晴、12度、61%
私の帰国を決めた時、香港に2、3ヶ月に一度は帰るようにと主人は言いました。私もそのつもりでした。ところがモモさんがあっという間に逝ってしまいました。モモさんとの思い出がいっぱいの香港に戻る勇気がありませんでした。知人の結婚式に招かれたのきっかけに9ヶ月ぶりの香港でした。私が帰国したあと主人は一人で生活しやすいフラットに居を移していました。主人が一人暮らしをするのは六十歳にして初めてのことです。
引っ越しすら荷物は詰めても部屋を作るのはいつも私の仕事、しかも仕事をしながらの引っ越し、生活環境も変わります。一人で生活のリズムを作るまで大変だっただろうと想像します。日本に主人が戻ってくるたびに、「部屋の掃除はしないよ。洗濯機も一度も回したことがないよ。」と言います。食事はお客様がないときは自分で作っているようです。まあ、食べることが大事、洗濯はクリーニング屋さんに出せばやってくれます。掃除なんかしなくても死にません。
空港まで出迎えに来てくれた主人と新しいフラットに戻りました。ドアを開けると私が置いて行った植物たちが窓辺で元気にしています。出張も多い主人が水やりを続けてくれたおかげです。夜遅い帰宅でしたから、シャワーを浴びて休みました。
翌朝、主人は起きてくるやさっさと台所で朝ごはんの用意をしています。その様子は手馴れています。しかも私の分まで。朝の手順は仕事がある人ならなおさら、流れがないと進みません。食後もサッとお皿を洗ってカゴに。お皿だって最小限の数しか使っていないようです。主人が起き出してくるまでに一渡りフラットを回ると、やっぱり埃が積もっています。そうだろうと思って、掃除のための準備はして来ていました。
その翌日主人は私を残して出張に行きました。しめしめとばかりに、掃除にかかりました。日本式に言えば2LDKのフラットです。バスタブがお湯を張って入る状態ではありません。なんとなく黒ずんでいます。家中が全体にうっすら埃をかぶっています。午後の三時に掃除を始めました。気がつくと外は真っ暗、夜の十時近くになっています。翌朝私は日本に帰ります。ギリギリまで洗濯掃除をしました。
9ヶ月も放ってあったのですから仕方ありません。男性の一人暮らしでピカピカの部屋に住んでいるとかえって気味が悪いかもしれません。すっきりと片付いた部屋のドアを閉めながら、「また来ますよ。」
3日間の短い時間、主人の部屋の写真を撮るのを忘れています。置いて行った植物は枯れてしまってもいいのよと言っておいたのに、時々こっそり苗をトランクに入れて日本にもって来てくれました。 このミントも夏には大きく育ちました。20才近いシダも苗を分けて持って帰ってくれたのがしっかり根付きました。そのシダの根っこには「琉球コスミレ」の芽も出て来ました。
健康で無理のない生活を送ってほしいと思います。実際の生活を見てホッとしました。2、3ヶ月に一度は、掃除に香港に戻るつもりです。六十歳にして初めての一人暮らし、私の目には上出来でした。