文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
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書評:女も男もフィールドへ(FENICS 100万人のフィールドワーカーシリーズ12)

2016-07-25 09:01:07 | 書評:学術・教養(人文・社会他)
女も男もフィールドへ(FENICS 100万人のフィールドワーカーシリーズ12)
クリエーター情報なし
古今書院

・椎野若菜・的場澄人編

 本書は、一部例外もあるものの、主として女性フィールドワーカーたちによって書かれた、研究者としての手記である。

 フィールドワークは、研究室で行うような研究とは違い、何ヵ月、何年といった単位で、研究対象としている土地で過ごさなければならない。それが日本国内ならともかく、何を研究するかによって、言葉や風習がまったく異なる民族の中に入って生活することも珍しいことではないのだ。

 いくら男女同権の世の中になったからといっても、そこには女性ならではの苦労がある。妊娠、出産といったことは、女性にしかできないからだ。独身者ならともかく、女性フィールドワーカーが結婚している場合には、妊娠、子育てという問題が出てくるのである。

 いったい何をやりたかったのか分からない文科省の大学院重点化政策に伴って、研究者の卵の数は以前に比べてものすごく増えている。しかし、これに伴うポストの数はそれほど多くない。特に本書に出てくるようなフィールドワークを行うような分野だと、ますます就職先は限られてくることになる。

 だから、多くの研究者の卵たちは、不安定な任期付ポストで結果を出していかなくてはならない。そこには、常に研究の世界から脱落してしまうことへの不安が付きまとうのだ。

 そのため、女性フィールドワーカーたちは、子連れでフィールドワークに赴くことを余儀なくされる。しかし、外国での衛生事情は日本とは大きく違う。例えば日本なら、マラリアの心配などは、まずしなくても良いだろう。しかし、フィールドワーク先で子供が病気になるリスクは、日本より遥かに高いのだ。彼女たちは、自分のことだけではなく、子供のことも心配しながら研究を続けなければならない。

 彼女たちは、生物学的に女であるという事実と、研究者としての自分との間で、折り合いをつけながら、道を切り開いている。好きでないとできないことだろう。そんな姿はなんとも逞しい。彼女たちの物語は、同じような境遇にある多くの女性研究者たちに勇気を与えるに違いない。

☆☆☆☆

※本記事は、書評専門の拙ブログ「風竜胆の書評」に掲載したものです。

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