CEOやCOOなどC〇Oという言葉を聞くことが多いが、CFOというのは、Chief Financial Officerの略で、日本語では最高財務責任者と呼ばれる。著者は三菱フィナンシャル・グループ(MUFG)やニコンでCFOを務めた人で、本書にはそのエッセンスが詰まっている。
日本企業の財務担当者というと保守的な者が多いというイメージが強い。「石橋を叩いて渡る」という言葉がある。慎重なことは良いことのように思われるが、慎重すぎて石橋を叩き壊しては意味がない。そうやるときはやるという心構えが必要なのだ。本書ではそれを「アニマルスピリッツ」という言葉で読んでいる。この「アニマルスピリッツ」というのはかってケインズが使った言葉で、「実現したいことに対する非合理的なまでの期待と熱意」(p2)のことである。これをうまく引き出すのが経営者の役目だと言う。
残念ながら、日本の企業の役員は平社員から成り上がってきたものが多い。社長と言えども、新入社員時代は下積みを経験しているのだ。だから現場主体の戦術的なものには強くても、本来経営者に求められる戦略的な視点が十分でない場合が多い。これではどうしても保守的になり、アニマルスピリッツなどは持ちようがない。トップがそうなのだから、部下にアニマルスピリッツを持てと言うこと自体が無理なのだ。
本書では著者が過去にCFOをやっていたMUFGや現CFOであるニコンでの例が示されている。本書で紹介されているMUFGの例は衝撃的だろう。なんと連結利益の7割弱が海外企業から来ているのだ(pp94-95)。国内利益は3分の1強にすぎないという。そしてその多くの部分が米国モルガン。スタンレーに対する投資からのものだ。これは、例のリーマンショックの際に、MUFGが90億ドルの小切手を渡したことによるようだ。これなどもアニマルスピリッツのいい例だろう。 国内では、バカな超低金利政策の長期化により、疲弊している企業が多い。もう国内にこだわっていては、発展は望めないのだ。そして、ニコンでは、経営再建に力を入れて、ミラーレスデジカメラの中高級種に経営資源を集中し、業界最高水準のミラーレスカメラの市場投入という課題をやり遂げた。
もちろん財務・経理は、企業にとっては重要だが、それだけで企業が回るわけではない。特にメーカーなどは、画期的な製品を開発すれば、ものすごく大きな強みになる。要するに財務。経理の部門と技術開発をする部門は車の両輪なのだ。いくらニコンのCFOががんばっても、技術部門の頑張りがない限りは絶対に目標を達成できないだろう。そのことを忘れてはいけない。逆もまた真なりで、幾ら技術部門がいい製品を作っても、財務・経理部門の適切な後押しがなくては成功はおぼつかないのだ。ニコンでは、専門的な技能を持つ人材や管理職の年収を最大2割上げたり、新卒作用に加えてキャリア採用も実施している。私のいた会社は典型的な事務系優遇で、技術系に比べ事務系の方が数年も昇進が早かった。こういうことを是正していかないと、優秀な人材はいつかないだろう。その気になれば本書から学べることは沢山ある。日本企業の経営層にはぜひとも読んで欲しいものだ。
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