちにできることは人口が減っても今の都市機能や地域の生活水準を落とさずに頑張るということ。そのためにはより少ない人間で今と同じだけの生産規模や水準の維持を行うことです。
そしてそのためには一人一人がこれまで以上の役割を果たしていかなくてはなりません。10人でやっていることがこれからは8人でやらなくてはならないとしたら、その2人分を何らかの技術で埋めるか、一人一人が10/8だけ効率を上げなくてはならないということです。
私はその時のキーワードとして「多能工になる」ということを挙げたいと思います。
専門的なプロフェッショナルが仕事を行うことで効率的な仕事を行えるというのは仕事の機会が多い都会での出来事。
仕事や機会が少ない地方部では、様々な局面でプロとまで行かなくてもセミプロ級の仕事はできるというスキルをもってそれを各方面で発揮しあうようなことで補う思想が必要だと思います。
だから一つのことを先鋭的に行うことが得意な人は都会で暮らし、いろいろな事が器用に行える人は地方で暮らす。そして地方で暮らすことに対するインセンティブを与えるような政策が必要になると思います。
自分は多能工で行けるのか、専門家で行くのか、そんな自分の得意技にみあった生き方や住まいが選べるような時代が来ないでしょうか。
単身赴任経験者って、多能工への良い練習ができていると思います。もっといろんなことができるようになって、地方の暮らしを支えるという生き方はいかがでしょうか。