『まる』
監督:荻上直子
出演:堂本剛,綾野剛,吉岡里帆,森崎ウィン,戸塚純貴,おいでやす小田,
濱田マリ,柄本明,早乙女太一,片桐はいり,吉田鋼太郎,小林聡美他
109シネマズ大阪エキスポシティに行ったら客は私ひとりでした。
わりと広めのシアターが割り当てられていたのに、今年9度目の“おひとりさま”。
美大を卒業して画家になる日を待ちつつもまだ身を立てることは叶わない沢田(堂本剛)。
人気現代美術家である秋元(吉田鋼太郎)のアシスタントで生活費を稼いで4年。
同じくアシスタントの田中(戸塚純貴)は2日目にしてもう辞めたいとぼやいているし、
矢島(吉岡里帆)は秋元にアイデアをパクられ続けても文句ひとつ言わない沢田にモヤモヤしている。
ある日の仕事帰り、空を眺めながら自転車を漕いでいた沢田は転倒。
利き腕を骨折して秋元から解雇を言い渡される。
ぼろアパートの自室で1匹の蟻が這うのを目で追いかけ、ふと蟻を囲むように左手で「○(まる)」を描く。
金に困ると毎度立ち寄る古道具屋にその絵も持ち込むと、店主(片桐はいり)が怪訝な顔。
すると数日後、土屋(早乙女太一)という男が訪ねてきて、まるの絵を1枚100万円で買い取りたいと言う。
ただし、まるなら何でも良いわけではなく、土屋が認めたまるにだけ100万円払うと。
訳がわからず古道具屋を再訪すると、沢田のまるの絵を買って行った奴がいると言う。土屋だ。
さらには通りすがりの画廊にあのまるの絵が飾られているではないか。
画廊オーナーの若草(小林聡美)に自分が作者だと名乗ると、「さわだの○」がとんでもないことになっていると言われ……。
荻上監督の作品は基本的ほんわかゆるり。
そんな中でも白い荻上さんと若干黒い荻上さんがいらっしゃるように思います。
この『まる』も黒いほうに感じます。
住んでいるアパートは傾いていて、それが脳波に影響を及ぼすのか眠れない。
隣室の横山(綾野剛)は明らかに精神に異常を来している様子で、ついには壁に蹴りを入れてぶち抜きます。
人の役に立つ人間になりたいのになれないんだとぼやく横山が「働かない2割の蟻」の話に対して、
沢田が2割の蟻も必要だと答えるのが印象的。
また、叶わない夢ならあきらめちゃいけないのかと話すのも印象に残っています。
骨折した沢田が繋ぎのつもりで始めたコンビニのバイト。
森崎ウィン演じるミャンマー出身のバイト青年の境遇もつらい。
それでも怒らず焦らず、何でも丸くと微笑む彼の姿が切ないです。
偉そうだったのに、沢田が売れ出すと急に態度を変える人々。
大家(濱田マリ)とか元同級生(おいでやす小田)とか。人間の「欲」って、なんと醜い。
一方、欲とは無縁に思える謎の先生(柄本明)の存在が面白い。
いろいろと考えさせられて結構面白かったけれど、人には薦めづらい作品です。
相当好き嫌いがありましょうし、なんと言っても客は私ひとりだったのですから。