夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『海峡を越えた野球少年』

2016年11月11日 | 映画(か行)
『海峡を越えた野球少年』(英題:Strangers on the Field)
監督:キム・ミョンジュン

『さとにきたらええやん』『将軍様、あなたのために映画を撮ります』→これ。
この日はナナゲイにて濃いドキュメンタリー3本のハシゴでした。

1956年、韓国では朝鮮戦争後の復興のため、野球大会が開催されることに。
それは高校生による“鳳凰(ポンファン)大旗全国高校野球大会”。
韓国における野球の歴史はまだ浅く、ついては野球に詳しい他国を呼びたい。
だけどアメリカは遠すぎる。日本に声をかけるのは嫌。
ならば日本にいるコリアンを呼ぶということで妥協すればどうだろう。
そんなわけで、在日コリアンが招待されることになりました。

こうして1956年から1997年までの42年間にわたり、
毎夏、在日コリアンの野球少年たちが韓国へ。
海峡を越えて大会に出場した野球少年の数620名。

本作の監督は620名全員を探し出したいと思ったものの、それはさすがに無理。
適当にあたるのも効率が悪く、何年かに絞って探すと決めました。
どうせならば記憶に残る戦いぶりだった年の選手たちに会いたいと、
1982年の決勝戦まで勝ち残った在日同胞チームを選びます。

韓国側プロデューサー、チョ・ウンソン、日本側のプロデューサー、力武俊行とともに、
当時の名簿を頼りに連絡を試みますがなかなか。
上手く行きあたっても、なんとも怪しげな話だと相手にしてくれない。
だってそうですよね、何十年も前のことをいきなり持ち出され、
今年の韓国プロ野球の始球式に登板してくれなどと言われたら。

それでも1人に話を聞いてもらえたら、そこから話が広がってゆく。
2人、3人と増えてゆき、関係者も含めて10人ほどと会うことに成功しました。

チームメイトでありながら30年会っていなかった彼ら。
本作の取材がきっかけで同窓会を開いてみたら、もう笑いの渦。
なぜか集まったメンバーのほとんどがベタベタの関西弁で可笑しいのなんのって。

1982年といえば、和歌山県立箕島高校の全盛期。
この年の主力選手のうち4人が在日コリアンだったそうです。
また、大阪市生野区勝山高校の野球部顧問の先生も取材に応じ、
一時は生徒の8割が在日コリアンだったと話します。
だから韓国へ渡った野球少年には関西弁の占める割合が高いのでしょうか。

同窓会に集まった面々は、投手の梁視鉄(ヤン・シチョル)、捕手の権仁志(クォン・インジ)、
セカンドの姜孝雄(カン・ヒョウン)、サードの裵俊漢(ペ・ジュンハン)、
センターの張基浩(チャン・ギホ)、レフトの金勤(キム・グン)。
彼らが面白可笑しく、時にはせつなく当時の思い出を語ります。

日本で差別され、韓国へ行っても同胞だとは思ってもらえない。
だけど、勝ち進むうちに応援されるようになり、
30年後のプロ野球開幕の始球式では温かい拍手で迎えられ送られる。

『PK』を観て数日後だったせいもあり、なぜ人々は争うのかを考えさせられました。
人は神を信じたいだけなのに。それと同じように、彼らは野球をしたいだけなのに。

モンゴルのアメリカに渡ったインド人のカナダ・バンクーバーの台湾の
そしてもちろん日本の野球の話、どれもじわじわ来ます。

私はやっぱり野球が好き。

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『将軍様、あなたのために映画を撮ります』

2016年11月10日 | 映画(さ行)
『将軍様、あなたのために映画を撮ります』(原題:The Lovers and the Despot)
監督:ロス・アダム,ロバート・カンナン
出演:チェ・ウニ,シン・サンオク他

前述の『さとにきたらええやん』の次、同じくナナゲイにて。

これまでの人生で北朝鮮製作の映画を観たのは一度だけ。
『プルガサリ 伝説の大怪獣』(1985)です。
北朝鮮版ゴジラとされる『プルガサリ』を観たときは目が点になりました。
投獄された鍛冶屋が差し入れのおにぎりの飯粒で怪獣をつくる。
その飯粒に命が宿って怪獣になるという話でした。

当時、首相の座は退いて国家主席を務めていた金日成(キム・イルソン)。
映画好きで有名だった彼は、『プルガサリ』を製作するために、
『ゴジラ』(1954)を手がけた東宝特撮チームを日本から招聘し、
ゴジラのスーツアクターだった薩摩剣八郎までをも呼び寄せたというのですから、
金があるとただの道楽ではなくなるんだなぁと話を聞いて驚いたものです。

『プルガサリ』の監督が本作に登場する故・申相玉(シン・サンオク)。
金日成の息子でやはり映画好きの金正日(キム・ジョンイル)が
映画ビジネスで成功したいがために韓国の監督と女優を拉致したなんて、
もうホントに呆気にとられて声も出ません。

本作は、拉致されて北朝鮮で映画を撮らざるを得なくなった女優の証言と、
拉致を示唆する金正日の肉声入りテープ、再現映像、
監督と女優の家族、さらにはふたりが逃げ込んだ大使館職員などの話を基に構成されています。

韓国の著名な映画監督シン・サンオクと国民的女優の崔銀姫(チェ・ウニ)。
ふたりは映画の現場で知り合って結婚、しかし、監督の浮気が原因で離婚。
1978年、香港を訪れたチェ・ウニは、滞在先のホテルから姿を消します。
その様子から拉致された疑いがあるとして、
別れてはいたけれど心配だったのか、監督は香港へ彼女を探しに行った模様。

ところが監督も行方不明に。
その後、この監督と女優のコンビによる映画が次々と北朝鮮で製作され、
韓国の人々は、女優は拉致されたのだろうが、
監督は自ら亡命したのではないかと疑います。
だって、映画の製作にはお金がかかる。
金正日ならば、監督の好きなように撮らせてくれるし、金に糸目もつけない。
映画のつくり手として、これほど恵まれた条件はないんじゃないか。

3年足らずの間に監督が北朝鮮で製作した映画は実に17本。
監督の亡き今、本心はどうだったかはわかりません。
しかし、女優の話を聞けば、どれほど怯えながら映画製作に関わっていたかがわかります。

金正日の映画に対する思いは半端ではないでしょう。
だけど、恐ろしすぎる。
物理的な面のみならず、感性までもが洗脳される北朝鮮。
ぶっ飛んでいます。

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『さとにきたらええやん』

2016年11月09日 | 映画(さ行)
『さとにきたらええやん』
監督:重江良樹

数カ月前に観逃した本作がアンコール上映されるとのこと。
今回は絶対に観逃すまいと、十三の第七藝術劇場へ。

どこの土地でもそうであるように、一口に大阪といってもいろいろあります。
別にお高くとまっているわけではありませんが、
北摂に住んでいる、しかも阪急沿線やでというのは、
ちょっとエラそうに聞こえるかもしれないし、実際自慢かも(笑)。

そんな北摂在住者は西成と聞けば「へ~、そうなん」。
上から目線になっている感は否めません。
トヨエツが大阪出身と聞けば、親近感が湧くとともに、で、どこ?
え?西成?う~ん、ちょっとなぁ。そんな感じ。

大阪人であってもカルチャーショックを受けずにはいられない、
大阪市西成区釜ヶ崎。日雇い労働者が集まる街。
ここで38年にわたって活動を続ける“こどもの里”、通称“里(さと)”。
釜ヶ崎の子どもたちに健全で自由な遊び場を提供したいとの思いから
1977(昭和52)年に釜ヶ崎の中心にある萩之茶屋に設立された施設。
本作は里の子どもたちや職員たちに密着したドキュメンタリー。

誰でも利用できます。利用料は要りません。土日祝も開いてます。
生活相談、教育相談、なんでも聞きます受け付けます。
子どものみならず、お父さんお母さんの休息の場であり学習の場。

多くの子どものなか、本作で特にその姿を追いかけられているのは、
5歳のマサキくん、中学生のジョウくん、高校生のマユミちゃん。

発達障害を持つマサキくんに手を上げてしまうからと、母親が預けに。
母親自身が、育った環境による苦しみを抱えており、
里の職員たちが彼女の支えとなっています。

見た目は健常児のジョウくんは、知的障害があると言われたことを理解していて、
そのことに強いコンプレックスを抱いています。
学校の交友関係に悩んでいらだち、弟妹に暴力を振るってしまうことも。

小学生のときからずっと里の住人であるマユミちゃん。
ギャンブルなどに依存する母親とは一緒に暮らせません。
里にいるおかげで料理や洗濯等、家事ひと通り、ばっちりこなせます。
高校卒業後は老人ホームへの就職が決まったばかり。

マユミちゃんの母親を見ていると、どうよこの親と思います。
里がマユミちゃんのために作った通帳なのに、母親はそれを無心する。
そんな母親が娘に望むのは、「人の心の痛みがわかる子になってほしい」。
どの口が言うと私などは思ってしまうのですが、
マユミちゃんはたまに帰ったときにお母さんが料理を作ってくれるのが嬉しいと言う。
あんなに料理上手のマユミちゃんなのに、「そら作ってもらうほうが美味しいやろ」。

“デメキン”の愛称で皆から慕われる、施設長の荘保共子さんをはじめ、
スタッフの皆さんには頭の下がる思いです。
この思いは、『みんなの学校』(2014)を観たときと一緒。

最初のシーンでは補助輪を取った自転車でヨレヨレ、
ほとんど脚を地に着けて漕いでいる状態だったマサキくん。
最後の快走シーンにニッコリしてしまう良作でした。

ココロとフトコロ、寒いときこそ胸を張れ。

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『インフェルノ』

2016年11月08日 | 映画(あ行)
『インフェルノ』(原題:Inferno)
監督:ロン・ハワード
出演:トム・ハンクス,フェリシティ・ジョーンズ,イルファン・カーン,
   オマール・シー,ベン・フォスター,シセ・バベット・クヌッセン他

前述の『PK』の余韻に浸りながら、TOHOシネマズ梅田別館アネックスへ移動。

宗教象徴学者ロバート・ラングドンの活躍を描く、
ダン・ブラウンのベストセラーシリーズ第3弾。
前2作の『ダ・ヴィンチ・コード』(2006)、『天使と悪魔』(2009)と同じく、
監督はロン・ハワード
けっこう本は読んでいるはずなのに、前2作は原作未読。
いまさら本作の原作だけ読むのもなんだかなぁと思い、これも未読で突入。

いつのまにか意識を失ったロバート・ラングドンが目覚めたのは、
イタリア・フィレンツェにある病室の一室。
担当の女医シエナ・ブルックスによれば、ラングドンは2日間眠っていたとのこと。
その間の記憶がほとんどなく、自分がなぜ怪我をしているのかもわからない。

やがて受付から連絡があり、地元警察が事情聴取に来たと言う。
ところが警官のはずの女性がいきなり発砲。
シエナはラングドンに肩を貸して病院から脱出、なんとか彼女のアパートへ。

ラングドンの服のポケットにはペンライト状の小型プロジェクターが入っていた。
映し出されたのは、ダンテの新曲『地獄篇』を模したボッティチェリの「地獄の見取り図」。
ボッティチェリのオリジナル図にはないはずの文字が記されているのをラングドンが発見。
それについて追究するうち、ダンテのデスマスクの持ち主ゾブリストに辿り着く。

ゾブリストは大富豪の生化学者で、すでに投身自殺していた。
彼の主張は、人口爆発を防ぐためには一旦人類を滅亡させるしかないというもの。
数日間で人類を滅亡させるほどの威力を持つウィルスを生成し、
自殺間際にどこかに隠したらしい。その隠し場所の唯一の手がかりがデスマスク。

ラングドンとシエナはデスマスクを収蔵するミュージアムを訪れるが、
デスマスクは盗難に遭っていた。
しかも防犯ビデオを見てみると、そこにはラングドン自身が盗む姿が映っていて……。

以下、ネタバレを含みます。

警官もどきは警備会社の社員で、ゾブリストはそこの顧客。
顧客を守るためならば殺しも辞さない警備会社です。
まずラングドンとシエナを追うのがこの警備会社。
そして、ウィルスの拡散を止めるためにふたりを追うのが世界保健機関(WHO)。
WHOの中には、ウィルスをこっそり横流しして儲けようと企む者もいるし、
盗みを働いたことになってしまったせいで、地元警察もラングドンを追います。
アクションものとしてはそこそこスリルがあって面白い。

しかし謎解きの面ではどうだか。
ラングドンの知識は前2作同様発揮されるものの、なんだかイマイチ。
娯楽性に富んでいることは認めます。
だけど、これってつまりは単なるテロリストの話でしょ。
ゾブリストの協力者は誰だったのかが明かされても全然ビックリしない。
あっ、やっぱりそうだったのてな感じで。
いい味を出していた警備会社の社長役イルファン・カーンがあんな殺され方なんて(泣)。

本作で私がいちばんグッと来たのは、老いらくの恋の話。
「大切にしないと、恋は散る」。

しかしトム・ハンクスは相変わらずやりますね。
『ハドソン川の奇跡』の次がこれだなんて。
本作のポスターを見た人が「今度は普通の年の人してる」と言っていたのに笑いました。

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『PK』

2016年11月07日 | 映画(は行)
『PK』(原題:PK)
監督:ラージクマール・ヒラニ
出演:アーミル・カーン,アヌシュカ・シャルマ,サンジャイ・ダット,
   ボーマン・イラニ,サウラブ・シュクラ他

めちゃめちゃ良かったインド作品『きっと、うまくいく』(2009)。
その監督ラージクマール・ヒラニと主演アーミル・カーンのタッグふたたび。
観たい映画目白押しの秋ですが、これだけは絶対観逃したくない。
迷わず大阪ステーションシティシネマへ。

インド・ラージャスターン州に着陸した宇宙船から降り立ったのは、
はるか彼方の星からやってきた宇宙人男性。見た目は人間そのものだが素っ裸。
首からぶらさげたペンダント風のものが宇宙船と交信するためのリモコン。
自分たちと見た目を同じくする生物が暮らす地球の見学にやってきた。
偶然その場を通りかかった男性は、素っ裸で無邪気に微笑む男を見て唖然。
しかし次の瞬間には美しく輝くペンダントに目を奪われ、
いきなり素っ裸の男の首からペンダントをもぎ取り、逃走する。

同日のベルギー
テレビ番組の制作について学ぶために留学中の女性ジャグーは、
敬愛する詩人の講演会へと駆けつける。
ところがチケットは完売、仕方なくダフ屋から買おうとしたところ、
同様にチケットを求める男性サルファラーズと一悶着。
結局まったく別の人にチケットをかすめ取られ、ふたりとも憮然とするが、
これをきっかけにふたりは恋に落ちる。

ジャグーはインド人、サルファラーズはパキスタン人。
宗教を異にする相手との恋は御法度だと、ジャグーの両親は大反対。
勘当覚悟でジャグーはサルファラーズと結婚することに決めるが、
翌日挙式しようと約束した場所へサルファラーズは来なかった。

6カ月後。ジャグーはデリーテレビ局に就職、レポーターとして活躍中。
だが、あまりに内容の薄いネタにうんざりとしていた。
そんなときに見かけたのが、妙な格好をして「神様が行方不明」というチラシを配る男。
もしやネタになるのではとその男への取材を試みることに。

“PK(=酔っぱらい)”と名乗るその男が言うには、
「自分は宇宙人で、宇宙船と交信するためのリモコンを失ったせいで帰れない」。
そんな馬鹿げた話を信じようとはしなかったジャグーだが、
PKと過ごすうち、信じざるを得ない出来事を目にして……。

社会派のドラマでSFでラブコメディ。どんだけいろいろ盛り込むねん(笑)。
153分あっちゅうま。笑って笑って最後は嗚咽するほど泣きました。
近ごろ「歌って踊らないボリウッド」が増えてきましたが、これは多少は歌います踊ります。
そしてそのシーンのなんと楽しいこと。

世界にはさまざまな宗教があり、それぞれ神様がちがう。
祈る神がちがうというだけで、なぜこんなにも人は争うのか。
PKの素朴な疑問に、ホントだ、なぜだろうと考えている自分がいる。
彼と導師のやりとりに笑いつつも深く感じ入り、
平和を願ってやまない監督のメッセージがひしひしと。

『きっと、うまくいく』のほうがより好きではありましたが、
この監督の作品はやっぱり素晴らしい。これを観ないなんてもったいない。
今年のベスト1かもしれません。

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