文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
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書評:幻獣ムベンベを追え

2016-08-01 08:55:22 | 書評:小説(その他)
幻獣ムベンベを追え (集英社文庫)
クリエーター情報なし
集英社

・高野秀行

 本書は、怪獣モケーレ・ムベンベ(通称コンゴ・ドラゴン)を探しに、アフリカはコンゴ共和国(当時はコンゴ人民共和国、別にコンゴ民主共和国という国もあるので混同しないように注意)にあるテレ湖に遠征した際の探検記である。

 このムベンベとは、体長10~15mの恐竜のような怪獣だということだが、その正体はさっぱりわからない、いわゆるUMAと呼ばれるもののひとつだ。

 駒澤大学探検部がアフリカにムベンベを探しに行ったことを聞き、最初は笑っていた著者たちだったが、コンゴ遠征隊の副隊長だった人から話を聞いて、がぜんムベンベの探索をやる気になっていく。しかし、この遠征、日本の常識ではびっくりすることの連続。

 この遠征に付き添ったのは、コンゴ政府森林経済省動物保護局のアニャーニャ博士という人物。コンゴの動物学の第一人者ということだが、相当いい加減な人物のようだ。例えば、最初は、コンゴは社会主義国家なのだから、テレ湖に最も近いボア村に対して、入域料の支払いは不要と言っていたのだが、出発の前の日、平気な顔で村の酋長にいくら金を払う必要があるといったようなことを言い出す。

 探検に先立ち森林省と取り交わした議定書には、このような意味不明の条項があった。「この遠征の完遂後、調査隊はその装備あるいは機材を森林省に委託できる」。これは、要するに、探検が終わったら、何か置いていけということらしい。

 村人たちもいろいろとやってくれる。入域料としてとんでもない値段を吹っ掛けられる、食料はちょろまかす、ガイド料の値上げを要求して村に帰ってしまう。そこには、我々が思いがちな素朴な村人というイメージは微塵もない。

 一番深刻なのはマラリアだ。隊員の何名かはマラリアに罹患し、うち一人は、あわや命の危機にという重体に陥った。

 機器の不調にも悩まされている。ソナーは火を吹き、3台あるカメラは、しょっちゅう動かなくなる。なぜか、電池やバッテリーの消耗が異常に速い。

 これだけ苦労しても、もちろんムベンベなど発見できはしない。実はテレ湖というのは物凄く浅い湖なのだ。実際彼らがソナーで水中探索した際には、深さ平均1.5m、湖の中心部でも2m程度しかなかった。こんな浅い湖に、大きな生物が潜んでいるとは考えにくいだろう。

 要するに、探検はただ過酷だっただけ。だから本書は一言でいえば敗戦の記録である。しかし、どこか心惹かれてしまうのはなぜだろう。

☆☆☆☆

※本記事は、書評専門の拙ブログ「風竜胆の書評」に掲載したものです。


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