六月の末に毛ガニと焼肉パーティをしていたところ、フランス人の中年カップルがやってきてちょっとした会話になりました。
そのときにそのカップルの旅行の目的地が美深町と聞いてそこへ行きたい理由が分からず再度聞き返すと、「十二滝、ハルキ・ムラカミの小説に出てくるところ、"A wild sheep chase"」という謎のような言葉を吐かれました。
よくよく調べてみると、このフランス人が言っていた小説は村上春樹の三作目の小説である「羊をめぐる冒険」だということが分かりました。
→【2015年6月28日ブログ記事】 「Where're you from? ~ビッグデータじゃない外国人観光データ」
しかし私の頭は大混乱。
(私が知らない村上春樹の小説をフランス人が読んでいる)、(物語りの中に"十二滝町"という架空の地名が登場し、それは美深のことでハルキストの間では有名らしい)、(舞台は美深町の仁宇布(ニウプと読む)らしいがそれは物語りの中に「鉄道の終点」という表現があることから推測される)、(この鉄道の終点とはすでに廃線になった美幸線のことらしい…が美幸線ってなんだ?)
…とまあ、海外の人がピンポイントで知っていても、同じ北海道に住む自分が知らないことは多いもの。特に美深町という町を知り観光を味わうなどということはこれまで考えもしませんでした。
しかし! 「分からないことを放っておくから進歩しないのだ、知らないなら知れば良い」と常々思っている私には、それからというもの「美深」というところが気になって仕方のない地名になり、いつか行ってその町を味わわなくてはならない運命の土地になったのです。
ところが中途半端に遠い美深には行けなかったところをこのシルバーウィーク。しかも上川町でのガーデンショーも見たいと思っていたところだったので、一泊で上川町~美深町~稚内という旅をすることにしました。で、滝が大好きという妻にこのことを話すと「それは行かなくちゃ」ということで一緒にドライブをすることになった次第。
これは私にとっては「『羊をめぐる冒険』をめぐる冒険」というわけで、ややこしいけれど得るものの大きな旅となりました。
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【「羊をめぐる冒険」を読む】
で、まずはなんと言っても「羊をめぐる冒険」を読まないことには話になりません。そこで稚内の通勤途中の古本屋に飛び込んで、一冊250円の前後編で合計500円でこの本を手に入れました。
物語は、僕(主人公)が共同経営している広告会社が作成したPR誌に『載っている羊をさがせ、さもないとお前はおしまいだ』と右翼の大物の秘書から脅かされてしまう。
僕はいろいろなつてをたどって羊博士という男にたどり着く。どうやら羊は人間に乗り移って人を操るらしいのだが、乗り移られたものの羊が離れたために死にそうな右翼の大物が探しているらしい。
その羊は北海道の十二滝町というところにある牧場にいるらしいということが分かり、僕は北海道へと飛ぶ。十二滝町とは文字通り滝の多い土地柄、ということを表している。
そのほかにも「開拓時代にアイヌ人に率いられた一行が、旭川から北へと行き、その後東へ向かったこと」、「主人公たちが、旭川から北へ向かう列車に乗りつぎ、塩狩峠を越え、東に走るローカル線に乗り替え、終点が終着駅であること。また全国三位の赤字線であること」、「大規模稲作北限地の看板があること」などがその特徴として書かれているのでした。
これらは旭川から北にあってなお東に延びる赤字ローカル線として美幸線がそれらしく、その終着駅が舞台となっていること。また稲作もほぼ北限に近く、これらの条件を満たすのは仁宇布地区だと強く類推されるのだと。
とにかく私としてはこの機会に美深町を訪ねて、自然をこの目で見て人との出会いからこの地を味わい理解することとしたいと思いました。
そんなわけで今日は予告編。美深の旅は次回により詳しく書きますが、これは私にとって「『羊をめぐる冒険』をめぐる冒険」なんだと思いました。
縁を辿った先にあったものは何か。北海道は深い!