曇り、20度、87%
時折、一人で映画に行きます。娯楽映画なら連れと一緒の映画もいいのですが、いい映画、いい音楽の後は口を開きたくありません。不意に映画に行くことも、朝から今日は行くぞと行くこともあります。どちらにせよ、観たいもの、決して時間潰しには行きません。
シャーロットランプリング、40年ほど前「愛の嵐」で彼女を観て以来、ずっと気になる女優さんです。その彼女が、今年のアカデミーで主演女優賞にノミネートされていたのがこの映画「さざなみ」です。地味な映画や小品は香港では上映されないことがしばしばです。先週から一部の映画館で「さざなみ」45YEARSが始まりました。
45年間連れ添った夫婦の物語です。45周年のパーティーを予定してる直前に夫の元に来た一通の手紙から物語が始まります。夫の結婚前の山で遭難した許嫁が、アルプスの氷の中で50年前の姿のまま発見されたという手紙です。その手紙で動揺し過去を振り返る夫。それを側で受け止めるシャーロット演ずる妻のケイト。
お話のストーリーは、多少の差こそあれ永年の結婚生活ならば日常的な話です。夫の様子を見て昔の許嫁の姿に苦しむ妻のケイト。確かにシャーロットが大袈裟ではないいい演技をしていると思います。その時ふと思いました。既に70歳になるシャーロット、きっと自分の実生活でも同じような思いをした経験があるのではないでしょうか。口角を緩めたその表情は演技であるにしても、目の移ろいは演技以上のシャーロット自身の過去を思う目であったように思います。
ウィークデイの昼下がりの香港の映画館、女性の姿が目立ちます。幕前の館内の話し声、英語、広東語、フランス語。それらの女性達がこのケイトの上に自分の姿を重ね合わせているようです。
真っ暗な映画館から一歩出ると、別天地のような繁華街。10歳も年上のシャーロットの昔と変わらぬ姿勢の美しさに、映画そのものよりも心打たれて家に向かいました。