トーコーキッチンとは、神奈川県にある渕野辺駅周辺で、1800室の賃貸物件の管理や仲介をやっている、地域密着型の不動産業である東郊住宅社が運営している物件関係者のための食堂である。
このトーコーキッチンは鍵がかかっているので、カードキーを持っている人でないと入れない。このカードキーは東郊住宅社の管理物件入居者、管理物件のオーナー、協力関係業者でないと所有できないらしい。
面白いのは、カードキー所有者に同行すれば何人でも、何回でも利用できるし、初めて利用する場合に限り、カード所有者の同行なしでも利用できるというところだ。
そして値段を聞いてびっくり。なんと朝食100円、昼と夜は500円というのだ。いや絶対に100円朝食なんて赤字確定だろうと思ったが、やはりこれは単体で見ると赤字のようである。ただ、神奈川県の入居率が64.46%に対して、東郊住宅社の管理物件は入居率98.5%(ともに2016年の数字)だそうだ。オーナーの負担は求めてないというから、おそらくこの入居率の高さで、赤字がカバーできるのだろう。
もっともトーコーキッチンを始める前から入居率は95%~96%あったらしいので、先代社長のときからやっている「礼金、敷金共ゼロ、退室時の修繕義務なし」というのも結構入居率の高さに寄与しているのだろう。
それにしても面白いビジネスモデルだと思った。顧客から選ばれるには他との違ったところが必要だ。不動産屋が関係者のための食堂を運営するというのはなかなかいいアイデアだと思う。ただ、実際にやるのは大変だろうなあという気がするが。
本書中にビジネスモデル特許を取らないかと人から言われるという話があった(pp183-184)。私は特許に関する仕事もしたことがあり、本書を読む限りは、特許を取るのは難しいような気がする。なぜならビジネスモデル特許をとるためには、第一に発明であることが求められるからだ。
そして発明とは、特許法に明確に定義されており、第2条第1項に「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と規程されている。世に言う、ビジネスモデル特許とは、あるビジネスモデルをコンピュータシステムを活用して実現することで発明としているのである。だから、トーコーキッチンでやっていることを発明と見做すのは困難だろうという気がする。
ともあれ、1頁程度の分量であり、この記述がなくとも、別にビジネスモデルとしての面白さは変わらないので、この話はなくても良いのではと思う。
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