「ああ、あなたも登りましたか。私も登りましたが最後の壁は大変だったでしょう」
かつて長野県松本市で二年半勤務をしたときに、初めて北アルプスの槍ヶ岳登山をしたときの話を地元の方に言ったときの相手の言葉がこれでした。
数多く転勤して様々な土地に住みましたが、なかでも長野県の人たちの人柄は独特です。相手を値踏みし、自分の主張がしっかりしていて一家言あるのがその特徴。
役職だとか立場のような薄っぺらな権威は通じないし、お世辞やおべんちゃらも通じません。、それよりは"本当のところ何を考えているのか"の方がずっと重要です。
そんな典型的な信州人が多い松本市があるのがいわゆる"安曇野(あずみの)"地域。田園風景と北アルプスの組み合わせが何とも美しい地域です。
ここでで信州人を相手に仕事をしようと思ったときに、受け入れてもらうためには地元の人たちの自慢や誇りを自分も共感し共有することが大切だと思いました。
そこで何が地元の自慢や誇りなんだろうか、といろいろな人の話を聞いているとどうやら「蕎麦と北アルプス」らしいということが分かりました。そこで蕎麦は地元の手打ち蕎麦屋を食べ歩くことにし、北アルプスはとにかく登ってみようということにしました。
槍ヶ岳に上ったのは着任した翌年の二年目でしたが、それによって始めて地元の人たちから「そうですか、登りましたか」と喜ばれ、親近感を持ってもらえたような気がします。
かつて、世間から「こいつは一人前だ」と思われるためにはある種の通過儀礼(=イニシエーション)がよく行われました。
それは一定の年齢に達すれば自動的に取得できる場合もあれば、バンジージャンプのように勇気を持った行動を取ったことで周りから認められるというような場合もあります。
安曇野ではアルプスへ登ることが、特にヨソ者にとっては一つの通過儀礼になっていたように思います。
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翻ってわが稚内。サハリン旅行をしたことで初めてサハリンとの交流を薦めたり、また彼の地との物流やビジネスの難しさなどを肌身で感じることができました。
今回サハリンへ旅行をして現地の風景や様子が分かりましたが、このことで市役所や経済会の人たちとサハリンを話題にする際にもすっと話に入れます。
サハリン旅行って実は稚内におけるヨソ者にとっての通過儀礼なのかもしれないなあ、と改めて思いました。
ちなみに安曇野での蕎麦の方は、長野県内で100件以上の蕎麦屋さんを巡って全てをリスト化して回りました。蕎麦に心底詳しくなるということも信州で認められる素養の一つで、このことでも随分助かったものです。
新しい土地へ転勤した時に地元の人たちの理解を得、仲間として認めてもらうためには、その土地の通過儀礼が何なのかを考え、それを実践しましょう。
それもできるだけ早いうちに気が付くとなお良いのですがね。