晴、26度、86%
私の実家のお寺は、福岡の総鎮守「櫛田神社」のすぐ前の西本願寺系の萬行寺です。物心ついた時より、盆暮れ、春彼岸、秋彼岸にと詣でます。ここにはいつも大きな猫がいました。大人の話から代々のご住職が猫好きだと知ります。
香港に行ってからも福岡に帰れば必ずお墓参り。ふた月に一度の割合で福岡に帰るようになったのは、6年ほど前、母を施設にお預けしてからのことです。家の整理に続き、改築も始まりました。以来、私はふた月に一度墓参りに萬行寺に訪れます。その頃、この境内を悠々ときれいな姿で歩く薄茶の猫がいました。寺務所の方に聞けば、「トラ」という迷い込んで来た猫だそうです。事務所にもまた大きな猫がいました。「トラ」は萬行寺の外飼いの猫でした。
ふた月に一度の墓参り、時間がなくご門が閉まる前に飛び込むことも幾度かありました。そんな折、境内で毛繕いをする「トラ」の姿を見かけます。「トラ、トラ」と呼んでも猫らしく無闇に懐きません。それでもお腹を描いてやればゴロゴロと喜びます。いつ頃か体調を壊して痩せ始めました。病院通いをしていると寺務所の方に聞きます。私が最後に会った「トラ」は痩せこけて、大きな猫ですから痩せが目立ちました。姿が見えず、亡くなったと知ったのは4年ほど前でした。しばらくして行くと寺務所の方が「お墓ができましたよ。」と教えてくださいました。小さなお墓です。仲良しだった「チビ」のお墓の横に並んでありました。
萬行寺は今第2納骨堂を建設中です。第2納骨堂はちょうどトラのお墓のあった場所です。お墓がなくなっています。懇意な寺務所の方の姿もその頃から見えません。トラのお墓がどうなったのかとこの1年案じていました。
このお盆、一家全員でお墓参りに出かけました。お盆の入りの日、お寺の駐車場にはすでに何台もの車が待っています。近くのパーキングに車を入れてお墓に行きました。読経を聞いた後、みんなで境内を歩きます。今もまた大きな黒猫が2匹がこのお寺の住人となっています。孫娘が「猫、猫。」と指差します。車が行き交う境内を悠長な歩きで我が物顔の黒猫2匹を私は目で追いました。 「コタロウ」と呼ばれている黒猫の向こうに小さな小さな墓石が見えます。私が「トラ」を好きで亡くなった後はトラの墓を参っていたことは、家族全員ご存知です。主人を振り返り「トラの墓よ。」と小走りに鐘つき台の裏へと向かいました。
お寺さんですから無下なことはなさらないだろうとは思っていましたが、ちゃんと2つの墓が移されていました。ずっと気になっていた「トラ」のお墓です。お盆に、孫とコタロウが私に「トラ」の居場所を教えてくれたのだと思います。高い木の蝉を狙うコタロウです。 まだ壮年期のこの2匹、秋彼岸にはゆっくりと遊んでやろうと思います。2つのお墓に手を合わせていつもちょっと笑います。「やはりお寺さんだから、猫にしてはなんと贅沢な墓石かしら。」