prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「モスル あるSWAT部隊の戦い」

2021年12月19日 | 映画
国の政府の下部組織ではない、半ば以上生き延びるために必要だからまとまっている小隊が、ある任務を帯びて廃墟と化したモスルを移動していくのが主プロット。

そこに新しく参加した若者がいくつもの苛烈な経験を経て兵士になっていく一種の成長物語的なプロットがまた絡むが、さらに隊員が一人また一人と死んでいく展開が加わる。
誰がいつ死ぬのかわからない状況では人間関係や各人の成長もいつあっけなく立ち切られるかもしれず、定型的な作劇を使いながらそれを貫徹するのはあらかじめ封じられているようで、いくつもの定型がゆるやかにつなぎ合わせたところにこの作劇の新しさと巧みさがあるように思う。

小隊の中でもメッカへの礼拝を欠かさない者とそうでない者とが混ざっているなど、なんでもないようでおそらく大きな違いがあることがさりげなく描かれる。

一般人を狙ったISの狙撃に対して小隊隊員が背後にまわって制圧に成功した後、青年が撃たれた子供を抱えて慟哭する母親が撃ってきた方向、つまり今は青年がいる方をにらみ返すところでは、明らかに小隊そして青年も怒りの対象に入っている。

補給の銃弾とタバコを交換するところで、両方とも世界の戦場の共通語みたいなものだというセリフがあって、弾はともかくタバコがそこまで必要なのかと不思議な気がした。
そういう細部にも、というか細部にこそ国同士の戦争というより、戦闘状態が日常化してカオス化した環境に匂いが出たように思う。

れっきとしたアメリカ映画なのに全編アラビア語で通しているのは立派。一方であれだけの規模の廃墟と戦闘を映像として定着できるのはアメリカ映画だからだろうし、ラストで明かされる小隊の任務というのは、一種アメリカ的、というかアメリカ映画的ではある。