![]() | 星空の演出家たち 世界最大のプラネタリウム物語 |
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中日新聞社 |
・中日新聞社
名古屋市科学館には、世界最大径35mドームを持つプラネタリウムがあるという。2011年3月にリニューアルオープンして世界一となったこのプラネタリウムは、年間50万人もの人が訪れる人気施設となっている。
この人気の秘密は当事者たちにはよく分からないらしい。本書は、プラネタリウムのスタッフたちが、リニューアルにあたって考えたこと、やってきたことを、編集者のインタビューに答える形でまとめたものだ。
私はてっきり、プラネタリウムの解説には原稿のようなものがあるものと思っていた。しかし名古屋市科学館の場合は、決まりきった原稿はないという。
「解説者のひとりひとりが、個々人の表現で星空の案内をする」(p061)
というのが、このプラネタリウムの方針だ。だからスタッフは原稿を読み上げるただの「解説員」ではなく、それぞれが努力の末に自分の持ち味を作り上げている「解説者」なのである。
彼らはそうそうたる高学歴のプロ集団だ。大学院博士課程を出た人もいる。それだけではない。みんな天文が大好きでたまらない人たちなのだ。高度な専門知識に加えて、天文学に対する情熱。この二つが揃っているからこそ、彼らの解説は多くの人を集めるのだろう。
名古屋市科学館の特徴は、地域との結びつきが強いことだろう。市民に対する啓発活動にも力を入れており、スタッフの中にも、ここが主催する天文クラブやサイエンスクラブなどを通じて科学館に育てられた人が多い。
しかし、プラネタリウムのリニューアル時は修羅場だったようだ。工期の短縮、思わぬ東北大震災の影響、リニューアルに伴う業務量の増大など。病気やケガで戦線離脱を余儀なくされたスタッフもいた。本書には夢のあるような話ばかりでなく、そういった現実的なことも書かれているので、スタッフの苦労というのものがよくわかる。
現在7人のスタッフが、1日6回、各50分、台本なしで解説を行っているようだ。本書を読むと、どんなすばらしい解説か、実際に聞きたくなってくるだろう。私も、名古屋に行く機会があればぜひ訪れてみたくなった。
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※本記事は、書評専門の拙ブログ「風竜胆の書評」に掲載したものです。