1951年大映作品。
主演は三船敏郎、京マチ子、志村喬と前の年1950年の「羅生門」と重なるところも多い。
志村喬が三船と対立する(と言いながら人情も見せる)金貸し出身の有力者で議員という役どころというのは珍しい。
三船は東宝出身のスターだが、キャリアの初期は大映や松竹の映画にも出ている。
黒澤明が東宝争議の後いったん東宝を出て各社を転々したのにつきあった格好だが(例外的に木下惠介=松竹の「婚約指輪」がある)、東宝社内の立場や契約はどうなっていたのかなとは思う。
黒澤作品ではないが、北海道の広大な大地を馬が疾駆するシーンは爽快。
監督は木村恵吾。小津と同い年の1903年生まれで、監督デビューはサイレント映画、狸御殿もので有名。
そのせいか、音の使い方が画面にべったりでなく、わざとずらして音だけで処理しているところが散見する。
競馬のシーン、三船が育てた馬が出場するが、病み上がりの身なので調子が出ず順位を落とすのを画では見せずラジオのアナウンサーの放送で聞かせ(ラジオの受信状態がひどく、あちこちに持って歩き、地面に落とすとぴたっとクリアに聞こえるようになるギャグ)、ゴール寸前から愛馬が疾走する姿を見せる。
メリハリが効いているとも取れるし、必要な競馬の画を撮るのが大変すぎるので上手に逃げたとも取れる。
息子が上の学校に行くため家を出ていくのを三船が身体の具合が悪いのを言い訳にして寝転んでいるのを、機関車の汽笛が聞こえてくるといても立ってもいられず無理を押して立つまでの、三船のアップに汽笛がかぶさる押しの演出も意識的に音を生かしたもの。
京マチ子が三船に惚れているし三船も憎からず思っているはずなのに三船が武骨過ぎてなかなかうまく噛み合わないのはイメージそのまま。
三船はずっと後の寅さんのゲストでもこういう役をやっていた。
冬の北海道で撮るのは大変すぎるからか大半のシーンはセットだが、よくできてます。子供が天国の母ちゃんに手紙を届けるんだと言って風船を飛ばす背景など逆に作り物ならではの情感が出た。
男の子がすごく健気で成績いいのに学校はお金がないから小学校までしか行けないあたりや、この子がまことに健気なあたりは時代が違うとも思うし、いい方に変わったのかどうなのかとも思う。
撮影は峰重義。のちに日活で鈴木清順と組む人だが、この頃は大映で仕事していたのね。