本書は、天才でなくともイノベーションはできるというコンセプトのもとに、そのための技法を紹介したものである。様々な技法が紹介されているが、これを全部習熟する必要はないと思う。この中のいくつかでも身に着けることができれば大成功だろう。
本書で特に興味深かったのはまず「産婆術」。無知な者同士が「問い」を重ねあうことにより、新たな知を発見するというものだ。これは古代ギリシアでソクラテスが行っていたことである。確かにいろいろと議論しているうちに、パッと新しいアイデアが閃くことがある。しかし、これは相手を選ぶ必要があるだろう。中には持論を絶対に曲げずに、自分の意見を声高に述べる。こういう人と議論していても、いやな気持になるだけである。
そして、ノーベル賞受賞者である本庶佑さんが言った「教科書を疑え」ということ。本書に書かれている「教科書に書かれていることには暗黙の前提がある」という指摘には目から鱗が落ちたようだ。確かに教科書に書かれるようなことは誰がやっても同じ結果をもたらす。しかし、それには暗黙の前提通りにやった場合で、そこから外れるとまた違う結果が出てくる。本書では、それを水素や鉄を例にとり説明している。
もちろん、本書を一読しただけで直ぐイノベーションができるわけではない。そんなことができれば、その人は本物の天才であり、おそらくこの本の読者対象からは外れるのだろう。大切なのは、常にこれらを頭に置いて、折に触れ考えていくことなのだろう。
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