これは山奥の一見何もない村を、ゆずの村として有名にした男たちの物語である。本書の主要登場人物である臼木さんは、県の農業普及指導技師として木頭村にやってくる。なんとか木頭村を豊かな村にしたい臼木さんは山に自生しているみごとなゆずに目をつける。そこから臼木さんの活躍が始まる。そして、ゆず栽培に専念するため、県の役人から木頭村の教育委員会に働き口を変える。
皆さんは次の言葉を知っているだろうか。「ももくり3年かき8年」という言葉である。つまり植えてから桃や栗は3年、柿は8年かかるということを表した諺である。ここまでは知っている人も多いと思うが、実は、この諺には続きがある。それは「ゆずの大ばか18年」という言葉だ。つまり、ゆずを収穫できるようになるにはものすごく年数がかかるのである。この収穫までに年数がかかるという欠点をいかに克服したのかというのもひとつの読みどころだろうと思う。
また、ほとんど知名度のなかった木頭のゆずをメジャーにしていく過程。これも読みどころだろう。一つ言いたいのは、何事も情熱なくしては成し遂げられないということだ。
もちろん木頭村のゆずを見出したのもすごいが、こちらは運が大きく作用しているように思える。しかしその幸運をしっかりと掴むのは難しい。幸運をきちんと掴むのにも日頃の努力や問題意識が必要なのだ。俗に幸運の女神は前髪しかないと言われる。後ろ髪をつかむことはできないのだ。だから、見つけたらすぐに掴まないといけないのである。そうでないと、幸運はどこかに逃げ去ってしまう。
なお本書には書かれていないが「木頭ゆず」は地域ブランドとして認定されている。この辺りも書けば、地域づくりに努力している人にも大いに参考になるだろう。
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