郵政の簡保の宿の売却問題で、鳩山総務大臣が辞職をするということになり、政界がまたまた揺らいでいます。
この騒動では、「鳩山さんよくやった」「麻生総理は判断を間違えた」ということになっていて、またまた麻生政権の支持率を下げたようなのですが、私自身はなんだか釈然としないものを感じていました。
それは問題の最初の方では「こんなに簿価があるものを安く売って良いのか」とか「なぜオリックスに売ることになったのか、出来レースではないか」といったような論点が見えていたのに、最後の方では「正義が通じない」「西川社長はなぜ辞めないのか」といった感情論に終始してしまったからです。
最後には国民自身も、何が問題でなにがどうなっているのか分からなくなっているのではないでしょうか。
そんな釈然としない雰囲気をよく表した記事があったのでお届けします。私の意見は必ずしもこの意見とも違いますが、かなり状況をよく説明してくれていると思います。
---------- 【以下引用】 ----------
辻広雅文 プリズム+one ダイヤモンド・オンライン
http://diamond.jp/series/tsujihiro/10064/
「かんぽの宿」騒動に見る“既得権死守”勢力の巧妙かつ公然たる反乱
正論がまったく通じない。正論が通じなくなる議論の道筋に巧みに誘導されてしまった、と言い換えてもいい。では、誰に導かれて道を誤ったのか。既得権を死守したい人々によってである。
「かんぽの宿」騒動の原点に立ち戻ってみたい。オリックス不動産への売却対象となったのは、全国約70か所のかんぽの宿と首都圏の社宅9物件で、売却総額は約109億円である。ところが売却物件の中に、300億円もの費用をかけた豪華施設などが混じっていたために、鳩山邦夫総務相が安売り批判の先陣を切り、次第にマスメデイア、世論に賛同者が増えていった。
鳩山総務相が自らの権限で売却を止めたのは、
1.一括売却する必要はない。しかも、不況時に売却を急ぐ必要はない。
2.今回の売却物件は平均稼働率が70%であり、経営努力によって収益改善が見込める。
3.地元で買い手を探し、地域振興につなげるべきだった。
4.売却前に、自治体に説明がなかった。
といった理由からである。
一方、日本郵政は、
1.一括売却しなければ、不採算施設だけが売れ残る。
2.そうなれば、従業員の雇用が守れない。雇用維持は法令で義務付けされている。
3.民営化から5年以内の廃止または売却という期限も、法令に明記されている。したがって、急がなければならない。
と反論する。
いずれが正論だろうか。日本郵政の主張が、正論である。鳩山総務相に、理はない。
不採算施設は、好採算施設とセットでなければ売れるはずがない。単純化して言えば、年間10億円の赤字が出る宿泊施設を売るには、10億円以上の利益が出る施設を組み合わせる必要がある。例えば、20億円の黒字の施設と組み合わせる。売却金額は差し引き10億円、あるいはそれ以上かそれ以下か、それは交渉次第である。
重要なのは、全体最適である。今回の売却は、採算性の異なる施設79件がパッケージになっている。いわばその全体最適が109億円と評価された。そのなかの豪華施設一つを取り出して300億円で売れるはずだと主張したところで、それは部分最適に過ぎない。部分最適にこだわって一括売却しなければ、赤字施設が売れ残るのは自明である。
したがって、平均稼働率が70%もあるという鳩山総務相の主張も、無意味である。平均稼働率以下の不採算施設こそが問題だからである。
不況時に売却を急ぐ必要はないという批判も、的外れだ。確かに売却時期を遅らせれば、好況が巡ってきて、もっと高く売れるかもしれない。だが、さらに景況は悪化して、売却期限が近づくことも手伝って、買い叩かれるかもしれない。何より売却期間が伸びる間、赤字が垂れ流しになるのである。
不良資産の処理は、一括売却が基本であり、スピード重視が鉄則である。このことは、1990年代後半以降の不良債権処理を手がけた金融機関関係者や2000年代に企業再生を手がけた人々――産業再生機構に関わった政府関係者も――には、身に染みた常識である。
かんぽの宿売却は官業ビジネスとの決別であり、いわば不良債権処理なのである。できるだけ高く売れるのが望ましいが、損失を最小限に抑えるのが第一の目的である。そこを、鳩山総務相は理解していない、あるいは意図的に軽視している。
鳩山総務相の3と4の主張にも、反論しておこう。かんぽの宿を、実は地元の同業者はこころよく思っていない。官業ゆえに赤字を垂れ流しながら営業を続け、民業を圧迫する存在だからである。では、地元のライバルたちは買い手になりうるだろうか。設備の維持費に加えて、従業員の賃金は同業他社比べて高い。旅館業の従業員のそれは他産業に比べて低いが、かんぽの宿の従業員は公務員給与に準じているのだから、格差は当然である。そうした高コスト体質の官業施設を個別購入する買い手が、全国に数多くいるとは到底思えない。
このように、日本郵政の主張は、経済合理性に則った正論である。ところが、今や正論は通じない。世論は、鳩山総務相を正義の味方とすら評価しつつある。当初は鳩山総務相を社説で批判した大手新聞も、論調を修正しつつある。なぜか。
鳩山総務相は「安売り批判」に加え、宮内義彦・オリックス会長が郵政民営化推進論者であったことを捉え、「オリックスへの売却は出来レース」と断じた。そして、この二つの批判を補強する材料がいくつも巧みに流れ始めた。例えば、安売り批判に関しては、旧郵政公社時代に178施設が一括売却されたなかに、買い手が1万円と評価して6000万円で転売された物件があったことが暴露された。
一括売却は全体最適が優先される、と前述したことを思い出してほしい。まず、その178施設の売却総額の妥当性を論じるのが筋だろう。その前に、ある部分を取り出して批判するのはフェアではない。しかも、旧公社時代の事例であり、現経営陣に責任があるわけではない。
ところが、こうした情報がマスメデイアに取り上げられると、人々は一括売却という手法がいかに不透明で恣意的かを強く印象付けられてしまう。何せ、6000万円で売れる施設を1万円で譲渡してしまったのだから。一事が万事である。そうして、世論は動いた。それが、意図的な情報操作ではないかと疑うのは、私だけだろうか。
通常、霞ヶ関官僚は、国会質問をするための情報など野党には出さない。ところが、複数の野党議員によると、「今回の売却問題に関しては、電話一本で総務官僚から国会での追求材料が山ほど出てきた」と言う。
ある自民党幹部によれば、「鳩山総務相と旧郵政官僚はスクラムを組み、日本郵政の人事に介入し始めている」。その実例かどうかは判断できないが、今回の売却凍結騒動の最中、旧郵政大物官僚の団宏明・郵便事業会社社長が持ち株会社の代表権を持つ副社長に就いた。ある経団連副会長は、「鳩山さんは、西川社長の首を切って団さんを昇格させたいのだろう」と見る。
旧郵政官僚を排除し、世論の支持を背景に小泉政権が推進した郵政民営化を巻き返す動きが、郵政民営化によって既得権を失いかけた人々の手によって始まっている。既得権を死守したい人々――選挙を控えて特定郵便局長の票田が欲しい政治家(与党議員に限らない)、世襲の利権を守りたい特定郵便局長たち、郵政利権を失いたくない総務官僚、賃金が相対的に高いかんぽの宿の従業員すらその一員といえるだろう。
権力関係の入り組む永田町と霞ヶ関に住み慣れた人々は、こうした既得権を巡る闘争に極めて通じている。銀行の頭取出身で旧大蔵省との関係しか知らぬ西川社長では、とても歯が立つまい。
断っておきたいのだが、私は、竹中平蔵元総務相が設計した郵政民営化に賛成ではない。郵政改革は必要だと考えているが、現在の4分社方式は矛盾を内包しているし、そもそも郵便局の統廃合に手をつけない改革はまやかしだと思っている。また、竹中氏の改革手法は雑駁かつ近親者だけで遂行されるという印象も強く持っている。
しかし、だからといって、巧妙かつ公然たる既得権を死守したい人々の巻き返しを見過ごすわけにはいかない。
最後に、極めて重要な二つの点を挙げたい。
第一に、鳩山総務相の売却差し止めが将来、日本郵政の損失を拡大させ、それが財務に響き、株式上場にマイナスとなれば、国庫に得られるべき利益が減ることになり、損失をこうむるのは国民である。さらに、郵政民営化が混迷し、旧国鉄のような事態になれば、税金を投入しなければならなくなる。既得権死守闘争は、国民負担となって跳ね返るのである。
第二に、小泉政権の構造改革が格差を拡大させたという批判が高まっている。格差には二種類ある。一つは市場主義経済の歪みによる格差であり、政府は社会的弱者のためのセーフテイネットなどの対策を迫られる。だが、もう一つは、既得権者と非既得権者の格差である。小泉構造改革はこの格差を打ち壊した。その打撃を受けた既得権者たちが、社会的弱者の味方である振りをして、論理をすり替え、自己保身の反転攻勢に出ているのである。
(以下略)
---------- 【引用ここまで】 ----------
鳩山大臣の問題提起を受けて、日本郵政公社では外部の有識者三人を招いて、「不動産売却等に関する第三者検討委員会」を作って、実態がどうであったのかを検証しています。
その報告書は去る5月29日にホームページでも公表されていて誰でも読めるようになっています。
そしてこの第三者検討委員会の結論は、「意思決定の過程が文書で残されていないなど不適切な点もあるが、譲渡方法や処分の方針の決定自体は経営判断として許容される最良の限界を逸脱した不適切なものとは考えない」という結論に至っています。
また、個別の物件に関して、あたかも千円や1万円などの売却価格が存在していたというのも誤解で、開示方法が不適切だったと指摘されています。つまり一万円で売られた物件があったわけでもないということ。
この報告書を読む限り、総務省として改善を命ずるくらいの不適切さはあったものの、密約や陰謀などが存在して国民の財産を不当に安く売ったという事実は感じられません。
つまり、鳩山前総務大臣のつけたいちゃもんは委員会で論破されてしまっているということになります。
もし委員会の結論が間違っているというのならば、今度は鳩山さんの方に証明する義務が生じることになるのですが、それをせずに逃げ出したという印象になってしまうのです。
私は日本郵政公社は政府が100%株主とはいえ、民間会社になったのですから、政府の意向を離れて民間的な振る舞いをすることで、預かっているお金の価値を高めるようにすべきだと思います。
しかし「そうではない」ということは、またまた国による関与を強めるべきだ、ということでそれは民営化に逆行することになるのでは。
それができなければ、日本はやはり規制改革が出来ない国だという外国からの評価にもつながりかねないとさえ思います。
私の考えはちがうのかなあ。やっぱり今の流れがよく分かりません。