第二次大戦後のロンドンで凄い才能という触れ込みの若いヴァイオリニストがデビューする演奏会でなぜかドタキャンし、そのまま姿をくらましてしまう。
この演奏会をプロモートした興業主は金銭的損失とおそらく信用をなくしたことで、この後数年で破産し、父親の後を継いでやはり興業主になった息子が失踪したヴァイオリニストを探すことになる。
ヴァイオリニストはポーランド出身のユダヤ人で、子供の時に家族と離れてロンドンの興業主の家に同年輩の興業主の息子と共に育てられ、二人は必ずしも仲は良くないが兄弟のように育ったという設定。
ヴァイオリニストを探す現在と二人が喧嘩したり秘密基地のような廃墟で過ごしたりといった過去とが交錯する構成で、歳に応じて複数の俳優が演じるので、少し誰が誰だか混乱するところはある。
出番も大人になってからのティム・ロスや特にクライヴ・オーウェンより子供時代のミシャ・ハンドリーやルーク・ドイルの方が長いくらいではないか。
ロンドンにいるから直接には描かれないが、ポーランドのユダヤ人一家が大戦中入れられていた収容所跡でヴァイオリニストが演奏していたらしいといったエピソードが織り込まれる、徐々に謎に近づいていくミステリ的な趣向で、派手な場面はあまりないが、落ち着いた画面の美しさもあって飽かせない。
原題はThe Song Of Names。このタイトルの意味が見た後ずしりと来る。
親しい人が死んだ時には服の一部を破くユダヤ人(ユダヤ教徒)の習慣をいくらかでも知っていて良かったが、わかったのはごく一部だろう。
最初の方で、英語もちゃんと喋れないくせにと言われ、僕はドイツ語もフランス語も話せる、君はどうだと言い返すところで、聞き間違いでなければイディッシュ(ユダヤ人の口語的な言語)も話せると言ってなかったか。
防空壕の中で二人のヴァイオリニストが半ば決闘のように掛け合いで弾き比べ、周囲の避難民たちの喝采を浴びる場面は音楽の力を簡潔に見せる。
しかもその演奏家個人の才能を称えるのをある意味越えたところに連れていくのが異色でありユニークなところ。