この話も半七捕物帳に収録されているものだ。他の作品と同じように、明治になって、半七老人が、語り手である「私」に、思い出語りをするという形式になっている。
この話の冒頭にこんな文が出てくるのだが、それならお伊勢参りに行った人なんかは、もう江戸っ子ではないということかな(笑)。
<江戸っ子は他国の土を踏まないのを一種の誇りとしているので、大体に旅嫌いである>
それはさておき、今でも変な宗教がはびこったりしているが、江戸時代にも、しばしばばやり神というものが現れた。当時の人々は迷信深かったので、あの神様や仏様はご利益があるという噂が広がれば、それを求めて参拝者がひきもきらずという状態になったらしい。まあ、その根底には、自分がご利益にあやかりたいという欲があったのだが。
ところでタイトルにある蝶合戦だが、他にも雀合戦、蛙合戦、蛍合戦というのがあるらしい。蝶の場合は詳細に書いてあり、これから判断すると、別に蝶が合戦をする訳ではなく、話を読むと白い蝶の大量発生のことらしい。しかし、誰かが「合戦」というと、当時の人はそう呼ぶようになるのだろう。
小さな生物は、なぜか大量に発生することがある。代表的なのはバッタが大量発生する蝗害だろう。私も子供のころ、ノコギリカミキリの大量発生を見たことがある。
先にも行ったが、昔の人は迷信深い。だから蝶合戦のような常には見られないような現象が生じると、大災厄の前触れではないかと思ってしまう。しかし、終わってみると、まったく蝶合戦は関係がなく、単に破戒坊主と、色ボケした女たちの話だった。
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